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【書籍完結&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく当たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)  作者: シンギョウ ガク
獣人都市インバハネス編

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47:熱血翼竜講義

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 跳鹿羚(スプリングガゼル)の皮を剥ぎ終えたノエリアに、改めて翼竜の食性の講義をしていた。



「ディモルたち翼竜は捕らえた獲物を丸呑みする習性だし、歯こそくちばしの中に付いてるけど、噛み砕くためじゃなくて獲物を丸呑みする際、落とさないためのものらしい。だから丸呑みしやすいよう小さく切ってあげるんだ」



 俺自身、ディモルの世話をしていて気付いたことを語らせてもらっている。


 万が一、俺が別行動でディモルを連れていけない時は、懐いている彼女に世話を頼みたい。


 そのため、自然と語る言葉に熱が入ってきていた。



「そ、そうなのですか。フリック様は、随分と熱心にディモルの世話をされていたようですからね」



 ノエリアは俺の話を熱心に聞きながらも、手を止めずに狩猟用のナイフで皮を剥がれ丸裸になった跳鹿羚(スプリングガゼル)を解体していく。


 大貴族の令嬢である彼女だが、冒険者として普通の人以上に野外活動をしてきているため、解体は手慣れた様子だった。



「ああ、翼竜は口に入らない大きさの獲物の時は、足のかぎ爪で引き裂いて小さくして丸のみするっぽいんだ。大きい狂気猪(マッドネスボア)はディモルがそうやって食べたから、野生のやつもそうしてるのかと」


「たしかにヤスバの狩場では、かぎ爪で引き裂かれた魔物の死骸もけっこう見かけましたしね。あれは翼竜の食事のあとだったということですね。でも、野生の翼竜は自分で食べるのに、ディモルにはなんで食べさせてあげるんですか?」



 跳鹿羚(スプリングガゼル)の解体が進み、ディモルが食べやすいように小さな塊に切り分け始めたノエリアが餌を準備する理由を聞いてきた。



「律儀に食事の許可を取ってくるディモルが可愛いから、つい自分で食べさせたくて。許可だけだせば自分で食べるんだろうけど、それはそれで寂しいというか、なんというか」


「え? それだけの理由ですか?」



 肉を切り分けていたノエリアの手が止まった。



 な、なんか俺おかしなこと言ったか?


 自分に懐いてくれてると、お返しに自分も何かしてあげたくなるのって普通だよな。


 もしかして、こんな考えをするのって俺だけか。



 ノエリアの反応を見て、自分が変なのではと焦った俺は、慌てて別の理由も付け加えることにした。



「い、いや。あとは、魔物化していってないかの様子観察も兼ねてるからっ!」


「い、いえ。そうなのですね。ディモルはそこまでフリック様に気に入られてるとは……。さて、これで準備はできました。ディモルもお待たせしました」


「クェエエ!!」



 少し落胆した様子のノエリアが、ディモルの前に跳鹿羚(スプリングガゼル)の肉を置いていた。



「ディモル、食べていいぞ。ちゃんとノエリアにお礼を言ってからな」


「クェエエ!!」



 俺の許可を得たディモルが、餌を作ってくれたノエリアに向かって鳴くと、切り分けられた肉を丸呑みしていく。


 その様子をノエリアがぼんやりと眺めていた。



 やっぱ俺、なんか変なことを言ったんだろうか……。


 明らかにノエリアの元気がなくなった気がしてならないんだが。


 ディモルの餌のお世話が思った以上に大変だったんだろうか。


 それとも、俺が翼竜の生態について熱く語り過ぎたのだろうか。



 どことなくいつもと違う様子のノエリアとディモルの餌を作り終えると、先に昼食の準備を始めていたスザーナが近寄ってきた。



「フリック様、ノエリア様、昼食ができましたよ。二人とも魔物を捌いてますから手はしっかりと洗ってくださいね。やらないとお腹を壊しますよ」



 石を組んで作った焚火には、あぶった干し肉を刺した串と乾燥野菜を塩で煮込んだだけなスープの入った鍋が見えた。


 簡単な食事だが、野外を移動中であることを考えれば贅沢な食事である。


 荷馬車で生活道具を積んで移動しているのが、地味にありがたく感じる瞬間だった。



「魔物に限らず動物には――」


「分かっております。わたくしももう子供ではないので、それくらいはきちんとできますから」


「分かってますよ。俺は手洗いをさぼってお腹を下したことがあるんで」



 スザーナが手洗いについての講義を始めそうだったので、ノエリアと一緒に荷馬車へ向かい、荷台に備え付けてある水樽の蛇口をひねっていた。



 本当に荷馬車で移動ができて楽だな。


 こうやって手を洗うためだけに多くの水も貯めておけるし。



 駆け出しの時、移動の疲労と手洗い用の水が確保できなかったことで、魔物を捌いて血のついた手を洗わず、軽く布でぬぐってそのまま食事をしたら、その夜に猛烈なお腹の痛みに苦しめられた記憶がある。


 本当に死ぬかと思うくらい腹が痛くて、翌日はほとんど移動もできず、アルフィーネに散々文句を言われた。


 以来、絶対に魔物を捌いた後はどんなに忙しくて水が限られていても手を洗うことを最優先にしていた。



 魔物の血で汚れた手を綺麗に洗い、汚れていない布で手を拭く。



「さて、手洗いも終わったし、俺たちも食事しよう」


「はい、そうですね。色々とあってお腹が空きました。考えるのは後にして、まずはお腹を満たそうと思います」



 少し元気を取り戻した様子のノエリアも同じように手洗いを終えていた。


 なので一緒に食事の席に戻ると、二人でスザーナの作った食事を楽しむことにした。



 さっきノエリアが元気なかったのは、きっとディモルの餌づくりが思いのほか大変でお腹が空いていたからだろう。


 別に俺が変なことを言ったというわけじゃないようだった。


 よかった、変なやつとか思われてたらディモルの世話を頼みにくくなるし、旅の中でも関係がギクシャクしそうだしな。



 俺は食事をしているノエリアの横顔をチラリと見ると、ホッと安堵の息を漏らしていた。


ディモル愛が漏れ出すフリックさんでした。



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― 新着の感想 ―
[一言] ノエリアってどんな子なんだ?
[一言] なるほど、野生の状況は想像できましたが、なぜわざわざ人の手で細かくするのかが分からなかったので納得です。
[一言] 奇妙な三角関係だなぁ? 彼女にしてみれば、子煩悩な瘤付きバツイチに惚れた気分に違いない。 それを傍観するメイド氏は、ウマウマですなぁ。
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