下ネタクイズ
まず言わせてもらいたいのは、不快なニオイで存在位置を確認できるヤツには大抵ロクなヤツがいないという事だ。
稀に物凄く良い人でなんか臭い人とかいるけど、それはしょうがない。
フェロモン凄いっすね、と、グッと堪えて然るべきである。
イレギュラーな事例はさておき、圧倒的なメンマ臭でドアを開けようとしているソイツは、どうしようもなく前記の匂いがプンプンする。
臭いに怯んだ私の前に、芋アナがスッと進み出た。
T字箒を持つ彼女の手に力が入る。
私も余りの不気味さに彼女の頼もしい背中に思わず隠れさせてもらいながら、全身に力を入れた。
ガラガラッ! とドアが勢いよく開き、原因が性病かなんかしか思い浮かばない程度に不気味な緑色の中年太りが現れた。
顔には見覚えがある。
やっぱりお祭り前に遭遇したアイツだ!!
相変わらず繋がった太い眉毛に不快感が募る。
無駄に不気味可愛いどんぐりまなこが見開かれ、私達乙女を貪る様にガン見すると、テラテラ光って歪んだ。
「バアアアア~ッ!! 問題じゃ~!! 『あられもない姿で激しくぶつかり合って、出したら終わり』な事と言えばな~んじゃ☆」
「ぎゃああっ!?」
薄暗い廊下を背に、私達のいる放送室の明かりを受けて、ソイツはいきなり下ネタクイズを吹っ掛けて来た。
「おったまげた! とんでもねぇのが出て来たぞ!!」
イヤイヤ、私は貴女の度肝発言にもおったまげるよ!?
私なんて声も出ないのに、肝が据わってて凄いよ!!
「チッチッチッチ……ホレホレ、時間がないぞよ!!」
両腕を大きく広げ、左腕を徐々に上げる仕草は……まさか、秒針!?
待ってよ、そのカウントお前次第じゃない!?
思ったよりリアクションが素早く大きい事にも、気圧される。その前に臭い。
てゆーか、あああああ……コイツの下半身……!!
私は『やっぱりか……!』という無念な気持ちで奴の下半身を見た。
緑色の下腹が乗っかって、チャームポイントの『ヘソ下小振りリボン』が隠れちゃってる……。
可愛いフリルには何故か所々くっつきムシが付いちゃってるし、なにより、ピッチピチだ……。
お嬢様……。貴女……そんなに伸びたんだね……。
お嬢様は伸びすぎて、薄いピンク色が更に薄くなっていた。
おいたわしやお嬢様……!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ・・・・・
愕然とする私に、儚げな声がする。
―――りおな……里緒奈……。
そ、その声は……!?
―――そう、フローレンスです……。
誰!? ごめん、誰だって!?
―――パンツです。
お嬢様……!! え……? 私、なんで貴女の声が……!?
―――妖怪と触れ合う事でわたくしの声が聴こえる様になったのですね……。里緒奈、わたくしはもう……耐えられない……。
え……、待って。なんか今お嬢様が凄い事言った。
―――お願い、里緒奈……。一思いに……わたくしを……。
おじょ、お嬢様……!?
―――お願い、一思いに……。
お嬢様……!!
ーーー火葬がいい……。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ・・・・・
……そうだよね、私だって立場が同じだったら一思いに存在を無かった事にして欲しいよ!
わかったよ、お嬢様!!
「ウィッウィッー!! 時間切れじゃ~ッ!! 『すぐ立ってしまうモノ』はな~んじゃ☆」
性病緑色の中年太りが、意味も無くピョーンとご機嫌に跳ねた。
うわ……心底怖い……。お嬢様、ちょっと約束は無理かも知れない……。
「良いのう、おまーさんたぁ~のその表情……なんぞこう……心の底からゾクゾクするのじゃウィッツィーッ!!」
謎の奇声を上げながら、緑カッパがウキウキで近寄って来た!
「ぎゃあああっ! 来ないで!!」
「しっしっ! アッチへ行けゾ妖怪!!」
私も芋アナも、手に持った掃除用具をブンブン振り回して威嚇した。
それに対して、緑ガッパは超喜んだ。
「ムホーッ! 勇ましいのうっ! ホレホレ、コッチからじゃぞっ♪ コッチもどうじゃ!?」
完全に興奮している緑ガッパ、右へ左へ、私達の掃除用具を翻弄する。
「ひいいぃぃっ!!」
まともに変態とやり合った事の無い私、完全に頭の中がパニックだ。
コイツを前にしたら、カパ彦の奇行なんて小学生の学芸会だ。
カパ郎……!! どこに行っちゃったの!?
変態はココだよーーー!!
カパ郎早く、早く助けに来て!!
私と芋アナが背中を預け合って、シュバシュバ動き回る緑ガッパ相手に掃除用具を振り回していると、ふと緑カッパが動きを止めた。
「……?」
「ど、どうしたんだろか……?」
「……否、芋野アナ、何かする気だ……気を付けて……!!」
緑ガッパは、自分の垂れ乳を片方両手ですくって、揺らしながらこちらを見た。
「乳」
「……」
「……?」
何のアピールだろうか?
今までこんな汚い乳は見た事が無い、位しか思えないのだけど……。
「ワイは見せたのじゃ……」
「……は?」
まさか……まさか……。
スッと、緑ガッパが両腕を上げ、人差し指を二本、天井へピンと向けた。
「ワイは見せたんじゃ、おまいらのも見せんか~! 男女平等!! 天井天下唯我独尊!!」
ヤバイ、変質者の常套句だ。
完全に変態に火が点いている。
でも、天井天下のポーズ違う!
やっぱ妖怪だ、仏の教えなんてテンで分かっちゃいなのだ!!
「乳を見せるか、相撲をとらせるのじゃ~!!」
「うわあああぁぁ!?」
俊敏に間を詰めて来る緑色の変態に、私達乙女はなす術も無い。
芋アナが振ったT字箒が、飛び掛かって来た緑カッパのスネに直撃した。
「ぬああっ……!?」
机やら椅子やらを巻き込んで、派手に倒れ込んだ緑カッパ。やった!!
でも、なんか……。
「ふぃい~♡ オナゴからの打撃は良いのぅ~」
ヤバい。オナゴからのアクションは全て気持ち良く吸収する『もっと』タイプだ……!
コイツは無敵なのか……!?
ゆらりと恍惚の表情で立ち上がった無敵変態、果敢にも立ち向かって行った芋アナのT字箒を、気持ちの悪い水掻きのついた毛むくじゃらの手でとうとう捕まえてしまった!!
「い、芋野アナ―!!」
叫ぶ私に、芋アナが何とか振り返る。
「りおなさん、逃げて……!!」
「……! 芋アナ……っ!」
きっと、きっとこの為に、芋アナは変態に向って行ったんだ。
私に逃げる隙を作る為に……!!
そうこうしている間にも、芋アナの顔に変態の突き出されたくちばし? が迫っている。
「ひぃぃっ!? い、芋アナ……!!」
「……くっ!!」
「ウィッウィッ、頂きまんじゅうこしあんアン~♪」
「やめろーーーーっ!!」
私はチリトリを振りかぶって変態に突進した。
私はどちらかというとヘタレな女だけど……!
出来るだけイヤな事は避けたいし、結構見て見ぬフリとかも器用にするタイプの小狡い女だけど……っ!
友達を変態の腕の中に置いて行ったりとか、しないんだから!!
でも、変態の方が早かった。
私が芋アナを助けに行く前に、芋アナの悲痛な叫びが放送室に木霊した。
「きゃああああーーーー!! いやぁっ!!」
あろう事か、このゲスカッパ、芋アナの浴衣の襟をむんずと掴み、グイッとひん剥いたのだ……!!
なんてこった、最初から最後まで笑えなくなって来た。
これはもう立派な性犯罪じゃないか。
なんとしても戦わねば……っ。
歯を喰いしばって下衆の極み変態を睨み付けると、奴は動きを止めていた。
「!?」
奴の視線の先―――芋アナのおっぱい―――を辿り、私はハッと息を飲む。
屈辱に顔を歪めている芋アナの、露わになった浅黒い(芋アナは肌が地黒だ)おっぱいは、つるペタだった。
否、つるペタというより、これは……。
私が目を見張っていると、変態カッパがブルブル震え出し、「かぴゃーーーーっ!?」と悲鳴を放送室中に轟かせた。
緑カッパの「ウィッツィー!」はスーパー〇リオのヨッシーに乗った時の音に近いです。




