ロッジへ
一升瓶を五人で割っては、酒豪里緒奈ちゃんとカッパ達をほろ酔いにもさせられなかった。
それでも瓶を空けると皆満足そうにして、「おぬしら今日は何するんじゃ~?」などとダラダラ喋ったり寝転んだりし始めた。
私もついついつられて、「ふぃ~」とカパ郎にもたれてグダグダしかけ、ハッとする。
な、なんだこれっ。まんまとカッパペースに乗せられているじゃないかシット!
カパ郎との甘い時間が、カッパ衆とのグダグダな時間に吸い取られまくっている。
カッパ共め、時間泥棒過ぎる。
私にはこんな事をしている暇は無い。明日はお祭りに行くんだから、お嬢様パンツを干しに行かなくては!!
そして今度こそ、今できる限りの装備でカパ郎とのニャンニャンに挑むのだ!!
一刻も早くお嬢様に日光浴を!!
「カパ郎、のんびりしているところ悪いんだけど、そろそろ洗濯を干しに行きたいからロッジへ連れて行ってくれる?」
「おお、そうじゃったの。ほんなら……」
カパ郎は皿を手に取り、さっきやったみたいに再び水の中に突っ込むと、雫を垂らしている皿をヒョイと頭に乗せた。
濡れたお皿から滴る水が、彼の髪を濡らし眉間の間やこめかみの辺りをタラリと流れて行く様は、正に水も滴るなんとかだ。
「カッパに戻るの?」
「そうじゃ。人間の姿じゃ、りおなを抱いて泳げんのじゃ。やれん事はないんじゃが……水掻きが無いでの~」
「オリが運んでやろうかの?」
カパ彦がメガネをクイッとさせて申し出た。
「泳ぎなら得意じゃぞ。オリもカッパじゃからの」
カパ彦のアホは、やろうと思えば表面上は『オナゴと密着? ハッ、興味ありませんよ』というクールな表情を作れる素材を持っているけれど、もうそんなもの私には通用しないぞ。
「カパ彦が全力でイヤです」
「いきなりオリ自身を全力で否定!?」
「ほんならオイが」
「いやいや、ナハーの方がグラグラせずに泳げるのじゃ」
なんかモテて? いるけど、残念ながらオナゴに飢えたカッパなところが悲しい。
「いやあのね……」と私がカッパ達の勢いに押されていると、カパ郎がグイと私の手を引た。
彼は三バカトリオから私を遠ざけると、
「お前達と言えど、りおなには指一本触れさせんのじゃ」
と、ビシッと言った。
私は自身の録画・録音機能の『死ぬ瞬間これ再生リスト』にしかと彼の台詞と表情を刻み込む。再生機能が故障しませんように!!
こんなシーン、自分に訪れるなんて思わなかった!
たとえ私を囲む男達がカッパ&二分の一の確率で全裸だとしても、お釣が来るぐらいだ。
「しかし変身は一日一回じゃろ。今日はもういいんか?」
「え、一日一回なの?」
カパ郎は安心しろという風に私に微笑んだ。
なんだかなんとなく寂しげだったのは、私の気のせいだろうか。
「祭りは明日じゃし、問題無いのじゃ……」
それから小さく「すまんのじゃ」とカパ郎が言った気がしたのだけれど、
「そうじゃカパ郎、祭りは明日なのに浮かれおって」
「りおなどんに早く見せたかったんじゃろ~」
「エロガッパじゃの~」
「う、うるさいのじゃ!!」
といった、わちゃわちゃに掻き消されてしまった。
私は、「一体何を謝ったのだろう?」と一瞬気にしつつ、人間バージョンからカッパバージョンへ変身しようとしているカパ郎を見守った。
カッパに戻る時に夏雪葛はいらない様で、カパ郎が『カッパ』と言うとシューンと呆気なくカッパに戻った。
戻る時はえらく雑ではないか、今後この解身術の件は省略だな、と思いつつ、カパ郎を見れば、くちばし? や、小さな甲羅がある姿で立っていた。
ああ、カパ郎だ!
何故か私は……否、「何故か」なんて言い方はカパ郎に失礼だけど……何故か私は、カッパ姿のカパ郎に愛しさを感じた。『コレコレ、コレよ!』といった感情だった。
きっと人間の姿を見なければ気付かなかった。
人間の姿もそれはそれは素敵だったけれど……。
ヒョイと私を抱き上げたカパ郎の、ニッコリ歪むくちばし? は、とっても素敵で、なんだかホッとするのだった。
*
世紀のアホ三カッパ達に惜しまれつつ見送られ、カパ郎は私を抱いて川を泳ぐ。
「カパ彦ってアホだねぇ」
「カパ彦はアホじゃあ~」
「春画面白かった?」
「し、知らんのじゃ。見てないのじゃっ」
「いやいや、カパ郎君、それはないでしょ~」
「あ、明日の祭り楽しみじゃのう!? 明日は一人で人間に化けてから迎えに行くのじゃ」
「あ~、話変えた~」
「迎えに行くのじゃ」
「……うん!」
なんて会話をしながら、私はふと思った。
私がカッパに変身出来たら、カパ郎は喜んでくれるだろうか。
そうして魔法が解けて、人間に戻った時に、どう思う?
この姿に、さっきの私の様に満足してくれる?
くちばし? も、甲羅も、水掻きも無い、貴方とは違う、この姿を。
川の水は、まだ楽しめる冷たさ。
川面は夏の陽気で明るい太陽の光を反射し輝きながら、平らになったり、隆起を見せたり、渦をまいたり……表情をコロコロ変える。
私はカパ郎の首に巻き付けていた腕の片方だけ、水流に投げ出してみる。
重くてくすぐったかった。
私を引っ張ったけれど、大丈夫。私は、カパ郎に抱かれているから。
「ねぇ、最近分かって来たんだよ。水流の道みたいなの」
「ほうか」
「うん。もうすぐカパ郎は右の方に逸れる」
「そうじゃ。真っ直ぐだと、下に引き込む流れがあるんじゃ」
「危ないやつだね」
「そうじゃ。でもりおなは俺が抱いとるからの。大丈夫じゃ」
「……うん」
私は腕を伸ばし、水掻きの無い手のひらで、過ぎ去って行く水流を、そっと掻いて割る。
水流は指と指の間を、呆気無く流れ去って行く。
逆流を行く私達の勢いで、時々水が跳ね上がっては、小さな水しぶきや泡が生まれ、背後で音も無く、もしくは川の流れの音に消失の声を消されて、流されて行った。
私はカパ郎の肩越しにそれを見送り、パチンパチンと脆く消えて行くのを眺めていた。
一日一回です。




