sideロイド:秘する出生
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「まず、最初に聞くがライナスたちが捕縛された嫌疑を覚えておるか?」
「たしか、ライナス師が『超人計画』という計画のもとで複製人間を大量に作り出して、王国を乗っ取る武装蜂起を企図していたという荒唐無稽な嫌疑だったはず。それはジャイルの妄想だったという話で決着がついたはずですが……」
「ああ、その通り。でも、『超人計画』自体は、大襲来中にライナス主導で秘密裏に計画され、実施されてたって話さ。それにうちの馬鹿娘も関わってた」
口を開いて語る義母の顔色はより一層、蒼白に染まっていく。
「大襲来中に実施されていた? 『超人計画』がです?」
「そうだって言ってるだろう。古代魔法文明期の魔導器を使い、複製した人間に魔物の因子を定着させた魔石や竜の血を使い、通常の人類を超える身体能力や魔力量を与えられ強化された人類を生み出す計画。それがライナスの企図した『超人計画』の全貌だったというわけさ」
なっ!? 強化された人類を生み出す計画!?
そんなことをあのライナス師が行っていたと!?
にわかには信じられんが、義母上が冗談をわしに言うことはないだろうし……。
「まだ、驚くのは早い。ライナスはその計画で複製する人間のため、ハートフォード建国王であるヴェルンヘル様と初代剣聖ゼルマ様の遺髪を使いおった。この意味がお主でも理解できるであろう?」
初代剣聖ゼルマ様は、隔絶した身体能力を持ち剣姫と言われた女性剣士で、ヴェルンヘル様が王になられた後に正妃になられた方。
一方、建国王のヴェルンヘル様は古代魔法の使い手でありながら、剣の腕もすごかった魔法剣士だったはず。
ともに珍しい黒髪黒目だったが、今の王家は色んな血が混じり、黒髪黒目の者はいない。
ただ、今でもあまり見かけない黒髪黒目の者たちは、建国王の血を引いている者と迷信混じりに言われるほどだしな。
ん? 黒髪黒目……。
膨大な魔力と卓越した剣技を持つ者と、身体能力に優れ、超絶技巧の剣技を扱う者……。
まさかな。そんなことがあるわけが。
義母の話を聞き、自分の中に沸き起こった疑問を必死で否定する。
「ロイド、お前はライナスの計画で生まれた強化人類の子を全員見てるはずだよ」
必死で否定しようとしていた自分に、義母が容赦ない事実を突きつける。
「ライナス師の計画で生まれたのが、フリックとアル。いや、フィーンとアルフィーネだと言われるのですか?」
今でこそ、二人とも容姿を変えてしまっているが、もとは黒目黒髪だとロランから報告されている。
フリックは、百年に一度と言われた魔力量を持つノエリアを超える膨大な魔力を持ち、剣技も超一流の域に達する者。
アルフィーネも若い女性でありながら、抜群の身体能力と我流で鍛えた超絶技巧を誇る剣の腕を持つ者。
常々二人の活躍を聞いていて、圧倒的過ぎる力をどうやって得たのか不思議ではあったが、今聞かされた出生の秘密によって疑問が氷解していく。
「シンツィア、義母上の話は本当なのだな?」
黙して語ろうとしないシンツィアに、義母の話の真偽を問う。
彼女は無言で頷いた。
「そうか……」
フリックは建国王の遺髪から複製され強化された人類。
アルフィーネは初代剣聖の遺髪から複製され強化された人類。
そして、フリックは建国王の血を引く者となるか。
魔導器によって複製された者が王位継承できるかは知らんが、フリックが王家の血を持つ者というのは事実になるんだろう。
「一つだけ質問が。義母上は、フリックは王位継承する有資格者と見ますか?」
「見ないよ。世に出せない話が多すぎるし、本人たちも知らない方がいい話さ。フリックは孤児院育ちの冒険者で、英雄ロイドに認められたエネストローサ家の大事な婿様で十分。無駄に重荷を背負わす必要はない」
「ですな……。この話は色々な意味で重大すぎる」
自分が命を賭して大襲来を終息させた裏で、そのような非人道的な行為がされていたとは……。
それを尊敬していたライナス師が……主導していたとは……。
「ロイド聞いて! ライナス様は王国を守るために必死だった! アビスウォーカーの被害で滅びゆく王国を守るため必死に考えて実行に至ったの! あたしはそばでライナス様や仲間の苦悩する姿を見ていた。もちろん、フロリーナの苦悩する姿もね。禁忌の技術だという認識は関わった者全てが共有していたの」
それまで黙して語らなかったシンツィアも、黙っていることに耐えらず喋りはじめた。
「みんなは必死で研究を進め、王国を守るための切り札として彼らを生み出そうとしていた。けど、あたしは人工生命を作り出すことに耐えられなくなって、何もかも放り出して逃げた。せめてもの償いに、一体でも多くアビスウォーカーを道連れにして死ぬ気だったからね。けど、死ぬのも怖くなってこのざまよ」
シンツィアは、がらんどうになっている鎧を、自らの拳でコンコンと叩いた。
「フロリーナが急にいなくなった君のことを責めなかったのは、そういった事情があったのか」
「優秀すぎる彼女は、あたしの心の弱さを見抜いてたからね。最後に会った時、逃げてもいいよって言ってくれた」
「あの馬鹿娘が優秀? それは違う。ただの愚か者だよ。禁忌の技術に魅入られた愚か者さ! 自分のお腹に授かった旦那との子を、『超人計画』で得た派生技術の実験台に勝手にしたんだからねっ!」
怒るところは見たことがあるが、義母が見境なく物に当たり散らし激昂したところを見たのは初めてだった。
「義母上、今なんと……言われましたか?」
「金輪際口にする気はないから、よく聞きな。私の娘フロリーナは、胎児だった孫娘ノエリアに身体とともに成長し、魔素を効率よく魔力に変換して貯め込む魔石を埋め込んだのさ。ノエリアが膨大な魔力を持つのは、その魔石の力によるところが大きい。そうだろ、シンツィア」
義母の問いに言葉を詰まらせたシンツィアだったが、やがて無言で頷いた。
「馬鹿な……ノエリアが……。そんなわけあるまい。あの子はずっと努力してあの魔力を手にした普通の子だ。義母上もシンツィアも冗談が過ぎますぞ」
「あんたは外で戦ってることが多かったから知らないだろうけど、大襲来の時に妊娠していたフロリーナはどこかおかしかった。当時は妊娠の影響かと思ってたけど、今思えば自分の行った所業に恐怖していたのかもしれない」
恐怖か……。
たしかに突入部隊に参加したフロリーナは、それまでどんな場面でも崩さなかった陽気な表情ではなく、鬼気迫る表情だった。
無茶に無茶を重ねたフロリーナらしくない戦い方は、ノエリアの件が裏にあったのかもしれないということか。
妻との最後の共闘だった戦闘を思い出し、何もしてやれなかった自分の無力さに打ちのめされた。
「聞くべきではなかったな……」
「私も聞きたくなかったよ」
「途中で逃げ出したあたしは、『超人計画』は計画と研究をされただけで、生まれた子は処分されたとずっと思ってた。それにノエリアも普通の子だと思ってた。けど、再会したダントンとフィーリアからあたしが逃げ出した後に起きたことを告げられてしまった。そして、ライナス師、フロリーナ、ダントン、フィーリアは逝き、逃げ出したはずのあたしだけが秘密を抱えることになってしまった」
我が家に保護されてから、シンツィアの様子がおかしかったのは、色んな意味で世に出せない重大な秘密を抱えていたためだったか。
聞いてしまった以上、三人の出生の秘密だけは絶対に外部に漏れないようにせねばなるまい。
「義母上、『超人計画』に関する全ての情報は、エネストローサ家の管轄下に置くことにしますがよろしいですね?」
「ああ、そうしな。シンツィア殿に関しても秘密を知る者として我が家の管理下に入ってもらうよ」
「はい、ご迷惑おかけしますがよろしくお願いします」
早急にヴィーゴたちが持ち出したとされる魔法研究所の論文や収蔵品の行方も捜索せねばな。
人手が足りぬか……。
執務机に戻ると、散乱している書類の中から、資料や収蔵品の回収に回せる密偵一族の者たちの選抜を始めた。
side視点続きましたが、この後はフリック視点に戻ります。
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