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85.夏と雪

 


「な、なんで燈夏荒れてるの?」


 けりあげられたケツをさすりながらリビングへと入る。そこでは親父が新聞を広げていた。


「そりゃ、あなたが可愛い女の子なんて連れてくるからでしょう? ヤキモチ妬いてるのよ、あの子。 ふふ」

「は?」


 そこで無関心をきめていた......てか、新聞に夢中だった?親父がやっとこさ反応する。


「ん!? 可愛い女の子を......!?」


 見続けていた新聞を叩きつけるようにテーブルへ投げ出し、顔をあげた。そして雪の姿をとらえる。


「お、親父、ただいま」


「......うん、おかえり。 一樹、この方は?」


 な、何回も言うの恥ずかしいな。


「彼女だよ」

「な、何だってーーーー!!?」


 ガバッと立ち上がったかと思うと、雪の前までズンズンと進み、手を握りブンブンと振り回す。


「は、はじめまして、一樹さんとお付き合いさせていただいている、真城 雪です。 お世話になって......」

「一樹の父、冬時です。 いやあ、こんな素敵な......ありがとう! うちの息子を! くっ」


 泣いてる!?


「ありがとう......うう、ありがとう......ぐすん」


 うちの家族ちょっと情緒不安定すぎないか?

 雪に変なふうに思われてないといいんだけど。


 ちらりと隣の雪を見ると、くちもとをおさえて笑っているようだった。


「ゆ、雪? ごめん、なんかうるさくて」

「え、全然! お父さん、こちらこそありがとうございます。 一樹さんのような素敵な人と出会えて、幸せです!」


「な......」


 親父は眼をまんまると見開いて、絶句していた。


 ちなみに母さんは泣き崩れていた。


 いや、マジでなんなんだこの家族!!


「えっと......あ、母さん、俺の部屋ってまだある?」

「ひっく......ううう。 ある」


 これはちょっと雪も落ち着かないだろうし、いったん避難しとくか。


「雪、荷物おいてこようか?」

「あ、うん」


 部屋は二階にある。ギシギシと軋む木造の階段を懐かしみながらゆっくりとあがっていく。

 そして左手にあるのが俺の部屋だ。一樹のネームプレートがかかってる。


 ドアを開け、中へと一歩入りピタリと止まった。






「――お兄ちゃんお兄ちゃん! 私と言うものがありながらあー!!! なんで彼女なんか作ってるのよ!!! 私の方が大好きなんだからああああ!!! 確かにあの人超美人さんだけどさ? 私の方が......私の愛のほうがおっきいもん!!!」



 ――俺のベッドに潜りこんで布団にくるまりながら、何かわけのわからないことを叫んでいる奴がいた。




 いや、あの......うん、妹だわ。一瞬現実逃避した。ごめん。


 雪が後ろで「?」を浮かべているが部屋に入れるわけにもいかない。

 だって、燈夏これ変態認定されそうだもん。


 そんな事を考えていると、山のようになっている掛け布団から謎の音が聞こえてきた。



「すー......はぁー」




「すーっ」



「はぁ......ぐへ」



「すー......」



「はー......ふひっ」




 信じられん。まさか......い、いや、ありえないだろ。

 思い出せよ。俺は妹には嫌われているはずだぞ?

 そんな妹が俺のベッドの匂いを嗅ぐ?......はっ、ありえないだろ。


 ちょっと呼吸が激しいだけだろ?っと、そろそろ声かけて追い出さないとな。

 いつまでも雪立たせとく訳にもいかない。


「......えっと、燈夏さん」


 ベッドの上の山がビクン!と動いた。


「あの、ちょっと出ていってもろて」


 ガバッと現れた妹。布団にくるまれていて暑かったからか、顔が真っ赤である。


「な、なによ」


 なによって、あの、そちらがなんなんですか?とも返せず(反撃が怖い)頭をさげた。


「あ、いえ、すみません......あの、部屋をつかわせていただきたいのですが」


 あれ、ここ俺の部屋だよね?なんで許可とったの俺?




「あ! さっき挨拶できなかったよね? はじめまして、私、真城 雪といいます! よろしくお願いします」


 まるで輝くダイヤモンドダストのような眩しい雪の笑顔。



 対して妹、燈夏は灼熱地獄を体現したかのような顔をしていた。


「......よろしく。 燈夏です」



 全然よろしくする気ねえなこれ。




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