63:死霊魔法
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ノエリアにいきなり興味を見せたシンツィアに対し、俺は視界を妨げるようにそっと間に立つ。
「あの? フリック様、どうかしましたか?」
事情が分からないノエリアが、相手との視線を遮った俺を不思議がっていた。
目の前のシンツィアは、こちらの様子を窺うように肩に骨の鳥を乗せたまま立ち尽くしている。
「ノエリアは傀儡の魔術師シンツィアという名に記憶はあるかい?」
「えっと……。ええ、知っております。たしか、ライナス様から頂いた希少魔法の習得者だった方かと。あいにくわたくしは会ったことがありませんが」
俺の質問に困惑しながらも、ノエリアは答えてくれた。
ということは……この目の前の中身空っぽの人がライナス様がインバハネスで会うようにと言っていた魔術師か。
どう考えてもまともそうな人に思えないが……。
何やら危なそうな発言をする正体不明の魔術師が、弟子入りする予定の魔術師だと知り、俺自身も困惑していた。
「目の前の人がその傀儡の魔術師シンツィアって人らしい」
俺の言葉に反応したシンツィアが、ノエリアに向かい姿勢を正すと頭を下げて挨拶をしていた。
そして、例の如く中身のない兜がカランと地面に落ちて音を立てた。
「っ!?」
「あら、失礼。これは要検討課題ね。そちらの可愛いお嬢さんはノエリアちゃんって言うのね? あなたの顔どこかで見た気が……えーっと、どこだったかしら」
鎧の身体が落ちた兜を拾っている間、骨の鳥がノエリアの周りを飛んでいた。
「ああ!! 思い出した!! その顔、その骨格!! あんた、偉大なる魔術師フロリーナの娘ね!! ああ、そうか、そうか。どうりで見覚えがあったはず。理想に近い骨格をしてるものね」
飛んでいた骨の鳥はノエリアの肩に止まると、首をクルクルと傾げながら、興味深げに彼女を見上げていた。
「母を知っておられるのですか?」
「ええ、フロリーナは同じライナス門下として腕を競い合った同門だからね。あたしは、彼女のおかげで万年二位だったけど」
「ライナス師匠のお弟子様でしたか!?」
「そうね。いちおう、彼のもとで基礎は学んだけど、フロリーナのおかげで自分には才能がないと打ちのめされ、王都を去って辺境に流れたのよ。おかげで、大襲来では自分の身体を失ったわ……今はあの鎧があたしの身体であり、この鳥があたしの目なの」
え? 自分の身体を失ったってどういうこと?
本当に中身がないって意味?
ますます、シンツィアのことがよく分からなくなってきたが……。
ノエリアも相手が母親の知り合いで、しかも何か諍いになったことがあるらしいと知り、困惑した表情を浮かべていた。
「あ、あの……えっと、なんと申し上げればいいか……。色々とご苦労されたようで……」
「ええ、身体がないってのは不便よ。たまに自分が分からなくなるもの。だからこそ、あたしは絶世の美骨を作り上げ肉体を取り戻したいの。骨集めは趣味と実益を兼ねたものよ」
「なるほど……自分の身体を作る骨格として骨が欲しいということか」
「そういうこと。あたしの魔法は物体に魂を無理やり繋ぎとめる疑似的な生命を創り出す魔法。それをみんなは死霊魔法とか言うけど、あたし死んでませんからっ!!」
ノエリアの肩に止まっていた骨の鳥が、俺の肩に乗り移り骨の羽を突き出していた。
ええ!? でも、その姿は絶対に一回死んでるでしょ……。
自我があるとはいえ、肉体が失われてたら、生きてると言えるんだろうか。
そんな骨の鳥の姿が不意に消えていた。
見ると、スザーナが俺の肩に止まっていた骨の鳥を革袋に入れて捕獲していた。
「とりあえず、危なそうなので捕まえておきました」
「ちょっとー! この袋から出しなさいよー! あたしを放せー!」
骨の鳥は革袋から飛び出そうと、中で暴れている様子だったが、丈夫な革の袋は破れないでいた。
「ノエリア様への害意を感じましたので、勝手ながら捕獲いたしました」
電光石火の早業で捕まえたスザーナが、シンツィアの骨の鳥を逃すまいと革の袋の口をガッチリと押さえていた。
「スザーナ、いちおう丁重に扱ってあげてもらえるかしら。肉体を失っておられるとはいえ、ライナス師匠が実力を認めておられる魔術師の方なので」
「いちおうそう思いまして革袋にしております。本当なら、ノエリア様に対して不穏な気配を見せた時点で、頭蓋骨を飛び道具で撃ち抜いているところです」
魔物とは戦えないと言っていた彼女であったが、骨の鳥を逃がさずに革袋で捕まえた手並みを見る限り、なんらかの訓練を受けているような身のこなしをしていた。
その言葉を聞いた革袋の中のシンツィアがビクリと震えていた。
「ちょっと、いきなりなんなの? あたしを捕まえてどうするつもりよっ!」
「シンツィア様、わたくしの手の者が失礼をいたしました。すぐにお出しするのでしばらくお待ちください」
ノエリアがそう言うと、革の袋を受け取り暴れるシンツィアを袋から取り出した。
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