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【完結】陰キャデブな社畜、知らぬ間に美少女VTuberを救う。   作者: カミトイチ《SSSランクダンジョン〜コミック⑥巻発売中!》


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63.夕食

 


「――ただいまっ」


 雪が風呂からあがってきた。火照った頬の赤みが、大人びた顔立ちの彼女を幼く見せる。


「おかえり、って、着替えまでもってきてたのか......」

「うん、パジャマ! 可愛いでしょ」


 両腕を広げ、どう?と見せるパジャマは、桃色の下地にいくつも猫のシルエットが散りばめられているモノで、フードもついている。


「うん、可愛い」

「これ、フードに猫耳ついてるんだよ~」

「あ、ほんとだ」


 ぴょこぴょこと耳を手で動かす。


「にゃあにゃあ」


 かつてこれ程の破壊力を有した猫耳が存在しただろうか。


「さてさて、それじゃ一樹、服脱いで」

「......ん?」

「さっきも言ったじゃん......自分じゃ拭けないとこあるでしょ?」

「い、いや、大丈夫だよ。 雪にやらせるわけには」


「わ、私がしたいんだよ。 ......だめかな」


 雪のその言葉には、強い想いがあるのを感じた。真剣な眼差しの奥に見える彼女の気持ち......それは、「大切な人を助けたい」おそらく、そう言う想いだ。

 恥ずかしさからくる自己保身で、いまの俺にはそれが見えていなかった。


 しかし、思い返せば、彼女は看病に来たときから一貫して俺を助ける為に動いてくれていた事に思いあたる。


 なら、だったら......俺のこんなちっぽけな羞恥心は胸の奥に押し込めて、素直に彼女の好意に甘えた方がいい。......でなければ、その想いにたいして失礼すぎる、そう思った。


 ――よし。


「えっと......じゃ、じゃあ背中だけ」


 そう言うと彼女は悲しげな表情から一転、にっこり笑い一言返事をした。


「うん!」


 大切な人に何かしてあげたい、単純明快な心理。その気持ちにすぐ気がつけなかった俺は、鈍感過ぎて嫌気がさしそうになる。

 いや、気がつかなかった事じゃない......自分の事しか考えてなかった事に、か。


 ......しかし、そんな俺の想いを知らず、一生懸命に拭いている彼女。その笑顔を眺めていて思う。



 ああ



 俺はやっぱり――この人が好きなんだな、と。




 ◆◇◆◇◆◇



 うんしょ、と一生懸命に俺の背中をお湯で濡らしたタオルで拭いてくれている雪。


「......ふっ、ふぅ......んっ、しょ......と」


 う、うーん......声が。あ、いや、なんでも無いです。


「雪、ありがとう。 もう良いよ、さっぱりした」

「あ、うん......そっか、良かった」

「確かに雪のいうとおり、背中は自分で拭くの難しかったかも。 本当にありがとう、雪」

「うん」


 にっこりと笑う。


「それじゃあ、私、ご飯持ってくるね。 一樹は体を拭いてて」

「うん、わかった」


 雪はお湯の入った入れ物を抱えて部屋から出ていく。


「じゃ、しめるね。 ご飯用意できたらノックする」

「ああ、わかった」


 閉まる扉に少しの寂しさ。

 感じるそれに不思議と心地よさを感じている自分がいる。


 きっともう抑えられない。


 この気持ちは。


 嫌われたらとか、捨てられたらとか、そういうモノを越えそうなこの気持ち。


 ――俺は彼女を護っていけるのか。そう自分へとと問いかける。


 けれど、答えはわからない。でも......それでも



 一緒に、いたい。





 コンコン


 十分くらいした後、扉がノックされ雪の声がした。


「一樹、からだ拭き終わったかなー?」


「うん、終わったよ~!」

「あいあい。 入りますよ~っと」


 扉をあけ、入ってきた彼女はお盆に今夜の食事とお水がのせられている。


「なにを作ってくれたの?」

「ふっふっふ、匂いでわからんかね」

「カレー?」

「正解っ!」

「めっちゃ良い匂いだな」


 コトっとテーブルへ移されるカレーライス。


「ごめん、勝手にカレーライスにしちゃって。 美味しいかわからないけど、お口にあうようだったらタッパーに入れて置いてくから」

「いや、本当にありがとう。 食べていいかな?」

「うん、どーぞ召し上がれ!」

「頂きます」


 本当にありがてえ、ありがてえてえだぜ。手を合わせ、カレーライスをいただく。


「......うまっ」


 にへらあっと笑顔になる雪。


「良かったぁ。 私も頂きます~」


 もぐもぐと二人で夕食を頂く。


「あ、そうだ。 このウインナーと卵焼きね、金見さんの持ってきてくれたやつだよ」

「お、置いていってくれたあれか」

「そうそう。 まだ他にもあったよ~、金見さんお料理上手なんだねえ」

「確かに、美味いね」

「うん」

「雪のカレーもすごく美味しいよ」


 マジで美味い。辛さもちょうど良くて俺好みだ。しかし、まさか雪の手料理を俺の部屋で食べられる日が来るなんて......幸せの極みだな。


「にへへっ」


 嬉しそうな彼女を見ると、俺も自然と口許がゆるむ。


「そう言えば......雪ってさ」

「ん、なになに?」

「俺といて......楽しい?」


 雪はにんまりとして答える。


「うん、楽しいよ? 何で何で?」



「俺さ、前に......公園で初めてあった日あるじゃん」

「あ、あー! うん、あるある」

「あの時どうして俺が葉月だって言ってくれなかったの?って雪言ってたでしょ?」

「うん。 全然その話してくれなかったから、理由をはなすの嫌なのかと思ってた......」


「あー、うん。 それ、その理由なんだけど......今、話すよ」



 ――よし、頑張る。



 彼女と......雪と向き合おう。



 今なら、多分......出来る。




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