59:小雲鯨
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「そろそろ、小雲鯨が目撃された場所に近づいてるはずだけど……。例の軍馬の群れは居なさそうだな。ディモル、もう少し飛ばすぞ」
「クエエェ!」
討伐依頼を受けた小雲鯨の居場所を探るべく、駐屯地で待っていたディモルに乗って俺は先行偵察していた。
眼下には広大なオーウェル草原の緑が広がっている。
いちおう、デカくて見つけやすい小雲鯨も探しつつ、例の人語を理解する軍馬の群れも一緒に探していた。
ノエリアたちは、荷馬車でゆっくりと合流地点に向かってるはずだから、先着したらもう少し詳しく捜索をするか。
【マスター、小雲鯨って美味しいですかね? 何系ですか?】
合流地点に向かってディモルを飛ばしていると、小雲鯨との闘いが待ちきれないディーレが話しかけてきた。
「え? 小雲鯨が何系かって? えーっと、アレは雲鯨種だから魚系……いや、動物系かもな。中身の肉は筋肉質で赤身だが、子供の小雲鯨の肉は軟らかいから、ドラゴンの肉と同じく高価な取引がされる高級肉だぞ」
【あ、いや。お肉の味の話じゃなくて……小雲鯨の持つ因子の話です。ディーレはお肉食べられませんから】
俺はディーレの発言の意図を取り違えていたことに気付いた。
「ああ、すまん。そうだったな。因子だったな。どうだろうか、毒と麻痺とかの因子じゃないか。あと回復系もありそうな気もするぞ」
【マスターも意外と食いしん坊なので、ディーレのことを笑えないですよ】
「いや、ほんとにすまん。完全に肉の話だと思ってた」
俺は恥ずかしさがこみあげてきて、頬が火照るのが止められずにいた。
普通にディーレが人だと思って喋ってたなんて言えないよな……。
そういえばディーレは剣だった。
肉が食えるわけないな。
【どうかしましたか? マスター?】
ディーレは瞳のように紫の魔石を明滅させ、俺に声をかけてきた。
「な、なんでもないぞ。俺もただの人間だから間違えることは多々あるのさ」
【変なマスターですね。はぁー、でもはやく因子を吸収したいなぁー。いっぱい吸収してもっと強くなって頭も良くなれば、マスターのお役に立てるのになぁー。そうすればお手入れも――】
「手入れは毎晩欠かさずにしてるだろうが?」
【毎晩のお手入れとは別に、お手入れはどれだけ追加してもらってもいいんです。磨けば光るディーレなのです】
いや、たしかに手入れして磨けばピカピカに光るけどさ。
けど、やり過ぎるのも刀身が傷むんだが。
俺は心の中でディーレに突っ込みをいれていた。
「手入れの回数の件は保留な」
【えー、けちー】
不服そうに魔石を明滅させるディーレだったが、剣士としての俺は手入れのし過ぎは良くないと思う派なのだ。
長くディーレを使えるよう、いたわってやりたいからこその回数制限をしている。
本当なら朝から晩まで手入れをしても飽きないほど、綺麗な刀身をしているので、こちらとしてもかなり我慢して一日一度と決めていた。
「クェエエ!」
ディーレと手入れの話をしていると、前方に何かを見つけたディモルが鳴いていた。
前方に目を凝らすと、雲が動いていた。
「小雲鯨か?」
距離的にまだ遠く、ゴマ粒のような雲を凝視する。
雲の塊かと思われた瞬間――
目玉がパチリと開き、身体をくねらせて空を移動し始めた。
「見つけた! いたぞ! 小雲鯨だ! ディーレ、準備しろ! 戦闘だ!」
【は、はい! いつでも行けます!】
「ディモルは全速力であの雲に寄ってくれ!」
「クェエエ!」
俺はディーレを引き抜くと、討伐対象である小雲鯨に向かってディモルを駆った。
快速を誇るディモルのおかげで、彼我の距離は急速に狭まっていく。
近づくにつれ、小雲鯨の身体がグングンと大きくなっていった。
でかい……小雲鯨っていうよりか、この大きさだともう雲鯨って言えるんじゃないだろうか。
近くまで来たところで、追っていた小雲鯨の大きさが、ノエリアの住んでいたお屋敷くらいのデカさだったことに気付いた。
大分、距離感が狂ってたな。
これは難儀するかもしれない。
俺たちが近づいたことに、相手の小雲鯨も気付いたようで、警告するように真っ白だった身体を覆う雲の色を攻撃色に黒く染めていた。
「相手も俺たちを敵だと認識した! 来るぞ!」
「クェエエ!!」
小雲鯨がこちらを攻撃してくる前に、俺はディモルに指示を与えて上の位置を取ることにした。
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