133:竜騎士
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フレデリック王の死去から一〇日。
ユグハノーツから騎士団を率いて急行中だった辺境伯が、王都に到着したという知らせが屋敷に来ていた。
辺境伯が到着したことで、俺たちの軟禁状態も解かれ、出迎えをするため屋敷の外に出て待っていたところ――
「まさかとは思いましたが……これほど早く実用化していたとは……父上のことを見誤っておりました……」
「ああ、もう少し時間がかかると思ってたけど……まさか、もう騎士団で使ってるとは」
「えっと、アレってどう見ても翼竜よね?」
出迎えに出た中庭には、翼竜たちが翼を休め、騎士たちが餌やりや手入れをしている姿が見えた。
「フリック、ノエリア、それにアルもまずは無事でなによりだ」
呆然と翼を休める翼竜たちを見ていた俺たちに声を掛けたのは、長旅で少し疲れた顔をした辺境伯だった。
「ロイド様……この翼竜たちはいったい……」
俺からの質問を受けた辺境伯がチラリと翼竜たちに視線を向ける。
「ガウェインとフリックだけ翼竜に乗るのはズルいからな。ガウェインから服従法を聞き出し、騎士たちから希望者を募って、ヤスバの狩場で捕まえてきた」
ヤスバの狩場で捕まえてきただって……。
ガウェインの教えた服従法って、やっぱ俺が教えてもらったやつだよな。
ディモルを服従させた時のことを思い出し、翼竜たちの世話をしている騎士たちに視線を向ける。
翼竜の世話をしている騎士たちの立ち振る舞いから見ると、歴戦の者たちであることが窺い知れた。
「ディモルもそうだが、翼竜は気性が荒い。だが、服従すれば実に忠実で実に賢い。そして、機動性は抜群だ。対アビスウォーカー戦には偵察に活躍しそうである。その分、騎手への負担が高いのは二人の言った通りだった」
翼竜について話をする辺境伯の顔は、玩具を買い与えてもらった子供のような顔をしていた。
「ロイド! 王都に竜種である翼竜で乗り付ける意味を分かってるんだろうね!」
ニヤニヤとした顔で翼竜を見ていた辺境伯の顔が、カサンドラの声を聞き一瞬で蒼白に染まる。
「義母上。き、緊急事態だということで、最速の王都入りをせよとの書簡だったはず。そのために随行人数を減らし、翼竜に乗れる者を連れ、ユグハノーツから駆けてきた次第。わしとて、ハートフォード王国の貴族であるため、王都の民の竜種嫌いは存じておりますぞ。それを勘案しても急ぐべきと判断して――」
「馬鹿者! 続報の使者に今の我が家の現状を書いた書簡を持たせていたであろうが! 不安定な情勢の中、翼竜なんかを多数引き連れて王都上空を飛び回ってたら、我が家の示威行動とみる貴族家がたくさん出るであろうが。アルグレンにいる宰相ボリスが、それこそ、手を打って喜ぶとは思わんのか。この戦闘馬鹿が!」
「義母上殿っ!? わしは義母上殿のために――」
「だまらっしゃい。そもそも、あんたが王都に腰を据えて宮廷の対応をして、ユグハノーツの統治は騎士団長のマイスに任せてれば、私がこの年までこき使われることはないんだよ! そこのところを理解してるのかい!」
「ご高齢の義母上殿にはいつもご負担をおかけして申し訳なく思っておりますが、なにぶんユグハノーツも騒がしい土地なので、マイス一人では――」
さすがの辺境伯も怒り狂う家長のカサンドラの前では、ただの義理の息子でしかなく、叱られて困ったことで、娘のノエリアに助けの視線を求めていた。
「父上、今回は父上が劣勢ですので、おばあさまに謝罪を。王都に翼竜で乗り付けるのはさすがにやり過ぎです」
そういえば、俺もジェノサイダーの爆発から王都を守る時、ディモルに乗ってたな……。
王都の住民は魔竜ゲイブリグスの件もあって、竜種を非常に嫌う人が多いので、カサンドラ様のいうことも分からなくない。
俺も辺境伯が翼竜を使役して乗ってくるなんて思ってなかったし。
娘からも見捨てられた辺境伯の助けを求める視線が俺とアルに注がれていた。
い、いや助けを求められても、俺たちも同じようなことしてて、カサンドラ様に抗弁できる身じゃないですし。
助けを求めた辺境伯の視線に、俺は無言で首を振っていた。
「ぐぬぅ。フリック、それにアルまでわしを見捨て――」
「まぁ、やっちまったもんはしょうがないから、十分に利用させてもらう。ユグハノーツ辺境伯家は強力な竜騎士団を編成し、混乱の続く王都の治安を回復しに来たって筋書きでいいだろう。レドリック王太子も近衛騎士団が形骸化してる現状で、圧倒的な戦闘力を持つロイドが忠誠を誓ってくれることを見越してるだろうしね。すでにレドリック王太子には、使者を送ってあるんで、すぐにこの屋敷での会談になるよ。ノエリアも手伝いな。アル殿もフリック殿も会談には同席してもらうからね」
「「「は、はい」」」
こうして、俺たちはフレデリック王の後継者として、新王になるレドリック王太子との会見に同席することになった。







