sideロイド:口外できぬ事実
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※ロイド視点
レドリック王太子との会談から、瞬く間に一週間が過ぎた。
会談を終えたその日から、レドリック王太子は即位に向けて貴族たちの掌握に励み、他の王族からの支持も取り付けることに成功していた。
次期王に内定したレドリック王太子より、フレデリック王暗殺犯は主犯としてジャイルが認定され、彼の家臣であるヴィーゴが手を下したということで決着している。
そして、フリックたちは裏で進んでいた王都破壊計画を阻止した者として、レドリック王太子から顕彰され、貴族たちから彼らに向けられていた疑惑は払しょくされた。
フレデリック王の暗殺犯はジャイルと認定されたことで、父親である宰相ボリスは宰相職からの辞任、アルグレン公爵家当主の引退、フレデリック王から授けられた領地の返還を申し出て謹慎することを、次男ユーグを通じて伝えてきている。
同時にジャイルの死で空席だった近衛騎士団長職に自分が推挙され、宰相派の貴族たちもボリスへの責任追及を回避することを条件に就任の支持をしてくれていた。
王都は新王の敷く新体制に向け、慌ただしく貴族たちは動き回っている。
一方、庶民は大襲来で受けた大きな痛手から王国を復興させたフレデリック王の死を悼みながらも、大襲来で近衛騎士団を率いて民を守ってくれたレドリック王太子の即位を喜んでいた。
ただ、フレデリック王に直接手を下したヴィーゴの行方は、いぜんとして不明のままだった。
「ロイド様、ヴィーゴの行方は引き続き、一族の者たちに追わせます。しかし、それだけでは手が足りないので、王都以外の各都市の冒険者ギルドにも情報収集に手を貸すように根回しをしてよろしいでしょうか?」
これまでほとんど使うことのなかった王都の屋敷の執務室で、色々な書類を決裁する仕事をしていると、ヴィーゴ捜索の指揮を執らせているサマンサが捜索範囲の拡大を提案してきた。
これまで集めた情報から推測すると、ヴィーゴの組織は全国的な繋がりを持っているらしいからな。
早急に捜索範囲の拡大はしておいた方がいいか……。
「よかろう。ヴィーゴの組織の全容は掴めていないが、フリックたちから報告を受けたジェノサイダーという怪物が王国内をうろつくのは断じて阻止せねばならん」
「承知しました。すぐに各都市の冒険者ギルドの責任者に連絡をとります」
一礼して出ていったサマンサと入れ替わるように部屋に入ってきたのは、義母と鎧姿になったシンツィアであった。
身体を失ったシンツィアの表情はうかがい知れんが、義母上の顔色は相当に悪そうに見える。
やはり、王都の貴族対策に奔走してもらったことでお疲れになられているのか?
「義母上、それにシンツィアまでどうした?」
「ロイド……ライナスたちは死んで当然のことをしでかしてたよ。うちの馬鹿娘もね」
ライナス師が死んで当然のことをしでかした? いったい何の話だ?
それに馬鹿娘もってことは、フロリーナも関わっていたと?
義母上はいったい何の話をしているのだ!?
言いたいことをハッキリ言う義母上らしくない、歯切れの悪い言葉に違和感を感じ、隣に立っていたシンツィアに視線を向けた。
「ごめん、ロイド……あたしだけで抱え込むつもりだったんだけど……ほんと、ごめん」
ライナス師の直弟子のシンツィアとは妻のフロリーナを介して、大襲来前にはよく交流をしていた古い友人であった。
ただ、大襲来の最中に理由も告げずにライナス師のもとから去り、以来交流が途絶えていた。
だが、フリックたちからの報告で、身体を失い魔法で鎧に命をつなぎとめた彼女をインバハネスで見つけたとの報告を受けた時はとても驚いた。
「なぜ、謝るのだ?」
「ごめん……」
自分からは謝る理由も言えぬということか?
常に自信に満ち溢れ、勝気だったシンツィアとは思えぬな……。
ノエリアからもらっていた書簡では、元気だと聞かされていたが、何が彼女を変化させた?
謝るばかりのシンツィアではらちが明かぬと察し、隣で蒼ざめている義母に問い質す。
「義母上、今のシンツィアでは要領を得ん。わしにも分かるように説明をしてくれぬか?」
「ロイド、お前はこの話を聞いても私の娘の行った所業と孫娘のことを許せるか?」
「許すもなにも、フロリーナはすでに故人ですぞ。それにノエリアは我が娘。何の罪に問うということですか?」
義母上も要領を得ない話をする。
亡くなったフロリーナが、何かしらのことに関与していたという感じだが。
そのフロリーナが関与していたことが原因で、ノエリアに何かしらの影響があるのか?
分からぬ……いったい何があったのだ。
要領の得ない話をする二人を前に戸惑っていたが、ここまで言われて引き下がると、逆に気になって仕事が手に付かなくなってしまう。
「義母上、話してください。色々なことは話を聞いた後で判断いたします」
「聞いてもいいが、聞いた内容は口外することは家長として許さないよ」
「承知。剣にかけて口外はいたしませぬ」
口外できないほどの重大事ということか。
なにゆえ、このような時期に……。
二人が腰をかけたソファに自分も腰を下ろした。







