sideアルフィーネ:メイラの暴走
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荷馬車で簡単な食事を済ませたあたしたちは、地図に記されていたアビスフォールのすぐ近くにまで来ていた。
「これが大襲来の発生源とされてるアビスフォールなのね。私も南の方は遺跡があまりないから来たことがなかったけど、こんなに大きくて深い穴だったとは」
メイラが穴の端から中を覗いていた。
穴の中が気になってウズウズしてるのか、メイラの足がパタパタしてるのが不穏でしょうがないんだけど。
彼女も分別のある大人だから、あれだけ入るなと言われてるなら自制するはずよね。
ただ、いちおう釘だけは刺しておいた方がいいかも。
「メイラ姉さん、穴の中は捜索禁止だからね。ちゃんと、周囲を捜索してよ」
服が汚れるのもいとわずに、地面に伏せて穴の中を見ていたメイラがあたしの方へ向くとぷぅと頬を膨らませていた。
「分かってるって。アルはお姉ちゃんがそんなに信用できないの?」
「んーー、できないかな」
「ひんっ! 弟の言葉とは思えない冷たさ。けど、お姉ちゃんなんかゾクゾクしちゃう」
なぜだか知らないがメイラが身を捩らせて、身体を震わせていた。
あれに突っ込むと色々と面倒だから、軽く受け流して早いところ担当地域の捜索を終わらせないと。
「あー、はいはい。そういうのはいらないから。ほら、早く立って。日が暮れる前に終わらせたいから」
「アルがつーめーたーいー」
「はいはい、動かない」
あたしは身悶えしていたメイラを立たせると、服に付いた土汚れを払っていた。
そう言えばフィーンもこうやってあたしが汚した服の汚れを払ってくれてたな。
あの時は雑用はフィーンの担当だから当たり前とか思ってたけど、実際にやる側になるとこれほど面倒なことはないわね。
それなのにあたしはあんな態度で……そりゃあ、フィーンだって愛想を尽かすはず。
「アル、どうかした? もしかして私が面倒な女とか思った?」
少しぼーっとして服の汚れを落としていたら、不意にメイラが話しかけてきた。
「え? メイラ姉さんが面倒なのは最初からだし、今は慣れたからそんなことは思ってないけど。ちょっと、昔を思い出しててね」
「フィーン君のこと?」
相変わらずメイラは鋭い。
すぐにあたしの考えてることがバレてしまう。
「そう、当たり前に酷いことしてたなと思ってね。嫌われて当然のことしてた」
「それに気付けたってことは、アルが成長してる証かもね。お姉ちゃんとしてはもっと甘えてもらってもいいんだけどなぁー」
「だったら、もう少し姉さんらしくしてよね。はい、これで綺麗になった!」
汚れていたメイラの服から土ぼこりを払い終えると、ポーチから地図を取り出し、手を広げてあたしが抱き着いてくるのを待っていた彼女の前に突き出した。
「メイラ姉さんは留守番ね。アビスウォーカーか魔物が居たらすぐ呼んで。ボクは捜索してるから」
「アルきゅーん! お姉ちゃんに熱い抱擁をしてからでもいいと思うんだけどー!」
「メイラ姉さん、さぼったらダメだからね。じゃあ、頼むよ!」
あたしはそれだけ告げると、アビスウォーカーの捜索のため、周囲に生えている木々の中に分け入った。
それからしばらく捜索の範囲内を調べて行ったが、木々の中にもアビスウォーカーはもとより魔物の姿も見えなかった。
この辺りは徹底的に捜索され尽くしてるみたいだわね。
魔物も居ないし、何度も別の冒険者が捜索に入って草も踏まれて潰れているようだし。
これといった収穫も無く指定されていた範囲の捜索を終えたので荷馬車に戻ってきた。
「メイラ姉さん?」
荷馬車の周辺には留守番をしてるはずのメイラの姿がなかった。
もしかして……まさかよね?
メイラの姿が見えないことに不安がよぎる。
視線を荷馬車の後部に向けると、縄が穴に向かって伸びているのが見えた。
降りてるぅ!? しまった! メイラがそこまでやるとは思わなかったわ!
縄の行き先を見て、メイラがどこにいるか察しがついた。
あたしは急いで穴の淵に向かい、穴の中に落ちていっている縄の先を覗き込むと叫んだ。
「メイラ姉さん!! ここに居るんでしょ! 降りたらダメって釘を刺してたじゃないの!」
穴の中は深すぎて、縄の先にメイラの姿は視認できないでいた。
馬鹿、馬鹿、馬鹿!
消えちゃったらどうするのよ!
焦ったあたしは垂れているロープを必死に引き上げていた。
ま、まだ重みはある!
き、消えてない。
ロープの先に重みを感じたので、引き上げる手を早めていた。
「いや~ん。アルきゅーん、心配ご無用よー。お姉ちゃんは生きてるからねー。戻ったらちゅーして。すごい発見したんだからぁー。いやー、大発見よ。これ! ユグハノーツの辺境伯からお礼をタップリもらえるかもー!!」
ロープを引き上げられたことで、メイラもあたしの存在に気付いたようで、穴の奥から話しかけてきた。
「もう! メイラ姉さん! ボクとの約束も守ってないじゃないか! なんで穴の中に!」
「だって、そこに穴があったから。遺跡捜索は穴の中に入るのが基本なのよー」
「レベッカから穴の中に入ったら消えちゃうって聞いてたでしょ!」
「それでも、遺跡調査のプロとして喰ってる私は行かないといけないのー」
だからって、縄一本で穴の中に入っていくのもどうかしてる。
無事だったからいいようなものの、事故があったから冒険者ギルド側も止めてたんだろうし。
そんなことを考えながらロープを引き上げていくと、穴の中からメイラの顔が見えた。
ふぅ、特に外傷とかもなさそう。
顔が見えたことであたしは安堵していた。
「とりあえず、このまま上に引き上げるからね! 言い訳はその時に聞くわ」
「折檻はらめぇえええ! お姉ちゃん、アルきゅんの折檻受けたら堕ちちゃうからぁあ!」
「そんなことはしません!」
あたしは急いでメイラを引き上げることにした。
アルフィーネサイド、あと三話くらい続きます。
書籍版も今から最終稿やるんで今しばらくお待ちくださいませ。<m(__)m>







