第70話 狂化金狐と傾国
今回、ちょっとだけ短いです。そして次回はちょっとだけ長いです。
文字量と話の調整が下手なので……。
部屋でのんびりお茶を飲みながら、マリアの耳を撫でる(極上の暇つぶし)。マリアの耳を堪能し尽した頃に、さくらたちも到着した。
ティラミス、メープル、ショコラの3人は先に屋敷に戻り、ルセアから色々と説明を受ける予定だ。
アドバンス商会の所属っていうことになるから、社会常識など色々と覚えることもあるのだろう。
「へー、この人が<暴食>のせいでセラちゃん状態になってたの?」
部屋に入ってきたミオが、ソファに寝かされているアーシャを見て聞いてくる。
「ミオさん、その言い方、すっごく不服ですわ」
「なるほど、セラ状態か……」
「ご主人様も止めてくださいな!」
セラがものすごく嫌そうな顔をしている。
「とは言え、こいつはセラと違っていくらでも食えるわけじゃない。食欲だけが肥大化して、身体はそのままだから、食いすぎれば腹が破裂して死ぬって、アルタが言ってたぞ」
「うげ……。それじゃあセラちゃんの下位互換ね」
「だから、何故私基準なんですの!?」
「いや、折角の大食いネタだし、セラちゃんを弄らないとって義務感が……」
気持ちは、わかる。
「要らぬ気づかいですわ!」
《おおぐいネタならドーラもまざりたーい!》
随分騒がしくしているが、寝ているアーシャは一向に目を覚まさないな。
A:負担が相当大きかったようです。少なくとも今日は起きないと思われます。
今日中に起きないなら、いつまでもソファに寝かせておくのも可哀想だな。
「今日は目を覚まさないようだし、別の部屋に寝かせてくる」
「仁様、そのようなことはメイドにさせますので……」
アーシャを抱えていこうとしたら、マリアに止められた。
そのすぐ後にメイドが部屋に入ってくる。恐らく、マリアが念話で呼んだのだろう。
「あ、ちょっと待ってください……」
メイドがアーシャを運ぼうとしていると、それをさくらが止めた。
「お腹が膨れて大変そうなので、それを治す魔法を創ります……」
「そうだな。このまま放っておくのも憐れだしな」
よく見るとアーシャの顔色は悪い。『狂化』は治っても、腹が膨れたのが治ったわけじゃないからな。
「<魔法創造>『リフレッシュ』」
さくらが<魔法創造>を発動する。
そりゃ、食べ過ぎに効く魔法なんて存在しないから、新しく創ることも出来るだろう。
<固有魔法>「リフレッシュ」
生理的な不調を解消する。食べ過ぎ、腹痛、頭痛、睡眠不足、筋肉痛など。
魔法による回復であり、多少肉体的に負荷がかかる。1日に1度程度の使用を推奨。
うん、ファイト1発って感じの魔法だね。
「出来ました……。『リフレッシュ』……」
そのままさくらはアーシャに向けて『リフレッシュ』を放つ。
『リフレッシュ』の効果はすさまじく、あっという間にアーシャの腹は普通のサイズまで戻った。顔色も若干だが良くなった気がする。
アーシャがメイドに連れていかれるのを見送った後、俺たちも今日の活動は終了と言うことで、カスタールの屋敷に『ポータル』で転移して休んだ。
ノルクトの商会にある宿泊設備を使っても良かったのだが、俺がいると建設作業の邪魔になるから、屋敷に戻ることにした。
具体的に言うと、メイドたちが俺に気を使って作業を中止していたんだよ。
さすがに建設作業をすると少なからず騒音が出るからな。騒音で俺の邪魔をしたくないそうだ。
翌日、自由行動の最終日。
ショコラの卵を含めた朝食を食べ終わり、今日は何をしようか考えていると、アルタから報告があった。
A:ナルンカ王国を支配していた金狐が『狂化』し、七つの大罪<色欲>の呪印を取得しました。
説明が必要な要素が多すぎて、どんな反応をすればいいのかがわからない。
とりあえず、いつものように順番に聞いていこう。
ナルンカ王国って、これから行くかもしれないって言っていた国だよな。
そこに金狐がいたのか?
A:はい。ナルンカ王国に入国した冒険者のメイドが、マップで確認いたしました。メープルの報告にあった金狐で間違いないと思います。
その金狐がナルンカ王国を支配していたのか?
A:はい。王妃となり、国王を傀儡とすることで王国を実質支配しています。そのせいで税などが上がっていたようです。
よりにもよって、王国を裏で支配していた金狐が『狂化』したのか。
さらに最悪なのは、『狂化』によって取得した呪印が<色欲>と来たものだ。
ナルンカ王国がどうなっているのかが気になるな。
A:現在、『狂化』の影響は王宮内のみで留まっています。その王宮内ではほとんどの人間が『狂化』しており、時間が経てば王宮から王都に広がっていくと思われます。
今ならまだ王宮内の被害だけで済むということか。
狐が好きな俺としては、出来れば金狐はテイムしたい。
そして、どうせテイムするのなら、人的被害が拡大する前にテイムした方がいいだろう。
人は沢山死んだけど、俺は金狐をテイム出来てハッピー……とはならないよな。後味が悪すぎる。
正直言えば、人的被害については今更な部分もあるんだけどな。
メープルの説明によれば、金狐は『人を騙すのが得意』らしい。
そんな魔物が、今までに人的被害を出していないわけがないだろう。少なくない数の悪事に手を染めている可能性もある。
まあ、俺の見てない、知らない悪事に関しては、セーフと言うことにしておこう。
……好きな動物だから、若干判定が甘くなっているという自覚はある。
もちろん、あまりにも性格が悪かったら考え直すけどな。
そうと決まれば、善は急げ、思い立ったが吉日だ。
「今日は金狐をテイムしに行くんだが、誰かついてくるか?」
「はい。仁様についていきます」
集まっているメンバーに質問すると、真っ先にマリアが手を上げた。
まあ、いつものことですね。
「あ、そうだ。これから行くナルンカ王国王宮は『狂化・色欲』が発症中だから、行く、行かないの判断は慎重にな。それと、ドーラは教育上の都合により、お留守番確定だ」
<色欲>の呪印とか、どう考えてもドーラの教育上よくないからな。
無菌栽培をするつもりはないけど、いくらなんでも限度がある。
《えー!ついていきたいよー!》
「駄目だ」
《むー……》
頬を膨らませて抗議してくるドーラ。正直言って可愛いだけである。
機嫌を取るために頭を撫でる。
《えへへー。いってらっしゃい、ごしゅじんさまー。ドーラ、ちゃんとおるすばんしてるからねー》
30秒くらい撫でたら機嫌が直った。チョロい。
「私は……、遠慮しておきます……」
「さくらは不参加だな。まあ、当然と言えば当然か……」
「はい……。多分、見たくもない光景が広がっていると思うので……」
今の段階で金狐の元へ向かった場合、普通の人間ならば見たくもないような光景が広がっているのは間違いがない。
さくらが苦手なのは『グロ』であり、今現在ナルンカ王宮を襲っている『エロ』とはベクトルが違うとも言えるのだが、そんなことは些細な問題だろう。
「私ついてくー」
「私もですわ」
ミオとセラの2人が付いてくると宣言した。
「いいのか?」
「うん、それくらいなら平気だと思う。……色々と感覚がマヒしているみたいね」
「そうですわね。私も貴族令嬢?時代にはそんな話聞くだけでも嫌でしたわ。今は……割と平気ですわ」
2人の様子を見る限り、無理をしているようには見えない。本当に平気なのだろう。
……随分とたくましくなったな。
「3人はどうする?」
今度はティラミス、メープル、ショコラの魔物娘3人組に聞いてみる。
「行きたいのはやまやまっすけど……」
「駄目です」
行きたそうにしているメープルだが、それをルセアが却下する。
「メープルさんとショコラさんは人間社会の常識を知らなすぎます。アドバンス商会の所属となる以上、これからみっちりと勉強していただきます」
「と言う訳っす……」
「と言う訳だ」
「なるほど」
魔物なんだから、人間社会の常識を知らないのはある意味当然だ。
しかし、これから人間の中で生活していく以上、最低限の常識は必要だろう。
「ティラミスさんは主様についていっても構いませんよ。転生者と言うだけあり、最低限の常識は知っていますから」
「んー……、ティラちゃんも勉強するよ☆ 2人だけ置いていくのも悪いし☆」
「ティラミスがいるのは心強いっす」
「ああ、一緒に頑張ろう」
と言う訳で、魔物娘3人はお勉強により不参加になった。
一緒に行くのはマリア、ミオ、セラの3人だな。平たく言えば初期奴隷組と言う訳だ。
ササッと準備をして、『ポータル』によりナルンカ王国王都のナルンへと転移する。
正確には王都ナルンの門から少し離れた位置にある『ポータル』に転移した。
「申し訳ありません。本当でしたら拠点を構えてからお呼びしたかったのですが……」
冒険者メイド(服装は普通)の1人が、申し訳なさそうに言う。
「いや、俺の方が望んで来たんだから気にするな」
「わかりました。では私が先行して王都に入り、『ポータル』を設置してまいります」
「いや、ここまで来たんだから、そのまま街に入るよ」
確かにその方が楽だが、ただ待っているくらいなら、自分で歩いて街に入る方を選ぶ。
「では、王城の中に『ポータル』を設置してまいります」
「余計に色々飛ばしているぞ」
「ですが、ご主人様の手を煩わせるなど、メイド失格です」
「自分で望んでいることだ。手を煩わせているわけじゃない」
「……了解いたしました。では、私達は別口で街に入ります」
「ああ、そうしてくれ」
そのまま冒険者メイドと別れて門へと向かう。
冒険者メイドはしばらくしたら王都に入るようだ。
「本当に奴隷メイドたちはご主人様にダダ甘ね……」
「随分と慣れましたわ」
「ルセアさんがしっかりやってくれているようで何よりです」
俺とメイドのやり取りを見て、ミオとセラが苦笑し、マリアは満足そうに頷いた。
「通行料は1人1万ゴールドだ」
「は?」
門に到着し、通行料を確認した俺たちに帰ってきたのは、門番のそんなセリフだった。
「ちょっと高すぎじゃない?」
「普通1000ゴールドくらいですわよ?」
今までの平均通行料は1000ゴールドである。通常の10倍の通行料って……。
いや、もちろん払えないわけじゃないけどさ……。
「文句があるなら入るな。上からそう言われてるんだからな。数年前までは1500ゴールドだったんだが……」
当然、金狐が来てから高くなったってことですよね。知ってた。
ん?よく考えたら、それでも若干高いな。
「仕方ない。払うよ」
「そうか。王都に何をしに行くのかは知らんが、物好きな奴だ」
話を聞くと、1万ゴールドと言うのは旅人とかの後ろ盾のない人間に対する料金と言うことだ。
これを聞いた旅人の8割は通行を諦めるらしい。
門番に4万ゴールド支払い。王都へと入る。
少人数で来て良かったな。こんなことでお金を使うの勿体ないし……。
ナルンカ王国は人口1万人程度の小国で、その人口のほとんどが王都ナルンに集中している。
もちろん、王都とは言ってもカスタールやエステア、ついでにエルディアなんかとは比べ物にならないくらいに小さいけどな。
ついでに言えば、門から見える王宮も大国に比べれば小さい。
マップを見ていて気付いたのだが、どうやら王都の面積の半分近くが貧民街のようだ。
餓死者こそいないものの、生活水準はかなり低そうだな。
A:どうやら、金狐の方針は『生かさず殺さず』のようです。死なない程度に搾り取っています。
前情報の通り、荒れているということか。
正直に言えば、金狐がそれほど悪さをしていなくてホッとしている。
貧民?死んでなきゃ何も問題ないよ。
貧民街に近づく理由もないので、出来るだけ真っ当な道を通って王宮へと向かう。
まだ、王宮の外に『狂化』した人間は出てきてないのか?
A:はい。王宮が隔離されているのが幸いし、未だに王宮から被害は拡散していません。
マップを見るとわかるのだが、王宮は外部から完全に隔離されているのだ。
王宮の周りを水路と堀が何重にも囲んでおり、跳ね橋がなければ王宮への行き来は出来ないようになっている。
A:1日に数度、物資の輸送を含めた出入りがありますが、基本的に跳ね橋は上がったままです。
『狂化』すると正常な判断は出来なくなるみたいだからな。跳ね橋を下げて街に繰り出すという発想に至らないのだろう。
A:そもそも、王宮内にまともに行動できる人間がいません。
うん?どういうことだ?
A:王宮内を確認するとわかりますが、『狂化』した人間のほとんどは昏睡状態になっています。金狐のユニークスキルの影響です。
ネタバレが勿体ないから、今まで金狐と王宮内は見ていなかったんだけど、気になるから見てみよう。
……ふむ、王宮にいる人間のほとんどはHP、MPともにほとんど残っていないな。で、気絶してみんな倒れている。
それを成した金狐のステータスはこちらだ。
名前:月夜(狂化・色欲)
LV112
性別:女
年齢:1291
種族:金狐(レア)
スキル:
武術系
<格闘術LV4><弓術LV5>
魔法系
<火魔法LV6><闇魔法LV7><回復魔法LV3><幻影魔法LV7><空間魔法LV3><無詠唱LV7>
技能系
<作法LV7><交渉LV4><話術LV8><洗脳術LV9>
身体系
<身体強化LV6><HP吸収LV4><MP吸収LV4>
その他
<変化LV10><吸精LV10>
呪印:<色欲LV->
見て分かる通り、とんでもなく強いです。
レベル、迷宮最終層クラスですね。
年齢、ダントツでトップですね。
スキル、レベルが高くて多いですね。
しかも、今まで見たことのないスキル、恐らくユニークスキルまで持っているし……。
<洗脳術>
魔法をかけた対象を洗脳することが出来る。洗脳して指示できる内容はスキルレベルに依存する。ステータスの「抵抗」が高ければ防げる。詠唱時間が長く、戦闘中に使うのは困難。<無詠唱>対象外。
<吸精>
触れている相手の精神力を吸収する。<HP吸収>、<MP吸収>と同時に発動することが可能。
<色欲>
テイミングが不可能になる。逃走が困難になる。性欲を操作できる。
こりゃあ、傾国しますわ。
「どしたんですの?ご主人様?」
「あれはマップか何かで面白いものを見つけた時の顔ね」
多分、少しニヤついていたのだろうな。
「ミオちゃん、仁様が何を考えているのかわかるのですか!?羨ましい……」
「いや、なんとなくだからね。そんな目で見ないでよ……」
そして、マリアのガチ嫉妬。
目がかなり怖い。ミオもビビってる。
「ミオ、正解だ。金狐のステータスが予想以上に面白かったんだよ」
「ふーん。……これは凄いわね。それも2匹」
「2匹?」
「うん。『狂化』しているのとは別に、もう1匹いるわよ」
「マジだ……」
やべ、見落としてた。
よく見たらもう1匹金狐がいるじゃないか。『狂化』している方に目が行き過ぎていたよ。
名前:常夜
LV5
性別:女
年齢:10
種族:金狐(レア・希少種)
スキル:<幻影魔法LV1><変化LV5><空間操作LV7>
<空間操作>
周囲の空間を操作できる。同時に複数の空間を操作することは出来ない。使用者が意識を失うと効果が切れる。
母娘かな?歳の差が開きすぎている気もするけど。
娘は娘でレアなそうなスキルを持っているな。そして希少種。
もちろん、2匹ともテイムするよ。母娘狐のモフモフは逃せないからな。
「ところでご主人様、何で王宮内の人は倒れているのでしょう?」
「多分、<色欲>のスキルと『狂化』によって性欲が高められ、金狐にその性欲を向けようとしたら、<吸精>、<HP吸収>、<MP吸収>で根こそぎ持って行かれたということじゃないか」
A:正解です。
「だってさ」
「そうですのね。だったら、思ったよりは酷い光景じゃないってことですわね」
「まあ、そうなるのかな。でも、全員が全員そう言う訳でもないみたいだ。さくらとドーラは連れてこなくて正解だな」
マップを見ればどういう状態かもなんとなくわかる。
ほとんどは昏倒しているけど、一部そうでないものもいるからな。
そんなことを話している内に王宮の近くに到着した。
王宮前の跳ね橋付近には衛兵がいるが、王宮の裏手には跳ね橋がなく衛兵もいないので、そこから不死者の翼で飛んでいこう。
ミオとセラを抱えて空を飛び、水路と堀を飛び越える。
マリアは<結界術>を空中設置し、その上を飛び回るという移動方法で俺の後ろをついて来ている。
「マリアちゃん、何でもありね」
「そうですわね。単純な戦闘ならともかく、『出来ること』に関しては大きく離された感じですわ」
「そうだな。凄いよな」
俺がそういうと、ミオとセラはキョトンとした顔をした。
「わざと言ってるのかな?」
「何でもできるご主人様が言っても、嫌味にしかならないですわよね」
「そんなことはないさ。異能だより、配下だよりの俺と違って、マリアはほとんど自力だからな。そう言う意味では素直に凄いと思っているぞ」
マリアは俺の護衛?的なことをしながらも自己の鍛錬は欠かしていない。
新しいスキルも着々と習得しているしな。
-ベシン-
大きな音がしたので、動きを止めて後ろを振り向くと、少し下の方でマリアが体勢を崩していた。
「どうした?」
「すいません……、少し足を踏み外してしまいました」
慌てて真下に<結界術>を張ったのだろう。
珍しいな。マリアがそんなミスをするなんて。
「大丈夫か?不死者の翼に掴まるか?」
「いえ、大丈夫です。進みましょう」
「わかった。気をつけろよ」
「はい」
そのまま移動を再開する。
「マリアさん、どうしたのでしょう?」
「多分、ご主人様に褒められて、気が緩んだんじゃないかな。マリアちゃん、ご主人様至上主義だし……」
堀と水路を越え、王宮前に到着した。
折角なのでぐるっと回って正面の入り口から入る。
「王宮側には衛兵はいないみたいだな」
「あ、マップを見ると中にいるわね。『狂化』してるわ」
「その辺までが影響範囲か……」
堀と水路が境界となり、内側は地獄絵図と言う訳だ。良かったね、外の門番さん。
王宮の中に入ると、そこかしこに人が倒れている。
詳しい描写を省かなければいけない状態の者もいる。
「うわー、思っていた通りの光景ね」
「そうですわね。どうしますの?このままだと死にますわよ?」
確認してみて分かったのだが、『狂化』している人間はHP・MPを自然回復することが出来ない様だ。1度『狂化』したら、後は死ぬだけってことだな。……中々にタチが悪い。
HP・MPがなくなって昏睡状態になっているのに、HP・MPが自然回復しないということは、……そりゃあ死ぬだろう。
「そうだな……」
そもそも、『狂化』した人間を元に戻す方法ってあるのか?
A:ありません。正確には、マスターの配下になり<多重存在>の加護を受ける以外には存在しません。
つまり、事実上倒れている人たちを救えるのは俺だけということだ。
俺には、倒れている人たちを助ける義理もなければ、死んでほしいと思うほどの恨みもない。
この状態で金狐をテイムして帰ったら、トップが壊滅状態のこの国は亡びるだろうな。
「折角のテイムが後味悪く終わるのも嫌だし、ここは助けるとしようか」
「仁様、助けるとなるとこの者たち全員を奴隷にする必要がありますよね?この状態では自ら配下になることを選択できないでしょうから」
「確かにそうだな」
さすがに起きていなければ、<契約の絆>によって配下にすることは出来ない。
となるとマリアの言った通り、奴隷にしてから強制的に配下にするしかないだろう。
『狂化』してても<奴隷術>をかけられるのはアーシャの時にわかっているからな。
……王宮にいる人間全員に<奴隷術>をかけるのは大変だな。
「でしたらその役目、メイド部隊にお任せいただけないでしょうか?仁様のために配下を増やす以上、<奴隷術>を専門にしているメイドも少なからずいますので……」
「メイド部隊何でもできるな……」
「本当ね……」
「ですわ……」
大抵のことはメイド部隊が何とかしてくれるって、考えてみたら凄いよな。
アト諸国連合ではメイド部隊のお世話になりっぱなしだよ。
A:本望でしょう。
「わかった。任せる」
「はい」
そう言うとマリアは『ポータル』を発動し、王宮内に設置した。
その直後、『ポータル』から12名のメイドたちが現れて整列した。
12人のメイドは全員、<奴隷術>を取得している。
「説明した通り、この王宮内で『狂化』している人間すべてに<奴隷術>をかけてください。例外はありません。ただし、金狐周辺には近づかないようにしてください。仁様が金狐をテイムした後、残りの人間を奴隷化します」
「はい!」×12
メイドたちは散開して、各人昏睡している人間に<奴隷術>をかけて回っている。
昏睡している人間を奴隷にするって、人聞きが大分悪いよね。た、助けるためだから……。
「では、仁様。金狐の元へ参りましょう」
「お、おう」
マリアとメイド部隊が頼もしすぎる。
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裏伝
*本編の裏話、こぼれ話。
・メイド部隊
仁の配下、奴隷メイド(大部分は信者)の部隊の通称。現時点で300名以上所属していることは確認されている。
仁のあらゆる要望に応えるため、日夜勢力を拡大しつつ、対応範囲を増やしている。
多数の冒険者、探索者を抱え、アドバンス商会を立ち上げ、料理人、建築家、音楽隊も所属している。仁の目的である戦力増強と観光に対応するため、奴隷術師や観光案内人も育成している。
当然、ここで挙げたのはメイド部隊の活動のほんの一部でしかなく、これ以外にも様々な活動を進めている。
正直、この章の主役はメイド部隊だったのではないだろうか?
次回、狐編(本番)。




