表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
311/357

第217話 魔族領突入と遭遇

本話から魔王攻略作戦が開始されます。

 人造生物ホムンクルスの小咲来訪から一夜明け、魔族領に突入する日がやってきた。


「本日は快晴なり。雨じゃなくて本当に良かったな」

「うん!絶好の飛行日和ね!」


 雲一つない空を見上げ、人間形態のブルーが嬉しそうに言う。


 魔王の元まで騎竜ブルーに乗って行くので、雨だとテンションが下がってしまう。

 当然、雨を防ぐ手段は幾つもあるが、雨の空を飛ぶというのは、あまり気持ち良いものではないからな。


「……鎧姿じゃなければ、もっと気分が良いけど、こればかりは仕方ないか」


 俺は女王騎士ジーンとして魔族領に向かうので、専用の鎧である『聖鎧・アルティメイル』に身を包み、腰には『究聖剣・アルティメサイア』を差している。

 どちらも鍛冶師ミミが作り出した逸品であり、白銀の剣と鎧は統一感が素晴らしい。

 魔王を斬る時は『精霊刀・至世いせ』を使うが、人目に付く場所では騎士らしく聖剣と聖鎧の組み合わせで過ごす予定だ。


 如何にジャストフィットの鎧でも、鎧に守られている部分で風は遮られる。

 全力で空を飛ぶ時は、全身で風を感じたい派なので、少しだけ減点が入ってしまう。


A:マスター、包囲作戦組による魔族領の包囲が完了し、現地勇者組が魔族領に突入いたしました。


 ここで、アルタから連絡が入った。


 包囲作戦組とは、さくら達4人を含む、総勢1000人近い配下集団のことである。

 魔王が消えた後、魔族領から魔族が逃げ出すことを防ぐため、『ポータル』を大量設置し、続々と人員を送り込んでいる。監視と戦闘の準備が終わったのだろう。

 余談だが、当初の予定では、500人だったはずだが、気付いたら1000人に増えていた。

 メイド総長であるルセアによると、『緊急の予定がない配下の多くが、スケジュール調整をした結果です』とのこと。


 現地勇者組とは、シンシア、リコ、アスカを中心とした3組の6人パーティである。

 最終試練の相手をするため、エルディア領と魔族領の間にあるパスフィル山脈を陸路で進む。昨日の内に出発しており、俺達よりも先に魔族領に突入することになっている。

 余談だが、シンシアの探索者としてのパーティは4人だが、急遽2名の増員がなされたらしい。一部の配下しんじゃが無理を言ったとのこと。

 また、リコとアスカに固定のパーティは無いので、残る5枠には配下の精鋭が選ばれた。


「準備も終わったようだし、俺達もそろそろ出発しよう」


 現在、俺達はカスタール王城の中庭にいる。

 建前とは言え、カスタールの女王騎士として、サクヤの命令を受けて行動するので、カスタール王城から出発するのは当然のことだ。

 なお、サクヤの命で人払いは済んでおり、ここに居るのは俺、マリア、タモさん、ブルー、サクヤとサクヤのメイド(配下が出向中)だけである。つまり身内だ。


「お兄ちゃんなら大丈夫だと思うけど、くれぐれも無理はしないようにね。マリアちゃん、お兄ちゃんのことをしっかり見ていてね」

「ああ、今回は俺も無理はしないつもりだ」

「はい、お任せください」


 サクヤに言われるまでもなく、今回の俺は安全第一がモットーだ。

 不安があるなら無理はしないし、普段は全力な遊び心も抑える。これも全て、魔王を確実に人間に戻すためだ。


「ブルー、竜形態になってくれ」

「うん!」


 ブルーが着ていたワンピースをスポンと脱ぎ、全裸になって竜形態に変化する。

 あえて言及するが、ワンピースを脱ぐだけで全裸になったということは、ブルーは元々ノーパン、ノーブラだったということである。


 俺は竜形態のブルーに鞍を取り付けて飛び乗る。

 続いて、マリアも俺の後ろに飛び乗り、<無属性魔法>を使って透明化した。タモさんは最初から透明化してくっついている。


「それじゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃい」

「いってらっしゃいませ」×34


 サクヤと数多くのメイド達に見送られ、俺達はカスタール王城を後にする。

 中庭は人払いしているが、空を飛べば城の中、外を問わずその姿は見える。これは、魔王討伐を公表する場合のアリバイ工作である。



 空を飛びながら、アルタから魔族領に関する報告を受ける。


 今まで、俺が魔王に対し不干渉としていたため、配下達も魔族領には近づかなかった。

 どうやら、魔族領とパスフィル山脈はエリアが細かく分かれているようで、パスフィル山脈に入らなければ、マップを使っても魔族領内部の様子は分からないらしい。

 正確に言うと、魔族領の様子は分かるが、魔族の村がパスフィル山脈に付近にはなく、魔族の生態などは分からない、ということになる。

 今回、配下達がパスフィル山脈に入り、魔族領周辺を包囲したことで、魔族の村の様子が明らかになった。残念ながら、魔王城まではマップも届いていないようだが……。


 アルタによると、魔族の村は一見すると普通の村に見えなくも無いが、その目的が勇者のなのが明白だと言う。

 村の周囲に田畑や牧場は存在せず、食料を入手する事はできない。村には商店は一切存在せず、生活必需品すら入手する事ができない。しかし、村の至る所に武器は常備されている。

 勇者一行には、武器以外の物を与える気が無く、弱いとはいえ悪意ある魔族による襲撃を繰り返し、少しでも勇者達を疲弊させようという魂胆が目に見える。


 一番厄介なのは、魔族領において、人間の食べ物を得ることができないという点だ。

 そもそも、魔族は魔族領に居る限り、食事をする必要が存在しない。これは、魔族領に満ちている瘴気が、魔族にとっての栄養源となるからだ。

 故に、勇者一行に利用されかねない食料は、一切村に置いていない。


 『瘴気が栄養源』ということは、魔族が一カ所に集まると、食料を集中的に消費することになるため、魔族は村以上の規模の集落を形成しない。

 また、パスフィル山脈付近では瘴気が霧散するため、魔族の村はパスフィル山脈周辺に存在しない。魔族も、食料の少ない場所には住みたくないのである。


 村程度の規模で勇者を疲弊させられるのか、という疑問が出るかもしれないが、これもしっかりと対策されてある。

 簡単に言うと、魔族の村には半休眠状態の魔族が大量に配置されているのである。

 冷凍睡眠コールドスリープのような状態なので、食料である瘴気をほとんど消費しない。勇者が近くに来たら覚醒し、勇者に突撃するだけの簡単なお仕事をする。

 まさしく、替えの利く道具としての扱いである。……ここまでしても、足止め程度にしかならないのが不憫ではある。


《ここまで道具として徹底していると、殺しても欠片も罪悪感が沸かないだろうな》


 アルタの報告が一段落したので、念話での雑談タイムとなった。


《もしかして、勇者に対する配慮なのかしら?魔族とは言え、普通の村人を殺すのは抵抗がある勇者も居るでしょうし》

《私も勇者ですが、抵抗は一切ありません。仁様の敵なら、殲滅します》

《私は、道具のように扱われていても、人にしか見えない魔族を殺すのは無理です……》

《ドーラはごしゅじんさまがダメっていうからー》


 ドーラは教育に悪いので、人を殺すことは禁止している。ここで言う「人」とは、人類種、魔族、魔石を持たない人型の魔物(例:竜人種ドラゴニュート)のことである。

 なお、俺の近くに居ることが、一番教育に悪いという意見は受け入れない。

 余談だが、止めを刺さなければ良いので、行動不能になるまで殴るのはOKとしている。


《さくら様とドーラさんはそれで良いと思いますわ》

《そうそう、適材適所って奴ですよ。殺戮なんて、ご主人様に任せましょう!》

《まかせたー!》

《ミオは俺を一体何だと思っている》

《え?でも、ご主人様が一番キルスコア高いでしょ?》

《まぁ、そうだが……》


 間違いなく、人を殺した数は俺がトップだろう。

 エルディアと戦争が起きた時、勇者を含むエルディア軍と魔族の大軍を殲滅したからな。


《今回も道中の魔族を殺すから、更にスコアが伸びるし、間違いなく殺戮担当よね?》

《…………》


 どう考えても、殺戮担当を否定できる要素がないね。


《仁様、魔族の殲滅を代わりに行いましょうか?》

《……いや、良い。今回の件はジーンがやらなければ意味が無いからな》

《承知いたしました》


 マリアが気遣ってくれるが、今回の魔王攻略の中心となるのはジーンだ。

 現地勇者組のように、ジーンの協力者としての立場があるならともかく、隠れた護衛として、公には存在しないはずのマリアが事を為すのは良くないだろう。


A:マスター、最終試練のステータスが明らかになりました。


 雑談の途中ですが、ここでアルタから最新情報がお届けされました。

 現地勇者組のエリア移動に伴い、最終試練が存在するエリアの情報が明らかになった。どうやら、最終試練達は比較的パスフィル山脈に近い場所に陣取っていたようだ。


《どれどれ、魔王に従う最終試練のステータスはどんなものかしら?》


 刮目せよ!コレが魔王の支配下となった最終試練達のステータスだ!


武神アスラ

LV251

スキル:<武神術LV10><武神体LV10><完全耐性LV->

称号:魔王の従魔

備考:武を極めるため、世の理を外れた存在。人類に課せられた最終試練の1つ。


<武神術>

武神専用スキル。闘気を纏う特殊な武術を使用できる。


<武神体LV10>

武神専用スキル。武神に相応しい数多くのスキルを含む統合スキル。素手の戦闘に関わるスキルも含んでいる。



美神フレア

LV214

スキル:<美神術LV10><美神体LV10><完全耐性LV-><美神の虜LV->

称号:魔王の従魔

備考:美を極めるため、世の理を外れた存在。人類に課せられた最終試練の1つ。


<美神術>

美神専用スキル。魅力を纏い、放出する特殊な魔法を使用できる。『魅力』のパラメータにより、性能が変化する。


<美神体>

美神専用スキル。美神に相応しい数多くのスキルを含む統合スキル。美に関わるスキルも含んでいる。


<美神の虜>

美神専用スキル。『魅力』のパラメータにより、相手を特殊な状態異常の『虜』にする。『虜』状態はスキル所有者が解除しない限り解除されない。


 最終試練のテンプレがベースだが、しっかりと武神、美神の名に相応しい特徴を持ったスキル構成だ。とは言え、その効果は事前情報を大きく超えていない。

 単純な戦闘力なら、現地勇者組で十分相手になりそうだな。一安心。


《美神の方には、見た事のない状態異常があるが、これは配下達に有効なのか?》


A:いいえ。精神系に分類されますので、<多重存在アバター>により守られていれば無効となります。


 素の状態でもレベルは高いし、変な範囲魔法攻撃をしてくるみたいだけど、一番の武器を<多重存在アバター>の精神防御で完封すれば、相当に脅威度は低くなるだろう。


 余談だが、仮に現地勇者組が敗れた場合、隠れタモさんが回収する手筈となっている。

 そして、勝った最終試練は自由に行動させる。少なくとも、俺が倒しに行くことは無い。


《……ところで、邪神獣ヘルは居ないのか?》


A:まだ、捕捉できていません。魔王城近隣に居るのかもしれません。


 魔王城の番犬なら、魔王城付近に居て当然か。いや、番犬と決まった訳じゃないけど。


《ご主人様的には、モフモフ要因の邪神獣ヘルが一番気になるのね》

《あたらしいモフモフなかまー!》

《でも、性格が悪いとテイムしないんですよね……?》

《ああ、良いモフモフだと嬉しいが、可能性は低いみたいだからな》


 ナーハルティの記憶によれば、邪神獣ヘルは性悪モフモフの可能性が高い。

 許容できない程に性格が悪ければ、残念ながら討伐ボーナスになってもらう予定だ。


《アルタ、この『世の理を外れた存在』って何のこと?今まで見た最終試練には、こんなコト書いてなかったわよね?》


A:前提条件として、最終試練には先天的な存在と後天的な存在がいます。この表記は、後天的に最終試練となった者に付与されます。


 アルタがミオの質問に答えたが、ここで新たな疑問が生まれた。


《そもそも、最終試練ってどうやって生まれるんだ?》


 今更と言えば今更な質問である。

 常人には倒せない最終試練を倒せば、超越者の称号を得られるということは知っているが、最終試練がどうやって生まれるかは詳しく知らない。

 強いて言うなら、イズモ和国の鬼神が人工的な最終試練だと知っているくらいだ。


A:最終試練は、有り得ない程に異常に強い力を持った魔物の事を言います。異常な強さを、正常な強さで超えることで、超越者と呼ばれるようになります。力を持った理由は不明ですが、情報が得られないということは、女神が関わる可能性が高いです。


 なるほど、『アルタが情報を得られない』こと自体も重要な情報と言える訳だ。


《女神に関する『異常に強い力』と聞くと、勇者の祝福ギフトが思い浮かぶわね》

《確かに似ているから、何か関係があるのかもしれないな》


A:武神アスラ、美神フレアの身体から、祝福の残骸ガベージの反応が出ています。両名が過去、祝福の残骸ガベージを体内に取り込んだ事は確実だと思われます。


《コレ、どう考えても関係あるよな》

《あるでしょうね》

《ありそうです……》

《あると思いますわ》


 勇者が死ぬと、祝福ギフト祝福の残骸ガベージとなり、勇者の肉体から離れて他の勇者に取り込まれる。

 もしかしたら、何らかの方法で祝福の残骸ガベージを取り込んだ魔物が、『後天的な最終試練』の正体なのかもしれないな。

 言い換えれば、武神アスラ、美神フレアは勇者の死に立ち会った可能性が高い。もっと言えば、勇者を殺している可能性も高い。

 もしかして、仔神獣が邪神獣に闇落ち進化する要因って……。


《アレ?最終試練達が現地勇者組の方に進み始めたわよ?》


 ミオの発言を聞き確認してみれば、今まで魔族の村に揃って駐留していた武神アスラと美神フレアが、村を出て現地勇者組の方に進んでいるところだった。


 現地勇者組に向かって真っ直ぐ進んでいるので、勘違いということも無いだろう。

 調べてみると、<武神体>に丁度良いスキルが含まれていた。多分、コレだな。


<求道>

所有者が戦うに相応しい相手が近くに居れば、それを認識する事ができる。格上、同等、格下の判定はできない。


 このスキルを持ってパスフィル山脈付近に居れば、勇者の到着をすぐに察知できるという寸法だ。勇者が弱すぎて、反応しない可能性には目を瞑ることとする。


 対する現地勇者組、シンシアパーティとアスカパーティも2体の元へ進んでいるので、近い内に正面衝突するだろう。

 なお、邪神獣ヘル担当と思しきリコパーティはその後方で待機している。



 念話を終え、空を飛びながら待つこと暫し。


A:まもなく、現地勇者組と最終試練が邂逅いたします。


 アルタの報告を聞き、俺は現地勇者組のメンバー1人と視界を共有した。


 今回、現地勇者組のパーティには、補助役を1人入れてもらうことにした。

 <契約の絆エンゲージリンク>を使い、その補助役の視界を共有することで、現地の様子をリアルタイム視聴するためだ。

 折角、勇者と最終試練が戦うのに、その様子が見えないのはあまりにも惜しいからな。

 余談だが、視界共有の対象が補助役なのは、全体の様子が把握するためである。


 共有した視界では、現地勇者組は1組の男女と相対していた。

 …………? ……ああ、なるほど、そういう事か。


「ふむ、強者の気配がするから勇者と思い来てみれば、どう見ても勇者ではなさそうだ。異世界から来る勇者に、人間以外の種族は存在しない」

「あら、それじゃあ、この娘達は勇者でもないのに、パスフィル山脈を越えてここまで来たの?それも、アスラちゃんが気付く程に強いなんて、凄いわねぇ」


 最終試練である武神アスラ、美神フレアの見た目は、聞いていた通り人間とほとんど変わらない。見た目年齢通りの身長であり、身体的特徴も人間の男女と同じだ。

 人として足りない部分も、人にはないはずの器官も存在しない。そして、何故そこまで詳しく分かるかと言えば……。


「……何で、2人は全裸なのです?」


 皆の気持ちを代弁するように、シンシアが尋ねた。

 そう、最終試練の2名は、完全無欠の裸、いわゆる全裸だった。靴すら履いていない。


「あら、決まっているじゃない。ワタシには、隠さなければならない、美しくない部分が存在しないからよ。そして、全身隈なく美しいワタシの姿を隠すことは、世界にとっての損失なの。世界よ、美しいワタシを好きなだけ見ると良いわ!」

「美神は相変わらずだな。我は当然、美神とは理由が異なる。我が何も着ないのは、戦いの邪魔になるからだ。我の肉体の方が強固故、防具は役に立たず、動く邪魔になる。加えて、強者との戦いでは服など破れる方が自然。ならば、最初から着ないのが最適だろう」


 流石、美神と武神の名を冠するだけある。スタンスが滅茶苦茶分かりやすい。


「それで、貴様らは何故ここに来た?ここが魔族領と呼ばれ、勇者以外が来るべき場所でないことは知っているのだろう?」

「そうねぇ。見たところ、しっかり武装しているし、物見遊山ってコトはないでしょうね。もしかして、勇者抜きで魔王様を倒しに来た冒険者とか?」

「いや、装備の色彩が統一されているから、一国の兵士と考える方が自然だ。しかし、勇者を連れず、兵士だけで魔族領に足を踏み入れるとは、愚かな国もあったものだ」


 現地勇者組は女王騎士ジーンの部下なので、それに相応しい装備を身に着けている。

 戦闘スタイル的に全身鎧を着た者は居ないが、要所を守る軽鎧は全員が同じ意匠となっており、一目でパーティであることが分かるようになっている。


「シンシア達は、先遣隊兼露払いなのです。この後、旦……主戦力・・・が来るから、情報収集をしつつ、邪魔な魔王軍を排除するのです」

「ふむ、なるほど。我に感知される程の実力者なら、その重役に相応しいとも言えるな。主戦力である勇者達の消耗を少しでも減らそうという訳か」

「……何のことなのです?勇者はシンシア達なのですよ?」

「貴様が勇者だと? ……種族は人間のようだが、勇者に紫髪など居ないはずだ」


 『勇者』の前に『現地』とか『異界の』が付かないと、話が噛み合わないのである。


「誰が何と言おうと、シンシア達は勇者なのです。それより、2人こそ、何でこんな所に居るのです?もしかして、2人は魔王軍なのです?」


 知っていることでも、知らない体で話をする必要がある。

 正直意外だったのは、シンシアが普通に演技をしているという点だ。


「ええ、そうよ。ワタシは魔王様に仕える美神フレア。美を司る人類の最終試練よ」

「同じく、我は武神アスラ。武を司る最終試練だ。魔王様に仇なすというのなら、これより先に進ませる気はない。我が相手になろう、覚悟せよ!」


 アスラの身体から、ピリピリと空気を震わす程の威圧感が放たれる。

 現地勇者組も強い威圧感を受け、武器を構えて臨戦態勢をとった。


「分かったのです。魔王軍なら戦うのです」

「やはり、この程度で怖気づく者は居ないか。久しぶりに、闘い甲斐のありそうな相手だ。貴様ら、全員まとめて掛かって来ると良い!」


 一切怯まない現地勇者組を見て、アスラの威圧感が更に膨れ上がる。


「あら、アスラちゃんが全員の相手をするの?ワタシも久しぶりに軽めの運動をしたいわ」

「運動ならば、その辺りを走ってくるが良い。闘争なら我を優先する約定だ」

「もう、仕方ないわねぇ。なら、ワタシの美を周囲に広めて来るわ」

「待つのです!」


 全裸で駆けだそうとするフレアをシンシアが止めた。


「なあに?」

「シンシア達の目的は露払いなのです。邪魔になりそうな相手は逃がさないのです」

「ふーん……。もしかして、私が『逃げる』なんて、美しくない真似をすると思っているのかしら?それはちょっと、許せないくらいに酷い侮辱ね」


 本人にそのつもりは無いだろうが、シンシアの発言はフレアに対する挑発となったようで、フレアの纏う雰囲気が明らかに変わった。


「決めたわ。ワタシの美を否定された以上、この子達は皆殺しにするしかないわね。アスラちゃん、悪いけどワタシも戦わせてもらうわよ」

「……仕方あるまい。美しさに関わることなら、美神が優先だ」

「アナタ達、ワタシは逃げも隠れも隠しもしないわ。ここから南に5km程進んだ先で待っているから、アスラちゃんじゃなくて、私に殺されたい娘は追いかけてきてね」


 なるほど、確かに進んだ先で待つと言えば、それは逃げている事にはならないな。

 そして、フレアは振り返ることなく南に向けて全裸猛ダッシュした。速い。怖い。


「フレアと戦いたい者は追いかけると良い。残る者は我が相手になろう」

「どうして、2人で協力して戦わないのです?」

「我も美神も、1人で闘うことに特化しているのだ。他者との共闘は足枷にしかならない。故に、闘うならば互いに距離をとる必要がある」


 両者とも、所有するスキルの性質上、他者との共闘が得意ではないのだろう。

 そもそも、最終試練のように一個体で強力な存在は、共闘する必要も機会も無いから、慣れたり得意になる理由が存在しないとも言える。

 共闘する最終試練なんて、風神と雷神くらいしか覚えがない。攻撃方法が風と雷で互いに干渉しないし、由来的にもセットみたいな存在だから共闘していたのだろう。


「分かったのです。それなら、シンシアはここに残るのです」

「私、向こうでフレアと戦う。ここは任せた」

「任せるのです!任せたのです!」


 どうやら、シンシアパーティが武神、アスカパーティが美神の相手をするようだ。

 アスカパーティ6人がフレアを追い、アスラの元を離れていった。


「半々に分かれるということは、我らの脅威度を同等と見積もったか。ふむ、我の風貌を見て、侮らなかったことは褒めてやろう。我は最終試練の中では小柄な方だから、実力も見抜けずに侮る者が多いのだ」

「人間基準でも相当小柄なのです。どう見ても、幼い少女なのです」


 今更の説明となるが、武神アスラは10歳に満たない少女の姿をしていた。


 最終試練は魔物に分類されるので、見た目の年齢など当てにならないが、幼い少女の姿をしていることは間違いない。

 そして、先にも述べた通り、全裸である。武神アスラは、全裸で凄まじい威圧感を放つ、全裸の少女だったのである。

 余談だが、アスラの強さは見た目に一切反映されていない。腹筋は割れていないし、腕や脚の筋肉がモリモリという訳でもない。ごく普通のプニプニな少女に見える。


 ここで1つ、残念なお知らせがある。

 最終試練は、『1組の男女』なのである。武神アスラが女性だったということは……美神フレアは男性なのである。見た目、20代前半の細マッチョな男性なのである。


 確かに、『美』に性別は関係ないけれど、美神と言われて、オネエ口調の20代男性を想像するのは無理だった。

 そして、先にも述べた通り、全裸である。美神フレアは、全裸でナルシストオネエな、全裸の青年だったのである。

 余談だが、フレアの見た目が整っているのは間違いがない。絵画や彫刻として残っていても不思議ではないレベルだ。全裸なので、教科書には載せられないが……。


 最初に武神アスラと美神フレアを見た時、名前の印象と見た目が一致しなかったので、軽く頭が混乱してしまった。両者が全裸だったのも、混乱に拍車をかけたと思う。


「貴様らが、我のことを言うのか?風貌と年齢に関係のない我と違い、貴様らは正真正銘、風貌通りの年齢であろう?」

「シンシア達は見た目通りの年齢なのです。……あ、ケイトちゃんはハーフエルフだけど、まだギリギリ見た目通りの年齢なのです」


 シンシアが割とどうでも良い情報の補足を行った。

 シンシアパーティの頭脳、ケイトはハーフエルフであり、ハーフエルフは10歳を超えると見た目の変化が乏しくなるのが普通だ。

 今はまだ、『成長が少し遅い』くらいだが、あと数年すれば見た目と年齢の乖離が大きくなっていることだろう。


《シンシアちゃん、敵に余計な情報は与えないでください。それと、ギリギリは余計なお世話です》

《ごめんなのです》


 ケイトに叱られ、即座に謝るシンシア。慣れているのだろう。それもどうなのだろう?


「その年齢で、我の感知に引っかかる程に強いのか。一体、どのような修行をしたのか、気になるところだな」

「それは、だん……秘密なのです!」


 明らかに余計な情報を与えかけたが、何とか自力で踏み止まったシンシアである。


「まあ良い。我が真に知りたいのは、貴様らの強さの秘訣ではなく、強さ自体だからな。さて、貴様の仲間達も十分離れた頃だろう。そろそろ、闘いを始めたいが、構わないか?」

「何時でも良いのです!」

「すぅぅぅぅぅぅ……」


 シンシアが拳を構えたのを見て、アスラが深く息を吸いこむ。

 アスラの身体からオーラが立ち昇り、全身を包み込んだ。これが、<武神術>で説明されていた闘気だな。色々と面白い性質を持っているらしい。


「簡単に、死なないことを願う。武神アスラ、参る!」


 そこまで言うと、アスラの姿が消え、次の瞬間にはシンシア達の立っていた地面に直径10m程のクレーターが出来ていた……ように見えただろう。一般人なら。

 当然、俺の目には何が起きていたか、しっかりと映っている。簡単に言うと、アスラが高速でシンシア達の真上に跳躍し、そこから拳を振りぬき、闘気を放出しただけだ。

 放出された闘気は、地面に衝突して爆ぜた・・・。闘気とは、爆発物なのである。しかも、見ての通り、クレーターを作る程の威力がある。


「ふむ、挨拶代わりとは言え、今の一撃を完璧に避けたか。どうやら、最低限我の前に立つに相応しい実力はあるようだな」


 シンシア達は全員傷一つなく、クレーターの外側に立っていた。

 シンシアパーティも一般人ではないので、アスラの高速移動を認識できるし、放出された闘気を避けることもできる。


「当然なのです!あんな大振りな攻撃、当たる訳ないのです!」


 アスラの攻撃は、シンシアの言う様に大振りだった。

 武術系の高レベルスキルを持っていたら、そんな動きはしないと断言できるものだったので、『挨拶代わり』というのは納得である。


「そうでなくては面白くない。では、続けて行くぞ」

「こっちもなのです!」


 アスラは再び(一般人の)目にも止まらぬ速さで拳から闘気を放出する。今度は無駄な跳躍や大振りもなく、武術系スキルも納得の美しい正拳突きだった。

 放たれた闘気は、先程よりも速く進み、シンシア達に襲い掛かる。威力も先程より高くなっており、直撃すれば(一般人は)跡形も残らないだろう。一般人可哀そう。


 対するシンシア達の動きも、先程とは明らかに異なっていた。

 『挨拶代わり』の時は、シンシア達は攻撃を避け、一か所に集まっていた。しかし、今回は全員がバラバラに動きだしている。


 我らが特攻隊長シンシアは前に進んだ。闘気をスレスレで避けながら、真っ直ぐにアスラに向かって行く。特攻しないシンシアはシンシアじゃないよね。

 カレン、ソウラの双子は、一旦左右に分かれてからアスラに近づいて行く。息の合った連撃で、シンシアの援護とアスラの牽制をするのだろう。


 ケイトと臨時パーティの2人は、それぞれ斜め後ろに跳んだ。

 ケイトの基本スタイルは、低レベル魔法による戦闘のコントロールだ。攻撃力ではなく、タイミングや相性で相手を封殺することを得意とする。

 残る2人は回復役と護衛役である。護衛役は完全な後衛である2人を守る中衛的な立ち位置だ。回復役はその名の通り<回復魔法>等を使う。


 こうして、闘気を避けつつ、役割に相応しい立ち位置の確保が完了した。

 余談だが、俺は回復役の視界を共有させてもらっている。一番、動きが少なくて、全体を見渡しやすいからだ。


「行くのです!」


 最前線を進むシンシアは、走る勢いそのままに跳びかかり、アスラを殴りつける。

 アスラは一瞬の逡巡の後、シンシアの拳を腕で受け止めたが、衝撃を殺しきれず、足で地面を抉りながら3m程後退した。

 しかし、アスラにダメージが入った訳ではない。アスラの闘気は、放出すれば遠距離攻撃となるが、身に纏えば外からの衝撃を軽減する鎧となるからだ。無論、素の防御力が高いことが前提の話である。


「ふっ!」


 アスラがシンシアに向けて蹴りを放つ。跳びかかった態勢、つまり空中にいるシンシアには、本来ならば避けることができない攻撃だ。

 シンシアは<結界術>で空中に足場を作り、二段ジャンプで避けられない蹴りを避けた。


 <結界術>は<勇者>をLV6まで上げると覚えられるスキルであり、高い応用力を持つ、シンシアお気に入りのスキルである。

 シンシアの<勇者>は、災竜討伐に同行させたことで、LV8まで上がっている。

 <勇者LV7>で<草薙剣くさなぎのつるぎ>、<勇者LV8>で<八咫鏡やたのかがみ>を覚えたが、シンシアの戦闘スタイル的に<結界術>が1番使いやすいのだろう。


 シンシアは、二段ジャンプでアスラの頭上を越えながら、頭部を狙って突きを放つ。

 追いついたカレンが左から槍を突き、同じくソウラが右から剣で斬りかかる。正面からはケイトの撃った『ウィンドジャベリン』が襲い掛かる。

 4方向から迫る攻撃に対し、アスラが採った選択は『迎撃』だった。


「はぁ!!!」


-ドンッ!!!-


 アスラは、気合と共に自身の纏う闘気を周囲に放出した。

 より正確に言うのなら、纏う闘気の外側部分を爆発させたようだ。爆発は全て外側に向かっているので、闘気の内側にいるアスラにダメージはない。

 爆風は周囲3mくらいに広がったが、その威力は突きと共に闘気を放出した場合に比べ、格段に弱くなっていた。恐らく、これは本来の闘気の使用方法ではないのだろう。


 接近する3人を爆発に巻き込み、迫る『ウィンドジャベリン』はかき消された。


 しかし、我らがシンシアはその程度では止まらない。

 厚く張った<結界術>により爆発を凌ぎ、アスラの背後をとって再度殴りかかる。


 シンシアに背を向けるのはマズいと判断したアスラは、振り向きざまに拳を出す。

 そして、シンシアとアスラの拳がぶつかった。


-バシッ!!!-


 アスラの拳に込められた闘気が爆発し、2人共大きく弾かれた。


サブタイトルで魔族領突入と言っていますが、主人公はまだ突入していません。

突入したのは、シンシア達先遣隊です。


全裸のナルシストと全裸の武闘派幼女が登場。

人型だけど魔物だから、服を着ないのが普通です。魔族は人だから服を着ます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マグコミ様にてコミカライズ連載中
コミカライズ
― 新着の感想 ―
[一言] 全裸エピソードが続くねぇw
[気になる点] ブルー達の服は体が変わる時に変化できる服とかにならないのだろうか
[気になる点] 他の方が既に言っていたり、既出だったら申し訳ないのですが、拡大解釈を拡大解釈することはできないのでしょうか。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ