30:材料集めも大変だった。
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数十頭の狂気猪の群れの突進を前にして剣を構えた。
さっきの感じで剣を使えば、狂気猪に対して、剣を傷めることなく倒すことができそうだ。
魔素木を次々になぎ倒しながら、数十頭の狂気猪たちが一斉に突進してきた。
「いきますっ!」
突進してきた数十頭の狂気猪たちから、素早い動きで身をかわすと剣で一気に斬り裂く。
「「「ぶもおおおおおおぉっ!」」」
仲間から発せられた血の匂いに狂気猪たちがさらに興奮をする。
興奮した狂気猪は仲間が傷つくこともためらわず、俺を目がけて牙を突き立てようと突進してきた。
「おっと、当たると痛そうだから、避けさせてもらうよ」
殺到する狂気猪の突進を身軽になった身体で次々に避ける。
「フリック、いちおう持ち帰るのは頭に付いてる血吸い茸だけだからな。身体の方は昼飯用にしたいから、綺麗に首を飛ばして血抜きしといてくれ」
最初に斬った狂気猪の頭部から、血のように真っ赤な色をした傘の部分を持つ血吸い茸を慎重に切り分けていたガウェインから、昼飯用に狂気猪を処理しろと注文が入った。
「はぁ、頑張ってみます」
そういえば、腹減ってきたな……。
身体強化魔法を常時発動させてるからお腹が減るのも早い。
とはいえ、これだけの量は食い切れないと思うんだが。
食べきれなかった分は、軽量化して翼竜に積めるだけ積んで帰るか。
皮とか牙とか置いていくにはもったいないし。
俺は自分に群がってきている狂気猪の群れを昼食にするため、なまくらな剣を振り抜き、衝撃波で首を飛ばしていった。
「ふぅ、ガウェイン様終わりましたよ」
俺を襲ってきて、首を失った狂気猪たちの流す血で地面が真っ赤に染まっていた。
狂気猪の群れは一頭残らず動かぬ死体となっていた。
「ご苦労さん、ご苦労さん。きちんと首を飛ばしてくれとるな。これで血吸い茸は十分に手に入りそうだ。さて、飯にするからフリックの魔法でサッと手早く皮ごと丸焼きにしてくれ。わたしは三つくらいでいいぞ」
「え? そのままですか? さばかなくてもいいんです?」
「時間もないからな。サッと食って次の材料集めに行かないと」
「はぁ……分かりました。俺は一つくらいで腹いっぱいになりそうですから四つ丸焼きにしますね」
俺は手近にあった狂気猪の死体を四つ分綺麗に並べると、ポーチに常備している塩を取りだし多めにふりかけた。
下処理というわけではないけど、多少の塩気があれば旨味も感じられるはずだ。
綺麗に並べて塩を振った狂気猪に向かって火の壁の魔法を詠唱した。
火の壁が発動し、狂気猪が炎に包まれ、しばらくすると、肉の焼ける香ばしい匂いが鼻孔をくすぐる。
その匂いに、くぅ~っと俺の腹が鳴き、栄養を補給してくれと訴えてきた。
「こっちも血吸い茸は取り終えた。ついでにこれはお前にやる。牙も売れば金になるだろ?」
肉を焼いている間、狂気猪の頭部から血吸い茸を切り取っていたガウェインから、大量の牙を渡された。
狂気猪の討伐依頼を受けているわけではないが、これらの素材を冒険者ギルドに持ち込めば相場の価値で引き取ってくれるのでもらっておいて損はない。
「ありがたくもらっておきますね。肉も焼けたようですし、サッと昼飯を食べて次の材料集めに行きましょうか」
「おぅ、そうしよう。次はちょっとばかし硬くてすばしっこいやつで生け捕りしないといけないからな」
「硬くてすばしっこいやつですか……」
「まぁ、今は飯だ。飯」
そう言ったガウェインが、ほどよく火が入った狂気猪を自分のナイフで切り分け、かぶりつき始めていた。
俺もそんなガウェインに倣い、空腹を訴える身体に狂気猪の焼いた肉を与えることにした。
昼食を終えると、木に止まって律儀に待ってくれていた翼竜―ディモルと名付けた―を呼び、軽量化した狂気猪の死体を山のように括りつけ、次の場所に向け地上要塞亀に撃ち落とされないよう木の高さスレスレの低空飛行をしていた。
見た目だけならディモルは絶対に飛べるようには見えないけど……。
普通に飛んでるな……これ見たらノエリアがびっくりするだろうか……。
ディモルの背には一〇頭ほどの狂気猪が括りつけられているが、軽量化されているため全部まとめても俺と同じくらいの重さしかない。
「ディモル、重くないか?」
「クェエエ!」
他の翼竜に比べ体躯がデカいディモルにとってはあまり苦にならない重さのようだ。
軽快に羽ばたきながら、低空をすいすいと飛んでいた。
「帰ったら、お前にもお肉をおすそ分けしてやるから楽しみにしてろよ」
「クェエエ!」
そう言って首筋を撫でてやると、俺の言葉を理解したのか喜んだような鳴き声で鳴いた。
「さて、そろそろ最後の材料である生体金属生物がいる古代遺跡が見えてくるはず。あった、あった。アレだ、アレ」
先行するガウェインが指差す先には、半分崩れかけた石造りの遺跡が見えてきた。
王都に居た時、古代遺跡の調査、探索、発掘を専門にした冒険者の『エクスカベーター』をやっていた人にチラリと聞いたが、ああいった場所は王国ができる前に繁栄していた文明が残した物らしい。
大半が崩れているらしいけど、たまに古代の文書等の出土品が見つかったりして、そういった物をコレクターに売り捌いて稼いでいるそうだ。
ちなみに俺はこういった遺跡には入ったことがない。
主に依頼を選んでいたアルフィーネが、暗くて狭い場所がヤダという理由で遺跡での討伐依頼を選ばなかったのが原因だが。
そう思っている間に遺跡の前に到着して降り立っていた。
「あとは、あそこで生体金属生物を捕まえれば材料集めは終わりですか?」
「ああ、二体ほど捕まえれば一本分の金属として使えるだろうな。銀色のスライムだから見失うなよ。いつもは入り口のあたりをうろうろしてるが――いた」
ガウェインが遺跡の前を指さすと、銀色のぶよぶよした物体がのそのそと動いていた。
「あいつらは人の気配に敏感だからな。一気に詰めて捕獲した方がいいぞ」
俺は声を出さずに頷くと、息を殺して遺跡の入り口にいる生体金属生物たちに近づいていった。
まだ、こっちには気付いていないようだな。
このまま、捕獲できるか……。
あと少しまで近づいたところで、不用意に足元の小枝を踏んでしまった。
「!?」
「見つかった!?」
俺の気配に気付いた生体金属生物たちが、一斉に逃げ出そうと動き始めた。
このままだと逃げられる。
俺はとっさに石の壁の詠唱を始めた。
「石の壁となりて、我が指が示す先に発現せよ。石の壁」
詠唱により俺が指を差した先に発動した石の壁の石壁が盛り上がり始める。
逃げていた生体金属生物たちの退路は高い石の壁で遮られていた。
「そっちに逃げ道はないぞ。諦めて俺に捕まれ」
石の壁の前でうねうねと動いていた生体金属生物たちは、まだ諦めてないようで壁の切れ目を見つけるとそちらに向けて全速で逃げ始めた。
「させるか! 石の壁となりて、我が指が示す先に発現せよ。石の壁」
切れ目をなくすように新たに石の壁を作り出して囲み、生体金属生物たちの退路を断った。
「これで逃げ道はないぞ。諦めろ」
石の壁で囲まれたと察した生体金属生物たちは、お互いに身を寄せ合いふるふると震えていた。
ちょっとかわいそうな気もするが……。
仕方ないことだ。
俺は石の壁の中に降りると、捕まりたくない一心で逃げ回る生体金属生物を追いかけ回して何とか革袋の中に捕獲することに成功した。
「ふぅ、これで終わりか」
「ご苦労さん、ご苦労さん。これで大体の材料が集まったから明日から製作にとりかかれるはずだ。とんでもない剣になると思うから楽しみに待っておけ」
石の壁の上で、身体強化した俺が生体金属生物を追っかけまわすのを見ていたガウェインがニヤリと笑っていた。
どうか、普通の剣を作ってくれますように……。
俺はそんなことを思いながら、革袋の中で暴れる生体金属生物が逃げ出さないよう厳重に縛ると石の壁の魔法を解いた。
フリック専用翼竜に名前付けましたディモル君です。(非常食じゃないです)
撃墜されて非常食として食べられないように移動手段兼仲間として頑張ってもらいます。
魔剣へ向けて材料が集まりましたが、吸魔草の実、血吸い茸、そしてメタルスライムを材料に変人鍛冶師が仕上げる剣はまともなのか一抹の不安がありますが。品質は最高のはず。
さて、次話ですがアルフィーネ視点です。剣聖アルフィーネとしてのひとまずの決着がつく話かと。
今後とも剣聖の幼馴染をよろしくお願いします。
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