35.コミケ
真城(兄)さんが一口珈琲を飲み話し出す。
「――葉月さんは、妹に聞いたけど小説を書いているんですよね」
「あ、はい。 一応はネット小説を書いてますね」
「ふふーん、なろうトップの小説家さんだもんね!」
真城(妹)さんは腕組みをし、「どやぁ」というお顔をしていた。
な、なんか自分の事の様に自慢気に言ってるな。......トップじゃないけど、ちょっと嬉しいかも。
「と、トップではないよ。 上にはまだまだ凄い人達ばかりいるし」
「でもでも、私にとってはトップだもんね! へへ」
と、彼女はにんまり。えと、この人可愛すぎんか?
「ふふ、けれど妹がこれ程人をほめるなんて珍しいですよ」
「そうなんですか?」
「せやで~!」
「いや、まあ、実のところ俺も読ませて貰いましたよ。 葉月さんの小説......ラストファンタジア」
ドクンと緊張が走る。......多分、これは作家なら皆そうだと思う。次にくるであろう感想に期待と恐怖がちらつく。
「すごく良かったです。 妹が好きになるのがわかります。 リアルを投影したかのような厭らしく厳しい人間社会のカタチ、一瞬の油断で簡単に命を落としてしまう命をかけた敵との戦闘、全てが魅力的に書かれている......そして一番の魅力はそんな厳しい世界にもある一筋の希望と優しさ。 過酷な世界だからこそより魅力的に光輝いて見える......!」
うっあ、めっっちゃ嬉しい。すげーと語ってくれるな......ちゃんとみてくれてるんだ......。
「あ、ありがとうございます......恥ずかしいな、あはは」
「恥ずかしい事なんてないよ、うちのお兄ちゃん嘘言わないからさ!」
「ですです、実際まだ半分くらいまでしか読んでませんが、これが今のところの感想です」
おおう、でもそんなに読んでくれてるのか。
「まあ、私の朗読動画みながらだからね! あ、私のっていうか私と葉月さんの、ね?」
パチーンとウィンクをする彼女の可愛さに、俺の身体中の血管が焼ききれるかと思いました。
「あ、そうそう。 それです」
「それ?」
「俺はその動画をみて思ったんですよ」
「? 何を?」
「あなたと妹の相性はかなり良い」
ブーッ!と珈琲を噴き出しそうになり、ギリギリで堪えた。ち、違う、変な意味合いじゃない、冷静に考えろ......朗読の話だ。
隣で真城(妹)さんがごほごほとむせている。
「それで思ったんです。 葉月さん......俺たちと一緒に遊んでみませんか? 小説家として」
......どゆこと?
「......遊ぶ?」
「え、お兄ちゃん......まさか」
「ああ、心配するな。 無理には言わない」
なんだ、遊ぶって......小説を書いて遊ぶのか?
「えっと、そう。 まずは......葉月さんはコミックマーケット、通称コミケというものをご存知ですか?」
「コミケ? あのオタクの人達が凄いたくさん集まる......」
「そう、そのコミケです。 知っているなら話は早い。 俺と妹は毎年参加しているんですよ」
「そうなんですか......あ、それに一緒に行こうって事ですか?」
「ですです。 ただ、葉月さんの考えてる意味合いとは少し違いますけどね」
「? 違うというと?」
隣に座ってた真城(妹)さんが言う。
「うんと、お客さんじゃなくてって意味だよ......つまり、私達は売る方なの」
「え、ああ、そう言う事か! って、じゃあ小説家としてって......」
「そう、お兄ちゃんは多分......」
にこっと、真城(兄)さんは笑う。
「うん。 葉月さん俺のサークルで小説書きませんか?」
「小説を......?」
まさかのお誘い。
......正直、出来ない。と、思った。
だって、今は執筆中のラストファンタジアがあるし、結構それだけで手一杯な所がある......そして書籍化の話。俺の筆の遅さ。
それらを考えるとかなり難しいと思う。
......でも
でも、今、誘われたとき、びっくりした。体が震える程のわくわくが、全身に巡ったんだ。
頭では無理だとすぐに答えがでた......けれど、気持ちが、心がやりたいと、そう言っている。
無言になる俺に彼は続けた。
「まあ、まだ時間もあるし......考えてみてください。 ちなみに小説を書いてほしいとお願いはしましたけど、数ページです。 文字数的には1500とかかな?」
1500文字!それなら......いや、でも。どうする?
「あ、すみません、言い方がちょっとまずかったですね。 別に1500文字を簡単に書けるとは思ってはいないので、誤解しないでくださいね。 目安という意味で」
......けど、俺の力をみて評価して誘ってくれてるんだよな。応えたいな......その想いに。
「......いや、やります。 やりたいです!」
真城兄妹はにっと口角をあげる。
「ちなみにどんなものを書けば良いですか?」
「うん、予定としては......ラブコメですかね」
「ラブコメ......なるほど」
「ちなみに、販売するモノは小説とCDです」
「小説と、CD......?」
「葉月さんの小説と、そしてそれを妹に朗読してもらい、俺がBGMや曲をつけ焼いたCDをセットで販売します」
それって、真城(妹)さんがVTuberで俺の小説を動画にした感じのやつをCDにして売るってことか。だから、相性が良いといったのか。
面白い......!
「なるほど......わかりました! 俺、小説がんばってみますね」
「おお、では参加決定という事ですね!」
「わー! 葉月さんありがとー! これで勝ちましたなぁ~!」
「プレッシャーやめて!!」
「あはは、三人でいっぱい売ろうね!」
しかし問題もある。会社、休めるかな~。無理なら当日は行けないけど、仕方ない。
そのぶん、俺は俺の出来る事をやるだけ......小説は良いものを書くぞ!
とりあえずラブコメ読んで勉強しないとな。
「あ......そーだ。 葉月さん、これで俺達は仲間になりましたよね」
「え、あ、はい」
「俺、葉月さんとこれから仲間として仲良くやっていきたいんです」
「お、俺もですよ」
「お兄ちゃん? まさか!! 午前中に届いた小包って!!」
「お酒飲んでいってくださいよ!」
「お酒!?」
「弱いクセに~!!」
「お祝いだろ、お祝い! ね? 葉月さん~お願い」
「お兄ちゃんはずいから! 急に葉月さんに甘えるなよっ! 困らせるじゃん!!」
「――ふふ、あははは! わかりました、飲みましょう」
「やった! 雪、俺つまみ作るから座っとけ!」
「ええっ、まじ? わかった......」
真城(兄)はそういってキッチンへと姿を消した。
「お兄さん楽しいね。 良いお兄さんだ」
「あー、うん。 でも葉月さんめっちゃ気に入られてるね」
「そうなの?」
「うん、お兄ちゃんってシスコンでさ。 前に音楽仲間の人が私に話しかけようとした事があったけど、すぐ止めたり、基本的に男の人から私を遠ざけようとするんだよね、お兄ちゃん」
「まじでか......」
あ、そういえば初めて公園で会った時......シスコン(危険度S)判定したんだった。確かに......あれを考えると、気に入られてると言っても良いのか。
「でも葉月さんを遠ざけようとしないし、こうしてサークルに誘った......すごい気に入ってるんだよ」
「そっか、それは嬉しいな」
「うん、私も嬉しい。 えへへ」
「できたぞ~、あ、雪ー! 運ぶの手伝ってくれ~」
「俺、手伝いますよー!」
「葉月さん、お客さんなんだから座ってて!」
「いや、お客さんじゃないよ......仲間、でしょ」
真城兄妹が笑みを浮かべる。
「では、お願いします!」
「お願い、葉月さん!」
「うん、了解!」
こうして俺は冬コミへと参加する事になった。仲間か......良いな。
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