里緒奈カッパ
「だべさ」などと喋っている地域を無意識に馬鹿にしていた私は、祭りの規模が案外大きい事に驚いていた。
もしかしたら、年に一度の唯一の楽しみなのかもしれないけれど、熱の入れ方が街の子供会の非じゃなかった。
出店は少ないし、提灯の灯りも足りてない。
人だって、芋を洗うよう! とまではいかないし、若者たちが集まって血気盛んというモノでも無い。
なのに、なぜか厳かで熱い「祭!」を感じるのだった。
私は熱気にカッパ祭りの伝承を思い出す。
「本気で楽しもう」。
そう、彼らは命を賭して「本気で楽しもう」としたご先祖様を模しているのだ。
命の炎を最後まで明るく燃やそうとした村人たちの末裔なのだ!
恐るべしカッパ祭り。
あと、『鴨かも浴場』浴衣率が高かった。
どうやら『鴨かも浴場』が宣伝を兼ねて配っている様だ。
しかし、私からしたらそんな事はどうでも良いのだった(特に『鴨かも浴場』)。
点在する夜店や提灯の、ほの暗い明かりに照らされたカパ郎がカッコいいのだった。
「中心部の櫓が毎年見事じゃでの、まずはそれを見よう」
と、カパ郎言うので、彼に連れられて櫓を見に行った。
四柱に置かれた松明の炎が、予想以上に大きくて立派な櫓を照らしていた。
「うわぁ」
「今年も立派じゃのう」
感心ながらカパ郎と二人で見上げれば、櫓のてっぺんから提灯を吊るしたロープが何本も四方へ渡してある。目で辿っていると、どうやらとても長い様で、カパ郎が言うには役場や、公民館兼集会所、公園、幼稚園や小学校など各場所に建てられた櫓へと、提灯が道標の様に渡されているんだそうな。
「皆好きな所や、家の近くを選んで踊るんじゃ」
「へぇ。カパ郎はいつもどこで踊るの?」
「気の向くままじゃ」
風来坊みたいっ、素敵っ! と思いつつも、村にはいないこんな超絶美青年が現れて、村の娘たちはキャーキャー言わなかったんだろうか? と、頭の隅っこで気になった。
都会の肉食女子だったら、速攻で特攻するのに。本当にカパ郎が山のカッパで良かった。
そんな事を思いながら、「どこで踊ろうかのぅ」と、のほほんとしているカパ郎にデレデレしていると、ハッピを来たオジサンがニコニコして寄って来た。
「こんばんはですー、楽しんでってくんさいっ! これ、良かったら着けてくんさいっ」
そう言ってオジサンが唐突に私達へ差し出した物を「なになに?」と見てみると、カッパのくちばし? だった。薄いゴム素材のくちばし? の両端に、輪ゴムが付いている。
結構リアルでちょっと引いた。
「……え」
「カッパ祭りはのぅ、カッパになりきって遊ぶ楽しみ方もあるのじゃ」
「おお、お若いのによう知ってござったナ! サ、サ、良かったら着けてくんさいっ」
「え、ちょ……」
『良かったら』って言ってる割に、めちゃめちゃ強引にくちばし? を人に着けようとするってどうよ。
やめろジジイッ、髪が乱れる!
耳で輪ゴム、パチンッてしないで! 痛い! 痛いから!!
周りにいないじゃん! カッパの人全然いないじゃん!!
だからか!?
若いからノリで着けるとでも思ってるのか!?
都会人らしく表情で「イヤ」を出しているのに、ハッピのオジサンには全然効かない。
彼はカッパ祭りを盛り上げたくて仕方がないのだ。
でもまずは村人に押し付けて!?
「いや、あんまそういうのは……」
「なんでです? なんで? 似合うよ、似合うよホラ! ホラ!」
押しがツエェェェ~! な、オジサンに結局見事にカッパにされてしまったけれど、臭い。くちばし? すっごい臭い!
ちょ、コレ前回の使用者誰なの?
「さっきまでオイチャン(俺)が着け取ったけンど、良いよ。いっぱいあるからナ!」
っちょーーーーーーいっ!?
オジサンの手が離れた隙にすかさずくちばし? を取ろうとした矢先、カパ郎の「可愛いのじゃ」と言う声が降って来た。
見ればカパ郎は自らくちばし? を着けて、にこにこしている。
か、カパ郎、それ本来の姿だよね!?
人間に化けた意味ないじゃない……。
で、でもなんだろう……。
私は、なんかこのカパ郎の方が落ち着くのだった。
それに、今……。
「カッパのりおな、可愛いのじゃ」
「ほ、ほんと?」
そんな事を言われたら、外すワケにはいかない。
けど、待って。臭い。
「あの……別のヤツ貸してください」
「ああ、イイよぉ! ホレ、ピンクのもあるかンな!」
「……普通ので……」
ピンクのはたらこ唇になるのがイヤだったので、丁重にお断りし、さて。
こうして私はカッパになった。
「良く似合うのじゃ」
「そ、そう……? ありがとうカパ郎。カパ郎は……ええと、いつも通りだね」
「おう、ほいじゃでの、別に人間に化けんでも良い位なのじゃ。けンど、甲羅が盛り上がってしまうでのう……」
「そっか~」
「そうなんじゃ。それにしてものぅ、初めておう(会う)みたいじゃ、なんぞ照れるのぅ」
カパ郎のテンションがどことなくいつもより高いのが、嬉しい様な、寂しい様な……。
イヤイヤ! カパ郎が嬉しいなら、里緒奈カッパも嬉しいのだ!!
そうこうしている内に、太鼓が鳴って、軽快なリズムを響かせ始めた。
それを追う様に高い笛の音がお囃子曲を奏でる。
おお、お祭りだぁ。生演奏じゃないのはご愛敬だけど。
いつの間にか櫓の周りに人が集まって、輪を作り始めたのを見て、カパ郎が私の手を取って引いた。
「私、踊り知らないよ!」
「教えてやるのじゃ、来るのじゃりおな!」
こうして二匹のカッパとなった(一人は本物だけど)私達は、提灯の灯りと踊りの輪の流れに紛れ込んだ。
なんだか、内緒で人に化けて紛れ込んだ悪戯カッパの気分になってきて、カパ郎と微笑み合った
(くちばし? は歪まないんだけどね)。
カッパだけど人間のフリしたカパ郎と、人間だけどカッパのフリした私。
偽りには違いないけれど、今だけは分け隔てが無い様な、そんな気がして嬉しかった。
「俺の後ろに付いて、振付を真似するのじゃ」
「うん」
「なぁに、簡単じゃ」
私とカパ郎、その他大勢の櫓を囲む人々のスタンバイオッケーの空気に、櫓に括られたスピーカーから聞き慣れた明るい声がした。
『じゃあ、今から音頭流すかんな~! 皆楽しんでケロな~!! ばっちゃんじっちゃんは飛ばし過ぎるでねぇど? 夜は長いかんな!』
「ね、ねぇ、今の、芋野アナじゃない?」
「おお、確かにそうじゃのう。祭り中も仕事とは、熱心なお方じゃあ」
確かに芋アナの声だった。
芋アナが祭りに来ている!
ローカルって馬鹿にしてたけど、テレビに映ってる人見たい!
ミーハー心から中継場所を探せど、この辺りでは無い様で、私はちょっとガッカリする。
カパ郎も「どこから声がするんじゃろうなぁ」と残念そうだった。
私たちの『芋アナに会いたい!』を他所に、『いっくぞー♪』と芋アナはテンションアゲアゲだ。
彼女の合図の後、お囃子から唐突に『ブツッ・キーーーーン』とスピーカーが鳴り響いた。
『あんれ、これどこ押すのん?』
『「再生」じゃ、「再生」!』
『だから、それどこ押すのん?』
『三角じゃ!』
おおいっ、音声さん! お祭りロマンチカをぶち壊さないで!
音声係さんのモダモダに、私もモダモダさせられる。
三角マークだよ! 大きいからわかるデショ!?
『これかのぅ……』
ブツッ……きゅるきゅるきゅる……
い……ど……の・そ……こ……タ・ス……けぇ……きゅるきゅるぎゃーす……
「!?」
『アホッ! 助さん、そりゃ逆再生じゃっ!』
『なんじゃっ、もうなんぞわからんわいっ』
助さんがもういやんなっちゃってるけど、今の逆再生、凄いメッセージが流れた様な!?
皆全然動じていないし、私だけ!? 私だけ聴こえちゃった!?
『助さん、あきらめんなっ! ラジカセっちゅーんは慣れれば簡単だからっ! ほれ、ココだ、ココ……(ゴソゴソ……)』
『おお、なんじゃ、こんなことかいな(膝だか額だかを打つ音)』
音声側の紆余曲折を一通り聞かされた私たちは、ようやく流れ出したお祭りの音頭に再び動きを取り戻す。
『皆ごめんな! 不慣れだけんど、一生懸命がんばるかンな! 楽しんでってケロ!』
その場にいない芋アナに向って――要はスピーカーに向って――、お年寄りも若者も、子供だって。笑って『おーっ!』と返事をした。彼女の明るい一言で、場が盛り返ったのだ。
芋アナ……。あんた凄いよ。私も語尾に「ケロ」ってつけたい位だよ。
よおおし! 一方的に知ってるだけだけど、私、芋アナの気持ちに報いて見せる!!
さぁ、夜が明けるまで楽しむぞ!!
覚悟しろカッパ祭り!
私は前で楽しそうに踊るカパ郎の、大きな背中を追いながら、鼻息を荒くして祭りへのスタートを切ったのだった。
昭和生まれが書いています。ラジカセとか、すみません。




