44.温もり
――彼女の震えがとまった。
ああ、良かった......少しは暖められたのかな。けど、このままじゃ流石にもたない。
てか、今更だけど停電とかおきたらフツーすぐ開けるだろ。開けられなかったのか?どんな細工したんだ、あの二人は。
そんな事を考えていたら、部屋のあかりが戻った。
暗闇になれた目が光にさらされ、反射的に瞼をおろす。
眩しい......まあ、目を開ける訳にはいかないけど。
しかし、まさかこうして抱き締めて誰かを暖める日がくるとは、思いもしなかったな。こういうのは漫画か小説の中の話だと思っていたが......って、んなことより。
ぽんぽんと金見さんの肩を軽く叩いた。
「金見さん、もう大丈夫ですよ......?」
「......ん。 あ、あかるい......! 良かったぁ」
「あ、あー! ちょっとストップ。 あんまり動かないでください」
このまま離れるとまた見えてしまうので、しっかりとからだにバスタオルを巻いて貰う。
「ご、ごめんね。 もう大丈夫だよ、葉月さん」
「うん、ありがとう」
と、ちょうどその時、あれほどびくともしなかった扉が何事もなかったかのようにあいた。
「......大丈夫かな。 葉月くん、春音」
「あらあら、まあまあ」
あらあらまあまあ......呑気!!
けどこれ冷静に考えると作為的なモノを感じたけれど、確証はないからな~。
事故としていいのか、よくないのか......文字通り真相は闇のなかって事か?
「大丈夫です......あ、あの娘さんの着替えを。 風邪をひいてしまいます」
なんか気のせいかもしれないけど、隣の金見さんから二人に向けて殺気が発せられているような気がする。
って、さっき言ってたよな。「親のせいで」って......あれ、これ確定していいのか?二人は確信犯?
てか、どうやって扉あかないようにしてたんだ?
這いずるように浴室から出てくると、俺はドアノブを確認した。......これといって特に細工された形跡はないな。うーん、わからん。
まじまじとドアノブを観察する俺に、お父さんが話しかけてきた。
「どうしたんだい? 葉月くん」
「あ、いや......何も」
「む? 服が濡れてるじゃないか! 君も風邪をひいてはまずい......娘も出たし、このまま風呂にはいりなさい」
いや、まて誰のせいで......まあいいや。
「わかりました、ありがとうございます」
「うむうむ、ゆっくりしてくれ」
カポーン
「......ふう」
ポチャン、ポチャンと天井から落ちる水滴を眺め考えていた。
この短時間で色々と起こりすぎて頭が追い付いてない感じがする......。
......俺、どんな顔して金見さんと話せばいいんだ。
裸みられて、そのまま抱き締められて......かなりヤバないか、これ。
ビンタされて泣かれてもおかしくないレベルだと思うんだけど。
原因が俺には無いにしろ、見られて触られた事には変わりないんだし。
揺れる水面。水滴の落ちた場所にひろがる波紋。
胸の奥がざわめく。
金見さんの体温が俺の体に残っている......感触と感情が交錯し、目眩がする。
――これは......これはあり得ない話だけど
もし、金見さんが......そういう想いがあるのなら、俺はどうすればいいんだ。
俺は、真城さんが好きだ。
それは揺るがないし、絶対の想いだ。
けれど、どうするのが正解なんだ?金見さんが俺に対してもしそういう感情を持っていた場合、俺はなんて返せば良い?
俺には好きな人がいる。だから、断るのは当然で......でも、だからこそ、その後はどうするのが正解なんだ。
彼女は異性である以前に、恩人だ。
ここまで、仕事もプライベートも、小説でさえ支えてくれている。
そんな人を、俺は......どうすれば?
ポチャンとまたひとつ水滴が落ち、水面を叩く。
「......フッ」
いや、まあ先に言ったとおり、あり得ない話だけどな。
金見さんだって、良い友達くらいにしか思ってないさ。大丈夫。
この時の俺は、そう思っていた。――知らず知らず、祈るように。
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