sideアルフィーネ:剣聖への道
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※アルフィーネ視点
フレデリック王の死から数日、あたしは王の死を知る者の一人として王都のエネストローサ家の屋敷に匿われていた。
ヴィーゴの策にまんまとハマり、フレデリック王の暗殺犯にされかけたとは……。
せっかくフィーンと再会できたけど、こんな状況じゃ会って話すこともできない。
屋敷の主であるカサンドラからあてがわれている個室は、来客用に作られた豪華な客室で身の回りの世話をしてくれるメイドが一人付いている。
ただ、個室から出ることはカサンドラから制限され、事実上の軟禁状態に置かれていた。
世話をしてくれているメイドに話を聞くと、フィーンも、ノエリアも、シンツィアも、あたしと同じように個室を与えられ自由に部屋から出られない状況らしい。
カサンドラ様からしてみれば、自分の家が謀反人にされかねない状態だものね。
これくらいのことは我慢しないと。
制限は辺境伯様が屋敷に到着するまでって話だから、その間にフィーンへの気持ちの整理をつけよう。
フィーンとのことを考えようと、窓の外をぼんやりと眺めていたら、ドアがノックされ開いた。
「お待たせして悪かったね。この数日でやっと、貴族たちへの状況説明が終わったよ。軟禁生活みたいなことさせて悪いとは思ってるが、困っていることがあればメイドたちにすぐに言いな」
部屋に入ってきたのは、屋敷の主であるカサンドラだった。
あたしはすぐにソファーから立ち上がると、膝を突いて頭を垂れる。
「いえ、冒険者として暮らしてきたことが長いので問題ありません。快適な生活を提供してもらっております」
「そうかい、それならよかった。当代の剣聖様を無体に扱えばロイドから小言を言われそうなんでね。ああ、話が逸れちまったが今日来たのは、この前の話の続きだよ」
カサンドラは部屋の隅に控えていたメイドへ下がるよう視線を送っていた。
メイドはカサンドラの視線を受け、無言で部屋から出て行く。
この前のというと……。
あたしが剣聖アルフィーネとして生きるか、冒険者アルとして生きるか聞かれたやつかしら。
でも、あの問いに対する答えはもう出したはず。
だとすると、耳打ちされた方のことかも……。
でも、あれってどういう意味だったんだろうか?
「その顔、私の耳打ちしたことに戸惑ってる様子だね。そんなことだろうと思って、今日は来たのさ」
「戸惑いというか、なんと言ったらいいのか……」
カサンドラから耳打ちされたことは『冒険者アルとして生きるなら、剣術に人生を捧げるつもりで生きろ。そうすれば万事上手くいく』という言葉だった。
「私が視たところ、冒険者アルは『神速の剣士』として名を馳せる未来が視えてた。剣の腕は真紅の魔剣士フリック殿と並び称されるはずさ。そうすれば実力、人格も備えた本当の剣聖になれるはずだよ」
カサンドラは、あたしが冒険者アルとして剣術を極めていけば、本当の意味での剣聖になれると言っていた。
「本当の剣聖ですか……」
魔竜ゲイブリグスを討伐し、剣聖としての称号は与えられたけれど、正直言ってあたしの剣術は全然強くないし、剣聖と呼ばれるような人格者ですらない。
フィーンの捜索をするため王都を出て旅を続けた中で、自然とそのように思えるようになった。
剣の道を極めるか……。
フィーンに謝罪をした後に向かうべき道が、あたしの中でうっすらと浮かび上がってきた。
「ああ、その道が開けたのは、この前の宣言さ。剣聖アルフィーネとして未練を残してたら、その命を自らの手で断つ未来が視えてたのでね。その未来は、うちの孫娘の未来にも暗い影を落とすことになるんで、私としても安堵してるのさ」
「あたしが自ら命を絶つ……」
ありえなくもないか……。
アルフィーネのままだったら、きっと自分を見捨てて逃げたフィーンを罵って、無理やりにでも自分の手元に取り返そうと思っただろうし。
でも、それがあたしの自分勝手なわがままな願望だってことは、旅の中で色んな人に出会い理解できるようになった。
だからこそ、アルフィーネという名を捨てて、冒険者アルとして生きるとあの場で宣言した。
「けど、冒険者アルとして生きると決めたってことは、フィーン殿とのことも自分の中である程度整理がついてるんだろ?」
「ええ、まぁ……。あたしがずっとフィーンにしていたことに対し、謝罪をしようと思っています。彼が罰を求めるなら、それを甘んじて受けるつもりでいます」
あたしは、この旅の中で出した答えをカサンドラに伝えた。
「その決意があるなら大丈夫そうだね。それに、アル殿にはよい仲間もいるようだし」
「仲間……」
「ああ、アル殿のことを心底心配してくれる者のことさ」
そのカサンドラの言葉にメイラやマリベル、それにソフィーの顔が思い浮かんだ。
ずっと、幼馴染のフィーンだけが自分を全て理解して心配してくれる人だって思ってた。
けど、そんなことはなくって、ちゃんと周りを見れば、あたしの心配をしてくれる人はいっぱいいる。
あたしは、ずっとそれに目を向けようとしてこなかっただけ。
「そうですね。今のボクには仲間がいてくれます。だから、きっと大丈夫だって思えますね」
カサンドラからの助言を聞いて、フィーンに対する気持ちの整理がつけられる気がした。
「いい顔つきになったね」
「いえ、ご助言ありがとうございました」
「ああ、そうだ。言い忘れてたけど、メイラとマリベル、そしてソフィーって子があんたを心配して面会に来てるよ。外に出してあげられないから、屋敷に泊まらせることにしてあるからね」
カサンドラが部屋から出ていくのと、入れ替わるように見知った三人がドアの奥から入ってきた。







