131:真実とは
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遺体を回収した俺たちは、大きな爆発音に驚いて外に溢れ出した住民たちの中をくぐり抜け、貴族街の辺境伯家の屋敷の前に来た。
「フリック殿!? さきほどの大きな爆発音はいったい!? それにそれはアビスウォーカー!?」
辺境伯家の屋敷を守っていた騎士が、俺の担いでいる物を見て目を丸くして固まっていた。
街の人から恐れられている竜種以上に、王都に存在していたらマズい生物だし、驚くはずだよな。
「申し訳ない。色々と事情があって辺境伯家のお力を借りるしかなくなってしまいました。カサンドラ様にお取次ぎを――」
「すぐに門を開けますので屋敷の中に! カサンドラ様からはフリック殿たちが戻られたらすぐに通せと言われております」
騎士が部下に合図を送ると、固く閉ざされていた辺境伯家の屋敷の門が開いていく。
俺たちは騎士に一礼をすると、犠牲者を担いだゴーレムたちとともに屋敷の中に入っていった。
屋敷の中に入ると、すでに連絡が行っていたようで、カサンドラとサマンサが玄関から飛び出してくる。
「これはいったいどういうことだい? フレデリック王!? それにジャイルもいるじゃないか!? ライナスの救出はどうなったんだい?」
「おばあさま……。謀反人とされたライナス師たちを救出する際、色々な突発事態が発生してフレデリック王は撃たれ亡くなり、ライナス師もフリック様の育ての御両親もお救いすることができませんでした。わたくしはあの場でエネストローサ家を勘当された身ですが、他に頼る場所もなく恥ずかしながら帰ってまいりました」
玄関から出てきたカサンドラの姿を見つけると、隣にいたノエリアは深々と頭を下げた。
「しおらしい演技はいらないよ。ノエリアなら、私が勘当を言い渡した意味を分かってただろ。とはいえ、私が視た未来視とは、少し違った結末をもたらしてしまったようだがのぅ。まさか、フレデリック王が亡くなってしまうとは……」
カサンドラが、フレデリック王の遺体とジャイルの遺体を交互に見て、顔を蒼ざめさせていた。
未来視は『当たれば儲けもの』って、カサンドラ本人も言ってたから、今の事態を予測していたというわけでもないのかも。
「おばあさま、詳しい話は後ほどしっかりとさせてもらうとして、ご遺体はどうしたらよろしいでしょうか?」
「近衛騎士の連中は中庭に並べておくれ。実家に連絡して引き取りに来てもらう。フレデリック王、ダントン、フィーリアたちはお別れもしたいだろうから邸内に運び込んでおくれ。サマンサ、準備を」
カサンドラが指示を出すと、メイドたちが一斉に作業をするため動き始めた。
ゴーレムを使役するシンツィアが、サマンサたちの指示に従い、犠牲になった近衛騎士たちの遺体を中庭に並べていく。
その間に俺たちはフレデリック王、ダントン院長、フィーリア先生を個室に運び込んだ。
ジャイルやアビスウォーカーに関しても個室を用意して、そこに遺体を安置することになった。
遺体の搬送を終えると、俺とノエリア、そしてアルフィーネとシンツィアの四人がカサンドラの部屋に呼び出された。
すでに中庭では、実家に連絡が行った近衛騎士の遺体の引き取りが始まっており、家族の嘆く声が部屋の中にまで届いてきている。
「さて、ライナスたちを助ける時に何が起きたのか、私にちゃんと説明をしてもらおうか」
近衛騎士の遺体を引き取りにきた貴族の応対をしていたカサンドラは、多少疲れた顔を見せていた。
「遺骸を引き取りに来た貴族家はもちろんのこと、街中の噂を聞いた王都の貴族家からも、詳細な説明を求める使者が我が家に殺到している状況だよ。きちんとした説明をしないと、我が家は謀反人の家にされてしまいかねない状況だ」
さすがのカサンドラも、フレデリック王が死ぬことまで見越した動きは想定してなかったらしく、サマンサから受け取った書状の束を俺たちの前に置いた。
詳しい説明と言っても、俺自身も未だに状況の整理がつかないし、あの場で起きた事実を伝えて、状況を整理していくしかない。
「俺自身も整理がついていないのですが……。確実に言えるのは、ライナス師たちを救出中、突如現れたアビスウォーカーやジェノサイダーという怪物が暴れまわる乱戦の中、ヴィーゴがフレデリック王を異国の武器で撃ち殺しました」
フレデリック王が死んだ状況を思い出し、極限にまで簡潔にしてカサンドラに伝えた。
「待っておくれ。フリック殿の説明では私の理解が追いつかない。いったん整理させておくれよ」
「ええ、俺自身もカサンドラ様に話すことで整理したいと思ってます」
未だにエネストローサ家の家長であるカサンドラは、家臣であり密偵一族のサマンサから王国の貴族に関する色々な情報を手にしている情報通の人であるため、この混沌とした状況の整理の手伝いをして欲しかった。
「『超人計画』という人造人間製造による国家転覆を図ったとジャイルに断罪されたライナスたちを助けに行ったところまでは、私も送り出した側だから知っておるが……」
「ライナス師たちを助けに行った広場では、同時多発的に色々なことが発生してました。ジャイルとフレデリック王が処刑に立ち会うため臨席したり、ヴィーゴが引き連れたアビスウォーカーや、ジャイルの護衛にいたジェノサイダーが近衛騎士たちを巻き込んで暴れまわったり、ディモルに乗ってシンツィア様とアルが現れたりと。本当に色々なことが起きすぎて」
今思い出しただけでも、あの場ではかなり色んなことが一斉に起きていた。
「待っておくれ。また知らない情報が増えたね。一個ずつ確認させておくれ! まず、フレデリック王があの広場に作られた処刑場にいたのかい?」
カサンドラはこめかみに手を当て考え込む仕草をすると、一つずつ確認するように問いかけてきた。
「はい、王家の紋章の入った馬車でジャイルと一緒に現れました。脅されて連れてこられたという様子はなく、無言で目を閉じていたライナス師にずっと視線を向けていたかと」
「近臣や侍従長にも所在も告げずに同行したとなると、罪に対し無言を貫いたライナスに対し、友人として最後の弁明の機会を設けたのかもしれん。ジャイルの小僧からしてみれば、すでに証拠も手にしているため、弁明されても処刑を押し切れると見越し、自らの政敵の最後をフレデリック王に見せ、地位を固めようという思惑もあったのかもしれぬのぅ。ただ、もう誰にも真実は分からない状況になってしまっているが」
カサンドラは目を閉じると、ふぅと長い溜息を吐いた。







