27:翼竜の乗り方を教えてもらった
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「おはようー、って!? ノエリア!? なんかすごい顔をしてるぞ。なんだ、その目の下の隈は!?」
野営していた寝袋を片付けていると、先に母屋に入ったガウェインが叫んでいる声が聞こえてきた。
ガウェインの慌てた声に、母屋にいたノエリアに何か起きたのかと思い、寝袋を放り出して駆けつけた。
「ノエリア、何かあったのか?」
中に入ると、目の下にでっかい隈が浮き出たノエリアが居た。
「フリック様!? ……な、なんでもありません。少し、魔法研究所に送るための手紙を書いてて夜更かしをしてしまっただけですので」
俺の姿を見たノエリアが慌てた様子で顔を手で隠していた。
ちらりと見えたが、結構くっきりとした隈が出てたよな。
ノエリアは魔法に関することとなると、わりと時間を忘れて熱中する子だったな。
「そうか、ちゃんと睡眠はとった方がいいと思うぞ。魔法の研究が王国から与えられている仕事とはいえ根を詰めるのは身体に悪いからな」
俺からの言葉に顔を手で覆っていたノエリアがビクリと震えていた。
震えてる? あれ? ちょっと、きつい言葉だっただろうか……。
「!? お気にかけていただきありがとうございます。以後、気を付けますね。朝食はすでに準備しておきましたので、これから少し眠らせてもらいます」
「あ、ああ。そうした方がいいな」
「それならわたしが抱っこで運んでやっても――」
ガウェインが無意味に筋肉をアピールしていた。
「子供ではないので大丈夫です」
ピシャリとガウェインの申し出を断ると、足元をふらつかせているノエリアがベッドのある部屋の方へ去っていった。
「フリック、なんだかわたしに対するノエリアの態度が素っ気ないと思わないか? 前はあんな子じゃなかったんだがなぁ」
多分、無駄に筋肉をアピールするのが面倒なのと、怪我しないよう触れ合いをなるべく避けているだけだと思われる。
だが、そのまま伝えるとガウェインがかなりのショックを受けそうな気がしたので、なるべくぼやかして伝えることにした。
「ノエリアも成人した女性ですからね。自分の子供時代を知っている人とは気恥ずかしさもあるのではありませんか」
「わたしは子を持ったことがないので分からんが、そういうものか?」
「俺もないですけど、多分そうだと思いますよ」
「そうか、なら仕方あるまい。さて、今日は飯を食ったら身体強化魔法に慣れるため、魔物を狩りに行くぞ。ついでに剣の材料集めもするがな」
そう言ったガウェインは、席に座るとノエリアの作った大量の朝ごはんに手をつけ始めた。
「魔物の討伐はどこまで行くんです?」
「魔境の森まで入るぞ。ここからなら日帰りで帰ってこれる。お前に合う剣を作ろうとすると、色々と足りない素材が多くてな。入口周辺を探索がてら鍛錬もしろ」
魔境の森に入るのか……。
ロイドたちと入ったのとは反対側からの侵入だけど、きっと魔物たちも強いのがウロついているんだろう。
ただ、身体強化魔法でどれくらい自分の剣術が向上しているのかを確かめるにはちょうどいい機会だった。
「分かりました。魔境の森まで行くなら、すぐに食事を終えて準備をしないと」
俺も席に座ると用意された朝食に手を伸ばし、急いで食べるとすぐに探索に出かける準備に入った。
魔境の森へ探索に行くと言っていたので、森まで歩いて行くのかと思ったが――
「わたしもそろそろ歳だからな。楽をせねばならんと思うのだ。で、あそこに翼竜の姿が見えるだろ?」
材料を入れるための大きな背嚢を背負って先頭を歩いていたガウェインが、唐突に足元にあったこぶし大の石を手にする。
嫌な予感がする。
咄嗟に止めようと手を動かすが、間に合わずこぶし大の石はガウェインの手からものすごい速さで翼竜に向かって投げられた。
「何してるんですか!? あれじゃあ、翼竜がこっちに来ますよ!」
「その方が手間を省ける。これ持っとけ」
自分の背嚢を俺に預けたガウェインが、手に太い荒縄だけを持って旋回してこちらに向かってきている翼竜めがけて駆けだした。
相変わらずやることが無茶苦茶である。
でも、相手は一頭だけだから何とかなるか。
背嚢を地面に置くと、俺は援護のための魔法をいつでも撃ち出せるように身構えた。
「援護します」
「いらん、こんなのは腹ごなしの運動にもならん簡単な仕事だ。お前も冒険者として生きるなら翼竜くらいは足代わりに使えるようになった方がいいぞ」
援護を断ったガウェインが、怒り狂って急降下してきた翼竜の攻撃をかわすと、大きく開いていたくちばしへ太い荒縄を咥えさせていた。
そして咥えさせた荒縄を両手で持つと、そのまま翼竜の背中に乗っていた。
「ざっとこんな感じだ。後は、こうやってなー」
背中に乗り込んだガウェインが足で翼竜の背を蹴っていく。
翼竜はガウェインを振り落とそうと、急旋回や急降下を続けるが、それに振り落とされずに背中を蹴り続けていた。
やがて、翼竜が悲鳴のような声を上げると、旋回や急降下を止めてガウェインの指示に従い始めた。
「という感じだから、フリックも背嚢の中に残ってる荒縄を使ってやってみればいい。こいつらを足代わりにすれば移動も楽ちんだ。ただ、街とかには降り立つなよ。魔物の襲来と間違って矢を撃ち込まれるからな」
まさかとは思っていたが、昨日の翼竜の翼に矢が刺さっていたのは、ユグハノーツまで飛んで魔物の襲来と勘違いされたってことだったか。
ガウェインってもしかして、ユグハノーツで色々とやらかして住まわせてもらえなくてヤスバの狩場に工房を構えていたとか?
ありえる……まだ、会って二日だけど色々とあったからその可能性は大いにありえる。
俺は翼竜に乗ってご機嫌なガウェインを見てて、そんな結論に達していた。
とはいえ、この翼竜での移動は歩くよりは格段に速い。
移動時間の短縮にはもってこいの方法だ。
街には降り立てないけど魔境の森の中を慎重に歩いていくよりは、時間も魔力も体力も節約できそうだった。
「分かりました。やってみます」
俺は足元のこぶし大の石を取ると、瞬発力強化と筋力強化を発動させた。
そしてエサを探して上空を旋回してた別の翼竜へ向け、こぶし大の石を思いっきり投げつけた。
石はみごとに当たり、俺の存在に気付いた翼竜が威嚇の声を上げ急降下してきた。
俺は荒縄を両手に持つと、降りてくる翼竜の動きを慎重に見定める。
ぐんぐんと姿がデカくなって……なって……なって!?
なんかデカすぎない?
「やるなぁ。わたしもそいつはデカすぎてやめようと思ったやつに挑戦するとは。さすが、フリック。わたしが触れ合いを許した男だ」
「え!?」
凶悪そうな顔つきの大きな翼竜が、一気に俺の目の前まで降下してきた。
すでに迷っている時間は残されていなかった。
今だ! ここっ!
鋭いくちばしを避け、大きく口を開けた隙を突いて、太い荒縄を翼竜の口の端に咥えさせた。
「よし、これでいけるっ!」
荒縄をしっかりと握ると、身を返して大きな翼竜の背に飛び乗った。
「わわわっ! 振り落とされる!」
「踏ん張れよ。振り落とされたら、空中で鋭いくちばしに突かれるぞ。そうなると、わりと痛いからな」
それって、絶対にわりと痛いじゃ済まされない傷になりますよね?
俺はそうガウェインに言ってやりたかったが、振り落とされないようにするのが精いっぱいな状態だった。
「くそ、言うことを聞け!」
ガウェインに倣って、口に咥えさせた荒縄を引き絞り、翼竜の背を強く蹴る。
だが、俺の意思に反し、翼竜は急旋回や急降下を続け振り落とそうとしていた。
だめだ、全然言うことを聞かないぞ。
どうしたら、言うことを聞くように……。
俺は翼竜に振り落とされないように必死でしがみついてる間、どうすれば大人しくなるか考えていた。
魔法で痺れさせたら言うことを聞くだろうか?
蹴ってるだけじゃ、らちが開かないし、これ以上振り回されたら落とされちまう。
やってみるしかない。
俺はノエリアから習った雷の攻撃魔法を使って、なかなか言うことを聞かない翼竜を痺れさせることにした。
「小さき雷となりて、我が手より発現せよ。感電」
旋回が緩んだ隙を見て、片手を翼竜の背に触れた。
紫の光が手から発せられると、感電した翼竜が大きな悲鳴をあげていた。
だが、まだ抵抗を諦めていないようで再び急上昇を始め振り落とそうとする。
「だったら、もう一発だ。小さき雷となりて、我が手より発現せよ。感電」
二発目の感電が翼竜に入ると、先ほどよりもさらに大きな悲鳴をあげ、そして急上昇を止め、俺が荒縄を引っ張った方へ向かい飛び始めた。
「ふぅ、ようやく従ってくれたか」
「おぉ、翼竜を従えたみたいだな。こいつらは背中を取られて屈服した相手には従順だからな。ちゃんと世話してやれば口笛で呼べるようになるぞ。非常食兼移動用の乗り物として非常に使い勝手のいい連中だ」
そうだったのか……。
でも、ガウェインってその翼竜を食ってたよね。
俺は……そんなこと言われたら食えないんだが。
手綱代わりの荒縄を咥えた翼竜がちょっと不憫に感じられた。
大丈夫だ。
俺は多分、お前を食ったりはしない。
「さて、移動の足も手に入れたし、目的地へ急ぐぞ」
「はい、先導をよろしくお願いします」
俺たちは翼竜を手に入れると、魔境の森へ向かって一直線に飛んでいった。
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今後とも剣聖の幼馴染をよろしくお願いします。
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