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翌日、ディモルとスザーナを駐屯地に留守番として残し、俺とノエリアは巨馬と雲鯨の骨でできたシンツィアゴーレムを連れ、冒険者ギルドの入口まで来ていた。
ここに来るまでに入口で自警団にゴーレムのことを聞かれたり、何度も街の人たちが巨馬を見てヒソヒソ話をしていたのが見えたりしたが、それは冒険者たちも同じ反応を示していた。
「おい、あれって例の逃げ出した馬だろ? あの赤髪のやつ、背中に乗ってるぞ。それに後ろについて歩いてるのは化け物か……」
「恐ろしく知恵の回る馬だって聞いてたし、あの体格だろ。乗ろうとして振り落とされて踏み潰されそうになったやつもいるって話だが。後ろのはゴーレムか。最近じゃあんなデカいのを操れるのを見なくなって久しいが」
「けど見たところ、赤髪のやつに従ってるみたいだぞ」
「だな。ありえないとか言いたいけど、従ってるようだ。あいつ、翼竜だけじゃなくてあの巨大な馬まで手懐けたうえ、巨大ゴーレムまで操るのかよ」
「実はユグハノーツでは凄腕の魔剣士らしいとの噂だけど、魔法で従えてるのか?」
「んなもん、オレが知るか! 絶対に関わらない方がいいやつだと思うぞ。目を合わせるな。あの馬の蹄で蹴られたら即死だし、あのゴーレムに殴られたら肉塊にされる!」
「それにしても、前に乗せてる可愛い魔術師の子はユグハノーツ辺境伯の一人娘らしいし、あのフリックとかいう男、ただの冒険者じゃないだろ」
「もしかしたら、英雄ロイドの婿かもな」
「ロイドの婿……ああ、ならこんなありえない状況を作り出すのはありえるよな」
巨馬とシンツィアのゴーレムの存在感はすさまじく、普通に歩くだけで周囲の人間への威圧感が半端なかった。
「ブルフィフィーン!!」
そして、一声いななくと入口付近にいた冒険者たちがザっと壁際に寄って道ができていた。
「そう、脅してやるなって悪気があったわけじゃないんだし。今回、捕まればお前を追う冒険者はいなくなるはずなんだから。そうだよな、ノエリア?」
「え? あ、え、あ、はい。そ、そうです。フリック様の身体に抱き着いて心地よかっ――」
昨夜からノエリアの様子がちょっとおかしくて、なんかぼんやりとしてたかと思うと、急に顔を崩して笑ったりしてたから、風邪でも引いてるのかもな。
お手入れ中にけっこう水で服が濡れてたからなぁ。
病気は初期にしっかりと治しておいた方が治りが早いだろうし。
「ノエリア、体調悪かったら――」
「あ!? ち、違います! 体調はすこぶる快調ですから! ええ、はい大丈夫です! きゃあ!」
巨馬の背に横乗りしていたノエリアが掴まっていた手を放し、健康なことをアピールしようとして落ちかけた。
すぐに俺が手を回し腰を掴んだため大事には至らずに済んでいた。
「鞍を付けてないから気を付けてくれよ。元気ならいいんだ」
「す、すみません。それで、馬の話でしたね。近衛騎士団へ引き渡したら今後一切捕獲依頼は受けないと確約を頂いております」
「だそうだ。今からもう一度ギルドマスターに確認するから安心してくれ」
俺は巨馬にそう言うと、ノエリアを抱え地面に降り、冒険者たちがどいてくれた道を歩きながら冒険者ギルドの中に入っていった。
中に入るとすでに騒ぎを聞きつけたギルドマスターのギディオンが待っており、そのまま彼の執務室へ直行した。
「いやー、さすがフリック殿とノエリア殿ですなー。あの巨馬を手懐けて帰ってきただけでなく、雲鯨をゴーレムにして持ち帰ってきてるとはたまげました。それにしても見事なゴーレム。使役魔法もお使いになられるのですか?」
「あ、いやこれは俺が作った――」
姿を街の人に見られたくないと、骨の鳥だけでついてきていたシンツィアが隠れている外套の中から俺のわき腹を突いてきた。
名前を出すなってことかな。
性格的に街で色々とヤバいことしてそうだし、もしかしてお尋ね者とか?
『違うわよ。あたしはこの街だと死んだことになってるの! あんたが名前出したら生きてるのがバレるでしょうが』
『シンツィア様、いくらマスターの師匠だって言っても、ディーレを通してマスターに思念を送るのはルール違反です! 断固抗議します!』
『ケチね。あんたはフリックからタップリと魔力吸ってツルテカしてるから少しくらい使っても文句言わないの』
『ダメなものはダメです! ディーレの魔力はマスターの物でもあるんですー』
とりあえず二人分の魔力くらいは吸い取られてもなんら俺に影響ないんだけどな。
というか二人とも俺の思念を読まないように。
まぁ、今回は大目に見るけども。
喧嘩しそうな二人に少しだけ注意すると、自分が死んでいることにしておいてほしいというシンツィアの要望を認めることにした。
「んですけど。まだ、修行が足りてませんね。今解除します。骨と肉があるんで精算してもらえますか」
俺が指を鳴らす仕草をするのに合わせてシンツィアがゴーレムの使役を解いていた。
魔力によって仮初の命を与えられていた雲鯨の骨はバラバラになって床に転がり、素材は冒険者ギルドの職員たちが総出で運び始めていた。
「承知しております。こちらの手違いで短い間にかなり成長し、雲鯨までなっていた様子。フリック殿にはご迷惑料として色は付けさせてもらいます」
「そうしてもらえると旅費のこともあるのでこちらも助かります。それで、巨馬の件ですが」
雲鯨の精算はギルド職員たちに任せ、俺は本題である巨馬についてもう一度ギディオンに確約をもらうことにした。
「ええ、そちらも承知しております。こちらが一度捕獲完了し近衛騎士団に引き渡した時点でインバハネスの冒険者ギルドは今後一切あの馬の捕獲には関わりません。これはギルドマスターとして確約いたします。これはその内容を書面にしたためた物ですので、フリック殿がお持ちください」
ギディオンは、俺の要求を先読みしてすでに書面まで用意して差し出してきていた。
これなら、冒険者ギルドが手のひらを返す可能性も低いだろうな。
近衛騎士団も無理を通して冒険者ギルドとの関係が悪くなれば、領主のジャイルに悪影響が出るだろうし。
「ありがとうございます。たぶん、あいつはすぐにでも逃げ出すと思うので、俺たちもインバハネスに滞在するのはあと数日もないかと。それからは『趣味』の探索に時間を割くと思いますので」
「なるほど、では精算は急がせます。それと、フリック殿の『趣味』の探索にあの巨馬が同行してもらえると、私としてもかなりありがたいのですがね」
俺の言う趣味の探索が、この地におけるアビスウォーカーの捜索であると知っているギルドは、厄介ごとの火種になりそうな巨馬も一緒に連れていってほしいと示唆してきた。
「いちおう誘ってますけどね。来るか来ないかはあいつ次第かな。たぶん、今の感じだと来てくれそうだけど」
「そうなることを私としては願ってます。フリック殿にしてみれば迷惑かもしれませんがね」
ギディオンは申し訳なさそうに頭を下げてきたが、彼としても板挟みの立場なので俺としては同情をしていた。
「迷惑なんて。俺たちは流れ者ですし、気にされる必要はないですよ」
「そう言って頂けるだけでありがたい。趣味の方も成果があることを祈っておりますぞ」
それからしばらく、ギディオンと追加の情報交換をして、巨馬を引き渡し、俺たちはスザーナに頼まれていた雑貨と食糧の補充に市場へ行くことにした。
もう少しだけ、ノエリアご褒美パート続きます。
発売日まであと一ヶ月切りました。書籍の方は自分の作業分はほぼ終わりましたので、予定通り出てくれると思います。書籍版も応援して頂ければ幸いです。
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