134:レドリック王太子
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「ふむ、久しぶりだな。ロイド」
「ご無沙汰しております。レドリック王太子様」
「この前会ったのは、二年前に開催されたアルフィーネ殿の御前試合だったか?」
「ええ、あの御前試合より領地の統治の忙しさにかまけ、王都に顔を出す暇もありませんでしたので……」
この方がレドリック王太子様か……初めて見た。
次期王になるレドリック王太子様は、フレデリック王の嫡男で、金髪碧眼の顔立ちの整った王太子ではあるが、歳は四〇を超えた筋骨たくましい壮年だった。
大襲来では王国の盾と呼ばれた精鋭の近衛騎士団の指揮を父であるフレデリック王から任され、激戦地で多くの国民を救った王族として、国民からの人気は高い人らしい。
ただ、スザーナさんから聞いた話だと、大襲来後に台頭した宰相ボリスによって、後継者候補筆頭なのに、僻地防衛の任をフレデリック王から与えられ、王国西部の小都市に追いやられたそうだ。
王族って話だけど、まとってる雰囲気が辺境伯と似た物を感じる人だ。
やっぱ、あの大襲来という危機を終息させるため、奔走した人たちって同じような空気をかもしだすのかもしれない。
俺は会談の場になった応接間の片隅で、膝を突いて頭を下げたまま、チラリと横目で二人のやりとりを見ていた。
「まぁ、私も父上にアビスウォーカーの件で王都に呼び出されていなければ、王国の西の外れで兵たちを鍛えてたはずなんだがね。まさか、こんなことになるとは思ってなかった」
ソファに座るレドリック王太子様の厳しい視線が、頭を垂れて横目で見ていた俺たちの方に注がれた。
「多忙を極めるレドリック王太子様には、フレデリック王の死去に関しての我が家の申し開きを聞いて頂く機会を設けてもらい感謝をしております」
「大襲来をともに終息へ導いた英雄ロイドが、父を謀殺するような策を弄する男ではないことは知っている」
こちらに向けられていたレドリック王太子様の厳しい視線が緩むと、張り詰めた空気が緩む感じがした。
武芸に秀でた王族だって聞いてたけど、威圧感が半端ない……。
王都の若い貴族は軟弱な人が多かったけど、レドリック王太子様からはこっちがヒリヒリするくらい強い気迫を感じられる。
隣にいるアルも俺と同じ感覚を得ていたようで、額から流れ出した汗が顎先から垂れるのが見えた。
「と言っても、ロイド自身に関しては信用も信頼もしているという話でしかないがね。今回の件は娘とその婚約者が関わっているという話ではないか。王都の貴族たちからは、良からぬ話もささやかれておるのだぞ」
再び、応接間全体に息をするのも苦しいような気配が満ちた。
「その件につきましては、当事者となった我が娘から全て包み隠さずにご報告させます。なにぶん、王国の築き上げた安全を脅かしかねない情報も含んでおります。そのために我が家にまでご足労を願ったしだい。ノエリア、レドリック王太子様に報告申し上げよ」
「は、はい。お初にお目にかかります。辺境伯の娘ノエリアと申します。このたびは――」
「悠長に挨拶を聞いている時間はない。報告は端的にしてくれたまえ」
挨拶をしようとしていたノエリアを、レドリック王太子様はよく通る声で制して報告を促していく。
ノエリアはその声に動じることなく、軽く会釈すると報告を始めた。
「承知しました。では、端的に申し上げます。ハートフォード王国は、以前のアビスウォーカーからは比べ物にならない強さを得た強化アビスウォーカーによる第二の大襲来の危機に晒されております。その時間稼ぎのために近衛騎士団長ジャイル殿は黒幕に利用され、フレデリック王は王国の混乱を招くために命を奪われました。わたくしたちが、お救いできればよかったのですが、能力がおよばず、フレデリック王のお命を守ることは、かないませんでした」
レドリック王太子が再び見せた威圧的な視線に晒されたノエリアは、微かに肩を震えさせながらも淀むことなく報告を続けていく。
「強化されたアビスウォーカーを操り、第二の大襲来を主導しているのは、ジャイル殿の家臣として仕えていたヴィーゴという男です。彼が大襲来終息から二〇年の時をかけ、王国各地に地下組織を作り上げ、蜂起の時を虎視眈々と狙い続け、今がその時と蜂起しました」
「ふむ、今回の件に関しての話は、カサンドラ殿から書簡を頂いていたが……。王国の裏側で力を貯めていたアビスウォーカーを使役する謎の組織が、主導して引き起こされたクーデターだという件。あまりにも荒唐無稽であり、事件の起きた場にいた当事者から信じろと言われても、にわかには信じられないぞ」
「そう申されるかと思いまして、王都にアビスウォーカーがいたという事実をお伝えするため、その死骸を確保しております。サマンサ、よろしく」
ノエリアが呼ぶと、、応接間の扉が開き、アビスウォーカーの死骸を乗せた台車が運び込まれた。







