138:謝罪
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「フィーンだけは甘えていいって、勝手に自分で決めて、あの日絶縁されるまでずっとずっと甘えてきてた。あたしとフィーンは特別な関係だから、何しても大丈夫なんだって、ずっと勘違いしたままね。でも、違った。甘えてていい子供の時間は、とうに終わってたのを全く気付くことなく、甘え続けてたんだから、愛想をつかされてもしょうがないよね。本当に馬鹿だって自分に呆れる」
「違う。……俺はアルフィーネを守ってやらなきゃいけなかった……。約束してたんだから……」
自分が創り上げていた自分勝手でわがままな剣聖アルフィーネという虚像が消え、目の前には孤独に恐怖するただの弱々しい女の子がいた。
「フィーン、それは違うよ。あたしがアルフィーネという名を捨てたのと同じように、フィーンもフリックとして生きることを決めたんでしょ」
「あ、ああ。そうだけど……。それだとアルフィーネが……」
ひとりぼっちになっちまうだろうが……。
生まれた時から家族も同然に暮らしてきたから、人付き合いに不器用だって知ってるんだぞ。
逃げ出した先のユグハノーツでノエリアと出会ってから、ずっと俺のアルフィーネに対する想いが何だったのか考え続けてきた。
幼馴染として、また相棒として、また恋人として暮らしてきたけど、俺の中で出た答えは家族だった。
世間で言う、妹とか姉という存在。
一番身近な異性、それが俺の中でのアルフィーネだった。
涙でべしょべしょに濡れた頬を拭ったアルフィーネは、それまでの表情を一変させ、以前の自信に満ち溢れる剣聖の顔に戻った。
「大丈夫だよ。フィーン、もう大丈夫。あたしはこの旅の中でフィーン以外にも自分のことを心配してくれてる人がいたってことに気付いたし、自分から関わってあげたいと思う子もできた。もう、ひとりぼっちじゃないんだよ。だから、安心して自分の選んだ道を進んで」
「アルフィーネ……」
『大丈夫』と自分に言い聞かせるように頷いていたアルフィーネは、ソファからおもむろに立ち上がったかと思うと、床に膝を突いて座った。
「あと、これはあたしがアルとして生きるために必要なことだから止めないで」
それだけ言ったアルフィーネは、床に頭を擦り付ける。
「幼馴染であり、信頼できる一番の相棒だったフィーンに対し行った数々の暴言、わがまま、無茶な要求したこと、この場を借りて謝罪させてもらいます。あたしの行いで、フィーンに深い傷を残したこと謝って済むとは思ってないので、今後一切貴方の前には現れないことを誓います。本当に申し訳ありませんでした」
「なにやってんだよ! アルフィーネ! 謝罪なんてもういらない! 俺がただ弱かっただけなんだよっ!」
「ごめんフィーン、これはアルフィーネとしての最後の一番自分勝手な行動。でも、これが最後だからごめんね」
「もういいって!」
しばらく無言で頭を擦り付け謝っていたアルフィーネが顔を上げた。
そこには、孤独におびえる女の子でもなく、わがままな幼馴染でもなく、自分勝手な剣聖でもない青年冒険者として生きる決意を固めたアルがいた。
「アル様、ごめんなさい。ごめんなさい。わたくしがいなければ……」
「ううん、いいの。フリックさんのことよろしくね。ノエリアに教えておいたこと以外にも色々とあるけど。基本なんでも卒なくこなすし、ものすごく優しい人だから、有名になればなるほど色んな人から好かれると思う。それこそ、男性からも女性からもね。だから、絶対に手を放したらダメだからね。あたしはノエリアだから任せる気になったんだし」
「アル様……本当に申し訳ありません……」
「フリックさんの隣に立つべき辺境伯令嬢様が、そんな不安そうな顔を見せたらダメだからね」
目元に涙を浮かべていたノエリアの鼻先に、アルフィーネは自分の指を突きつけていた。
二人は仲良くなってたと聞いてたけど、今の様子を見ていると、昔からの友達とも言えるような親密さだ。
「承知しました。フリック様の隣に立っても恥ずかしくないように頑張ります」
「きっとフリックさんは、そのままのノエリアが大好きだと思うよ。だから、自信は持ってもいいけど、背伸びはしなくていいと思う。自然体のノエリアが一番だろうしね」
「は、はい」
涙目のノエリアを励ましていたアルフィーネは、俺の方に向き直ると、もう一度深く頭を下げた。
「フリックさん、ノエリアとお幸せにね。ボクは、冒険者アルとして目指す道を突き進むことにするから」
その顔がアルフィーネの精いっぱいの虚勢だって、俺にはわかるんだぞ。
どれだけ俺が一緒に居たと思ってるんだよ。
俺に背を向けて、部屋から出て行こうとするアルフィーネの背中を見て、溢れ出そうとする言葉を止めきれなくなった時、屋敷の外が急に騒がしくなった。
窓を開けて外を見ると、翼竜に乗った騎士が中庭に降りようとする姿が目に飛び込んでくる。
軽装なところを見ると伝令か?
とんでもなく慌てた様子だけど、何かあったのだろうか?
中庭に降りた騎士は、ロイドの姿を見つけると、大事に抱えてきた書簡を差し出しながら、伝令内容を大声で伝えていく。
「ロイド様! ユグハノーツのマイス様より! アビスフォールの警戒を任せていた冒険者たちからの連絡途絶! ユグハノーツ近隣にてアビスウォーカー目撃情報多数! マイス様は周辺の村人たちの収容を決断し、ユグハノーツの城門を閉じました。詳しいことはこの書簡に! 至急、援軍を頼みます」
伝令の騎士の放った声が、 開けられた窓から聞こえてきた。
ヴィーゴだ! きっと、ヴィーゴが動いた!
確定情報がないけど、アビスフォールを制圧し、あの大穴に扉を開いて第二の大襲来を引き起こすつもりだ。
その邪魔をさせないよう、アビスウォーカーを使役してユグハノーツを陥落させにきたに違いない。
「フリック様」
「フリックさん」
「大変なことになってるみたいだ」
俺たちはすぐにロイドのいる中庭に降りていった。
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