sideアルフィーネ:穴の中
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あたしは縄を引き上げ終えると、地上に出たメイラの前に腕を組んで仁王立ちする。
「アルきゅん……そんな獣のような目で見られるとお姉さん照れちゃうから……」
「メイラ姉さん……ボクがなんで怒ってるか分かってるよね?」
「ち、違うの! あのね、あの穴がね。私に囁いたの! 中を探索しろって言われたらするしかないわよね」
「声? そんなのが聞こえるわけが……」
「私には聞こえるのよ。降りてこーいって!」
メイラは必死で言い訳しているが、どう考えても穴の中に誰かが居るわけでもないので声など聞こえるはずがなかった。
「でも、おかげで大発見よ! 大発見!」
「そう言えば引き上げる時もそんなことを言ってたけど、何を見つけたの? 穴の中は何もないってレベッカも言ってたじゃない」
メイラは立ち上がると目を輝かせてあたしの手を取ってきた。
「それは探してる人が下ばかり気にしてたからよっ! 私が見つけたのは穴の横よ。横!」
「横?」
「ええ、ちょっとここ見て」
そう言ったメイラがあたしの手を引いて、アビスフォールの穴の淵に連れていく。
そして、穴の淵のある一部を指差して得意げな顔をしていた。
その場所は他の穴の淵と違い、何かがこすれたように端が削られ、人通りが多かったのか草も生えずに地面がむき出しになっている。
「ちょっと、周囲とは違うみたいだけど……。ここがどうしたの?」
「捜索隊は穴の中に降りてないって話をきいてたから、この場所を見てかなりおかしいなと私は思ったの。だって、これかなりの人数が『ロープで下に降りた形跡』だし。そう思って周囲を探ったらそこの大木の陰に隠れるようにロープの固定跡が見つかったわ」
メイラが指差した先には、しっかりと根を生やした大きめの大木と草むらがあった。
「その大木に縄を結んで降りた人がつい最近にいると?」
「ええ、そう思ったわ。捜索隊の入るちょっと前くらいまでけっこうな人数が降りてた感じ」
「となると、二週間か三週間前……。冒険者ってことはなさそうよね。冒険者ギルドが禁じてるし、それに降りても何かあるわけじゃないし」
アビスフォールは今でこそ、アビスウォーカー捜索のために冒険者が大量に入っているが、少し前だと、ここまで来るのはユグハノーツ辺境伯の騎士団の代表が率いる慰霊団だけだったと聞いていた。
そんな人里離れたアビスフォールの穴の中へ、大量の人が行き交っていた痕跡があるってどういうことだろうか。
「誰が降りてたかまでは分からないけど、人が降りた痕跡は穴の壁面にも結構残ってたわ。捜索依頼はアビスフォールの周辺部に注意が向いてて、誰も穴の方を気にしてなかったから見つからなかったのかもしれないけど。間違いなく、誰かが降りてる」
「それで、メイラが見つけたってものは何?」
「ふふふ、扉よ。扉。隠し扉。他の人の目は誤魔化せても遺跡調査を専門でやってきた私の目は欺けないわ。穴の壁面に隠蔽するように作られてたけど、やはりそこもつい最近まで開け閉めされていた痕跡があった。ちょうどこの大木からまっすぐに穴の方へ降りて行った先ね」
メイラは腰に手を当て、自慢げに発見した物について語っていた。
「扉……。ということは中に部屋があると?」
「それを確かめようとした矢先、アルに引き上げられちゃったから分からないけど。でも、部屋もしくはなんらかの施設があってもおかしくない様子だったわ」
「……それは確かに大発見かも……すぐに冒険者ギルドに――」
「ダメー! まずは私たちで捜索しない? この件をギルドに報告すると全部持っていかれそうだし、私たちに捜索させてもらえないかと思うし」
「でも、二人しかいないし危なくない? ここはやっぱり報告した方が」
「いやー、私が見つけたから一番乗りしゅるーーー!!」
メイラはあたしの腰にしがみつくと、イヤイヤと首を振って喚いていた。
でも、あたし暗くて狭い場所が嫌いなんだけどなぁ……。
だからフィーンには遺跡や洞窟での魔物討伐は選ばないでって頼んでたし。
それに二人で降りたら、引き上げる人いないし。
メイラ一人で行かせるのも、それはそれでかなり危険な気がする。
あたしが首を縦に振らないと見たメイラは、しがみついていた腰から立ち上がり、荷馬車の中に入るとゴソゴソと何かを探し始めた。
しばらくして荷馬車から出てきたメイラの手には見慣れない道具があった。
「二人で降りてもコレがあれば上がってこれるから大丈夫」
「滑車?」
「手動巻き上げ器! さっきは慌てて降りたから忘れてたけど、これを縄に通しておけば、この取っ手を巻くだけで上がってこれるの! ね、ね、だから降りよう! 二つあるし! アルきゅ~ん!」
メイラが目をキラキラとさせて、どうしても降りたいと主張していた。
はぁ……こうなると多分、あたしじゃ説得できなそうな気がする。
暗くて狭いところは嫌だけど……このままだとメイラ一人でも行きそうだし……仕方ない一緒に降りるか。
あたしはメイラの主張に白旗を揚げることにした。
「分かった。分かったから。じゃあ、いちおう装備と食糧はある程度持って行った方がいいね。明かりは多く持っていくよ。ボクは暗いところが嫌いだから」
「きゃあーーー! アルきゅーんかっこいい! お姉ちゃん、惚れちゃう!」
メイラがあたしに向かって荷馬車から勢いよく飛び出してきた。
あたしはそんなメイラを受け止めると、すぐに下に降りる準備を始めた。







