sideアルフィーネ:いざ、魔境の森へ
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※アルフィーネ視点
ユグハノーツで冒険者をするようになって一週間。
冒険者ギルドで起こした騒動のため科された無償依頼での実績を買われて、あたしは鉄等級でありながらも専門の窓口担当が付いていた。
その人はレベッカと言い、あたしの前はユグハノーツで色々と問題を起こしていた『真紅の魔剣士フリック』の担当をしていたそうだ。
レベッカが担当していた『真紅の魔剣士フリック』は、赤い髪と赤い目をした若い男で剣と魔法の天才らしく、真っ赤な刀身の魔剣を所持しているらしい。
あたしはその話をレベッカから聞いた時、この冒険者ギルドに初めて来たときにすれ違ったあの男性冒険者がフリックだったのだと理解した。
メイラが待合室の冒険者たちから集めた噂によると、その魔剣士フリックは大規模魔法を連発してもピンピンしてる大魔術師でありながら、剣もかなりの使い手らしく、この地で恐れられていた魔獣ケルベロスをほぼ単独で倒したすごい冒険者らしかった。
そんな話を聞いて、あたしはあらためて世の中の広さを感じていた。
王都で見かけた魔剣士は、剣も魔法も中途半端な人が多く、剣技こそが至上と思っていたあたしは、魔剣士を毛嫌いしていた。
だが、辺境のユグハノーツで、その真紅の魔剣士フリックの噂を耳にして考えをあらためるべきなのではと思い始めていた。
剣も魔法も超一流となれば、剣だけで魔法の才能がない自分よりも、実力は上なのではと思えてしまう。
自分で作り出した虚像を守るため、散々誤魔化していた魔力測定を受け、自分には魔力がないことを知った。今のあたしは少しだけ素直に自分の器を見られるようになっていた。
それだけでも、このユグハノーツに来てよかったと思っている。
「アル様? 聞いてますか?」
ちょっと考えごとをしていたら、受付窓口のレベッカがあたしの顔を覗き込んでいた。
「あ、ごめんなさい。ちょっと、考えごとしてた。なんだった?」
「ですから、冒険者ギルドとしては、ご領主様から魔境の森でのアビスウォーカーの捜索依頼を任されてまして、ギルドマスターからは剣の腕が立つ人は、等級に関係なく捜索に参加してほしいとの通達が出てましてね」
「あ、うん。なんかそんな話は聞いた気がする」
「私としてはアル様には捜索に参加してもらえると、ありがたいなと思っているのですよ。銀等級の冒険者を軽くあしらう実力者ですから!」
レベッカが鼻息荒く、あたしに捜索に参加するように訴えかけていた。
ようやく、罰として科された依頼を完遂して、これからフィーンの情報を集めようとしてるところなんだけどなぁ……。
とはいえ、その肝心のフィーンの情報も手が空いた時に聞いて回っているけど、まったくと言っていいほど手に入らない。
このユグハノーツで剣聖アルフィーネの名を知っている冒険者は居ても、その仲間だった剣士フィーンの名を知る者は誰もいなかったのだ。
それと、フィーンの情報集めが捗らない原因は別にもう一つあった。
その原因は近衛騎士団の顔を知っている騎士が数名ほど、このユグハノーツに来ているのを見つけたからだ。
さすがに近衛の鎧こそ着てないが、ジャイルが放ったあたしを捜索するための追手だと思われる。
そのため、積極的にフィーンの情報集めをするのは、今はやめた方がいいとメイラに止められていた。
あの近衛騎士の連中がこのユグハノーツから立ち去るまでは、街にあまりいない方がいいかもしれない。
いっそ、その魔境の森とかいう場所でアビスウォーカーの捜索してた方がいいかも。
あたしはフィーンを探したい衝動をグッと抑える。
これまでは自分優先で思いつくままに行動をしてきたが、それだけでは得られない物があるということも分かりつつあった。
今のあたしならきっと我慢できるはず……。
思いつきのままに動くのが、どれだけ周りに迷惑をかけるのか少しだけ理解したはずだし。
あたしはフィーンを捜索したい気持ちを一旦押し殺して、グッと手を握りしめ、レベッカに向き合う。
「レベッカさんの話からすると、ボクも魔境の森の捜索に参加していいということですか?」
レベッカの顔がパァっと明るく輝くのが見えた。
このユグハノーツは、実力者が辺境伯の騎士に採用されるため、特に魔物討伐系の熟練冒険者が少ないとは、レベッカから聞いてたけど。
対外的には鉄等級にしか過ぎないあたしを、実力者として高難度依頼にスカウトするほどまでとはね。
「参加してくれますか! いやー、助かります! 依頼料はご領主様から破格の金額を提示されてますし、魔境の森で捜索中に討伐した魔物は高価買い取りしますので、一攫千金ですよ!」
レベッカは、すぐにあたしの前へ魔境の森でのアビスウォーカー捜索依頼票を差し出してくる。
どうやら事前に準備していたようだった。
「アルー、どうせ魔境の森に行くなら、私も自分の依頼を受けていい?」
「ね、姉さん?」
待合室に居たメイラが、いつの間にかあたしの後ろに立っていた。
「受付嬢さん、その辺で遺跡調査とかない? 私は銀等級ね」
メイラは自分の徽章をレベッカに見せていた。
「遺跡調査ですか……。ユグハノーツは元々古代遺跡が少ないですからね。ただ、アビスフォールの調査ならありますけど……。あれは遺跡という物でもありませんし」
レベッカが困惑した顔を浮かべている。
「あー、あれね。『大襲来』の発生源! 私、一度見てみたかったんだ。その依頼見せて」
「え? あ、はい。こちらです」
レベッカが遺跡調査依頼としてアビスフォールの依頼票をメイラの前に出した。
『大襲来』はあたしとフィーンから両親を奪った大災厄だった。
フィーンは村の大人や孤児院の院長夫妻から、『大襲来』の話を聞いては自分から大事な親を奪ったと憤慨していた記憶が引き出される。
あたしも両親を奪った『大襲来』を恨む気持ちはある。でも、それはフィーンとの出会い、共同生活も与えてくれた。そう思うと感謝に近い気持ちもある……。
そのため、フィーンよりは『大襲来』に対しての恨みは薄い自覚はある。
我ながら自分の欲求に正直だったなと自嘲し、ふと笑みが漏れそうになった。
「ふむ、周辺の捜索だけに限られてて、穴の中を捜索禁止にしてる理由は何?」
メイラが依頼票から気になった点をレベッカに聞いていた。
「えっと、『大襲来』が終息した後、穴を調査した人たちがいたんですが、ある一定の深さまで潜ると行方不明になってしまうことが続き、ご領主様が内部の捜索を禁止しました。なので、周辺部での痕跡調査のみの依頼ですね」
「人が穴の中で消える……。古代遺跡にある転移装置の類かしら……。気になるわね」
「穴の中は調べちゃダメですよ。やっぱ、依頼出すのやめときます」
アビスフォールに興味津々のメイラから、レベッカが依頼票を取り上げていた。
だが、メイラはすかさず依頼票を奪い返す。
「とりあえず、これ受注するからよろしく。大丈夫、多分穴の中は調べないから。私も命は惜しいしね。アビスフォールはもしかしたら古代の遺跡の可能性もあるし秘密の入り口とかもあるかもしれないしね」
メイラは奪った依頼票をウィンクしながら、レベッカに渡していた。
「ア、アル様。メイラ様が暴走しないようにできますかね?」
レベッカが困ったようにあたしに助けを求めてきた。
最悪、穴の中に降りようとしたら、引き留められるとは思う。
あたしは無言でコクンと頷いていた。
「で、でしたら……」
「もう、アルも受付嬢さんも心配性ね。私もそんな無謀なことはしないってばー」
メイラはぷぅと頬を膨らませて怒った様子だが、その場に行ったら彼女はやりかねないというほんのりとした不安があった。
「大丈夫。ボクがメイラ姉さんを止めますよ」
レベッカを安心させるため、もう一度声に出して止めることを確約した。
「分かりました。では、すぐに受諾証を出しますのでお待ちを」
それから、依頼を受注したあたしたちは準備を終えると、一旦ユグハノーツの街を離れ、アビスフォールのある魔境の森に向かうことにした。
さて、今日からアルフィーネ編です。
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今後ともフリック、ノエリア、アルフィーネの不器用な三人が織りなす冒険譚を楽しんでもらえれば幸いです。
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