130:ざわめく王都
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お待たせしました。
剣聖の幼馴染最終章、本日より更新開始させてもらいます。
ヴィーゴが語った恐ろしい筋書きから王都こそ守ったが、その際発生した大きな爆発音で、戒厳令下にあった王都も騒がしくなっていた。
そしてアビスウォーカーの無差別攻撃から逃げ散った近衛騎士団の騎士たちにより、フレデリック王の死が伝えられ、街中は騒然とした空気に包まれている。
ある者は、『近衛騎士団長ジャイルが乱心してフレデリック王を討った』と言い。
ある者は、『アビスウォーカーに似た怪物がフレデリック王を殺した』と言い。
ある者は、『辺境伯令嬢と彼女の護衛の冒険者たちがフレデリック王を討った』と言う。
そんな街中の声が、風に乗って俺たちの耳に届いていた。
アビスウォーカーとジェノサイダーが暴れまわっていた混乱の最中であったため、フレデリック王の死を見た者は比較的少数であり、おかげで噂が噂を生みだしている状況だった。
このままだと、ヴィーゴの語った筋書き通りに、生き残った俺たちがフレデリック王を殺したと思われかねない。
「フリック様、街の雰囲気が不穏な様子。とりあえずフレデリック王のご遺体を始め、犠牲になられた方の遺体を我が屋敷に運び込みましょう。祖母や父上に事情を説明するしかないかと」
ノエリアも街から聞こえる声に不穏さを感じ取ったようで、犠牲者の遺体を屋敷に運び込むことを提案してくれた。
だが、彼女はライナス師を助け出すため、すでに祖母によって実家であるエネストローサ家から勘当されており、一介の冒険者という肩書きでこの救出に参加している。
「けど、ノエリアは勘当されたはずじゃ……?」
「あれはわたくしに対する祖母流の激励です。本気で勘当をする気なら、どのような事態になってもいいように貴族への働きかけもされないでしょうし。もしかしたら、祖母は未来視で色々な可能性を視ていたのかもしれません。今回の事態も視えていたなら、対処するべく動いてくれているはず」
ノエリアの勘当は、孫娘が家のことに気兼ねせず師匠を助け出すためのカサンドラの演技だったというわけか。
けど、辺境伯家の屋敷に俺たちが潜り込むと、フレデリック王暗殺をロイド様が画策したという噂が立つ気がしそうだが……。
俺の顔に戸惑いの表情が浮かんだのを察したノエリアは、間髪入れずに自分の考えを述べた。
「この場を逃げ出せば、完全にわたくしたちはフレデリック王暗殺犯とされてしまいます。ならば、我が家に遺体を運び込み、父上を通じて王太子レドリック様へ真実をお伝えした方がよろしいかと」
後継者であるレドリック王太子に真実を伝えるか……。
たしかにそれが残された真実を伝える道なのかもしれない。
「レドリック王太子様は大襲来の際、フレデリック王の名代として近衛騎士団を率いて、王国各地を転戦された方。父上とも親しくされている王族の方ですので、わたくしたちの話に耳を傾けてくれるはずです」
ノエリアも気丈に振る舞ってはいるが、幼少時からの魔法の師匠であるライナス師を亡くしており、顔色は蒼白に染まっている。
彼女も親しい人を亡くして色々と辛い状況であるにもかかわらず、最善の解決策を導き出そうとしてくれた。
「分かった。ノエリアの提案を受け入れさせてもらう」
「承知しました。すぐに移動しましょう。犠牲になられた方のご遺体はゴーレムで屋敷まで搬送しましょう。シンツィア様もお手伝いお願いします」
ノエリアは茫然自失になっていたシンツィアを立ち上がらせ、遺体の搬送に協力を求めた。
「ノエリア……分かった。ライナス様、ダントン、フィーリア、ごめんね」
魔法の師匠と古い友人を一気に亡くして憔悴しているシンツィアであったが、使役魔法の詠唱を始めると、地面から土のゴーレムたちが生み出され、犠牲になった者たちを丁重に担ぎ上げていく。
「アル様も関係者として事情を聞かれると思いますので、屋敷までお出でくださいませ」
院長先生たちの亡骸の近くにいたアルフィーネにもノエリアは声を掛けていた。
「はい、そのようですね。公式には亡くなっているはずのあたしの存在も、問題化するでしょうし」
血で汚れたダントン院長とフィーリア先生の顔を綺麗にしていたアルフィーネも、事態の重大さを認識しているようで、ノエリアの指示に素直に従う。
「ノエリア、アビスウォーカーの死骸も一体連れていく。そうしないと説明できないことが多すぎるだろ?」
「え、あ、はい。そうですね。アビスウォーカーの存在を失念しておりました。たしかにアビスウォーカーの存在と、近衛騎士団長ジャイル様の存在がないと色々と説明できないことが多いですね」
大襲来を戦い抜いたレドリック王太子に、アビスウォーカーの存在を見せれば、ジャイル親子が計画していた第二の大襲来の計画も説明をしやすくなるはず。
俺は比較的に損傷していないアビスウォーカーの死体を担ぎ上げると、シンツィアのゴーレムたちを引き連れて、貴族街にある辺境伯家の屋敷に向かった。







