50:土煙の正体
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獣人らしき冒険者たちを追いかけてきているのは、混沌馬と角馬の群れだった。
角馬の額から生えた角は、触れた者の傷を癒す効果を持っており、回復薬素材として需要が高い。
だが、突進による角突きをまともに喰らえば、鉄製の鎧も穴が開くので油断できない魔物であった。
数は二〇頭ほどか。
一回り小さい個体もいるから子供を含んだ群れのようだな。
あいつら、子持ちの群れにちょっかいを出して、混沌馬と角馬を怒らせたんじゃないだろうな。
牡しかいない混沌馬と、牝しかいない角馬は、つがいとなって群れで移動することがほとんどであった。
そのため、はぐれているやつ以外に手を出すと集団で襲われる可能性があるのだ。
「冒険者たちの後ろで暴走してる魔物は、混沌馬と角馬だ。あいつらが怒ってる時は、動くものすべてに手あたり次第攻撃してくるから倒した方が手っ取り早い」
逃げる冒険者たちの後ろから土煙を上げ暴走している魔物の正体を、俺はみんなに告げていた。
『せ、戦闘ですか! お手入れは中止なんですか!?』
魔剣は魔物が近づいてくると知り、慌てたように魔石を明滅させる。
「ああ、そうなるな。その代わりにお待ちかねの実戦だ」
『ううぅ、マスターのお手入れ楽しみだったのにー。でも、戦闘だ、やったー! ガンガン行けますよ!』
魔剣は気分を切り替えたようで、すでに戦闘態勢に入っていた。
「では、わたくしは混沌馬が発する体臭が、近接戦闘を行うフリック様にこないよう、風魔法で援護します」
「ああ、助かる」
魔法で倒してもいいが、どうせなら魔剣に因子を食わせてやりたいので接近して戦うつもりだった。
その場合、混沌馬のたてがみの発する体臭を嗅ぐことになるので、風を吹かせて拡散させてくれると混乱に陥りにくくなるのでありがたい。
「では、私は脇に寄せて止まっています。あの冒険者たちはそのまま行かせてよろしいですね?」
「ああ、そうしてくれ。暴走する魔物からは助けるけど、パッと見て怪我もしてなさそうだし、その後の手助けは不要だと思う。馬車に近づくようならディモルには威嚇してもらう」
長距離の旅は慎重に行かないといけない。
助けたはいいが、感謝されることもなく、相手が手のひらを返すことも多々あるのだ。
助けた相手が態度を豹変させ、馬車ごと強奪されるなんてことは、色々な噂として耳に入ってきていた。
「承知しました」
スザーナはそれだけ言うと、街道の脇に荷馬車を停めた。
俺はディモルに荷馬車を守るよう伝えると、ノエリアとともにこちらに逃げてくる冒険者たちの方へ向かった。
「おい、大丈夫か?」
俺は逃げてきていた冒険者に声をかける。
必死に逃げ続けてきたことで、冒険者の息は上がっていた。
「はぁ、はぁ、はぁ、すまねえ……やっちまった……はぁ、はぁ」
「とりあえず、あいつらは俺が追っ払う。どこか身を隠せ。ちなみにあそこに見える馬車に近づいたら、翼竜が上から身体を引き裂きにくるから気を付けろ」
冒険者たちに上空を旋回しているディモルの姿を見せてやる。
「ひぃっ! あんなデカい翼竜がっ!? 頼まれても、ち、近づかねぇよ!」
「いい判断だ。あと、なんで追われてる? それだけ、聞いておきたい」
ディモルの姿にビビった冒険者は、俺の質問に大人しく口を開いてくれた。
「依頼だよ。あのやたらとデカい混沌馬を生け捕りにして、ラドクリフ家に献上したいってやつからの依頼だ! ちゃんとギルドを通した依頼だぞ!」
冒険者がこちらに迫っている混沌馬と角馬の群れの先頭を走る巨馬を指差していた。
捕獲依頼か……魔物を乗馬にするなんて、この前の全身鎧の魔術師くらいしかいないかと思ったが……。
インバハネスの街では、意外と普通なのかもしれない……。
まぁ、でも捕獲しようとして怒らせたというのは理解できた。
「そういうことか」
「ああ、依頼は失敗だ。だが、オレも命は惜しいんでな! どこの誰だか知らんが、オレたちはあんたらに押し付けてこのまま逃げさせてもらう」
冒険者の男はそれだけ言うと、仲間を連れて、馬車のある場所からは違う方向に駆け去っていった。
「まったく、面倒なことをされる方でしたね……。押し付けられる方の身にも――」
『うう、刀身が疼いてしょうがないですっ!! ガンガン、斬ります!』
「そうだな。だが、のどかな旅が続いていたから、ここら辺りで一度戦いの勘を取り戻した方がいいかもしれん」
俺はそう言うと魔剣を引き抜き、迫ってくる混沌馬と角馬たちの群れを待ち構えることにした。
「ブフィフィーン!!!」
群れのリーダーらしい体躯のデカい混沌馬が、俺たちの姿を見て駆けるのをやめ、いななきを発して棹立ちになる。
でっけえ……王都周辺にも混沌馬はいたが、ここまでの巨大なやつはいなかったよな。
体中が傷だらけだし、歴戦の古馬といったところか。
リーダーの発したいななきに反応した群れは、逃げていた冒険者を追うのをやめ、俺たちを取り囲み始めていた。
怒り狂って暴走してるかと思ったら、リーダーの一声で我に返って囲んできたな……。
意外と統率された集団かもしれないぞ……。
「ノエリア、囲まれるから気を付けてくれよ」
「ええ、承知しております。この群れは普通の混沌馬の群れとは違う様子……」
ノエリアもすでに群れの様子を見て、即座に魔法を放てるよう杖を構え警戒を強めていた。
俺たちは混沌馬と角馬たちの群れを相手に、久し振りの魔物討伐をすることにした。
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更新再開後も多くの方に読んで頂けているようで、一安心しております。
今後とも剣聖の幼馴染をよろしくお願いします/)`;ω;´)
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