sideヴィーゴ:地下施設の再掌握
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※ヴィーゴ視点
不要になった駒の処分とこちらの思惑を知る者たちの処分に成功し、貴族街にあるジャイルの邸宅の地下に作られた研究室に戻ってきていた。
「揺れたな……。だが、想定よりも揺れが少ない。ジェノサイダーによる王都爆破はどうやらフリックたちに阻止されたということか」
王都が消えようが、消えなかろうが、私にはどうでもいい話だがな。
大事なのは、残された時間が少ない世界に住む、残り少ない同胞たちを安全にこちらの世界へ移住させることだ。
その目標も、多くの人の命を奪い、人の倫理を捨て去って、長い年月を使い、ようやく実現できる一歩手前まできていた。
魔法研究所に所蔵されていた超人を創り出す魔導器はすでに接収して送った。
魔導器の技術解析と、フリックから得た人体に魔素抗体を与える血液情報の解析が進めば、我らが宿願である異世界への移住計画は完遂され、同胞たちは新たな土地で生を全うできるのだ。
「ヴィーゴ様、研究室の撤収は完了しており、爆破準備も完了しました。早急に転移ゲートでアビスフォールの地下施設に飛んでください。あとの処理はわたしが完遂します」
最後の一人として残っていた白い防護服を着た若者が、研究室の奥にある転移ゲートを指差してきた。
彼がこの研究室に最後まで残り、起爆ボタンを押して、転移ゲートを含む、一切の痕跡を消す役目を負っている。
「そうか、困難な役目を任せることになってすまないな……」
「いえ、最高の任務を与えて頂き、感謝しております。ヴィーゴ様が同胞たちを無事にこの地へお連れ頂けることを願い、私は死んでいきます!」
曇りのない目をこちらに向ける若者の想いを考えると、これから行うことは絶対に失敗ができない作戦であった。
「お前の捧げてくれた命。無駄にはしない」
若者が無言で頷く。
決意を固めている若者の肩を叩くと、そのまま部屋の奥で青白い光を放つ転移ゲートを通り抜けた。
転移した先に出ると、しばらくして青白い光を放っていた転移ゲートの光が消える。
彼は上手く任務を完遂してくれたようだ。
あとは王位継承の段階でボリスが、辺境伯を上手く失脚させてくれれば、条件のよい移住先も与えられるはず。
「ヴィーゴ様、よくお戻りになられました。すでにこのアビスフォールの地下施設の最深部には、アビスウォーカー五〇体、ジェノサイダー二体、戦闘員二〇〇名、修復要員一〇〇名の集結を終えております」
部屋に各地の転移ゲートから集まった同胞やアビスウォーカーが集結していた。
「ご苦労。辺境伯の騎士団がこの地より撤退し、上層の施設には少数の冒険者が配置されているだけのはず。一気にこの施設を占拠して、次元扉を開ける設備の修繕を終わらせる。我々に与えられた時間は少ないぞ。迅速に取り掛かれ」
「おおっ!」
白い防護服に身を包んだ同胞たちが、アビスウォーカーを率い、部屋の出入り口から施設区画へ飛び出していった。
辺境伯に占拠されたアビスフォールの施設だが、最深部の転移ゲートのあるこの広い部屋だけは、専用の許可証を持つ者しか扉が現れないように仕込んであった。
おかげで辺境伯には徹底的に捜索をされた施設ではあるが、この部屋を見つけるまでには至っていない。
施設の奪還に向かった同胞たちを見送ると、魔素抗体の研究を任せていた者がそばに寄ってきた。
「ヴィーゴ様、試験用の次元扉にて送った魔導器も当時の研究資料があり、順調に進んでおります。近いうちにこちらの技術を転用した人造人間製造機は完成しそうです。それに魔素抗体もサンプル血液があるため、人造人間から魔素抗体を抽出し、抗体を持たない同胞が接種すれば移住は問題ないとの回答が戻ってまいりました」
「報告ご苦労。あとは次元門の開け方を調整し、大量被ばくさせないようにすれば、大量に次元移動をしてきてもアビスウォーカー化しないはずだな」
「ええ、そのためにアビスウォーカーになった同胞での人体実験を重ねて、データを積み重ねてきたのです。施設の修繕さえ済めば、あとは開けるだけ」
「長かったな……」
「ヴィーゴ様、まだ終わったわけではありません。介入する勢力がいないわけではありませんぞ」
魔素抗体の研究を任せていた者は、目の前にある試験用次元扉が繋がった時、元の世界から送り込まれた探索隊からの付き合いである。
探索隊の隊員の不審死や、最初に次元門を開いた時に起きた惨劇も、その後の後ろ暗い活動も全てを知っている人物だった。
「そうだな。王と近衛騎士団長の暗殺犯として拘束されるはずのフリックたちが間に合うとは思わないが、動向には気を配らねば」
「そうですな。彼らはこちらの動きを知れば、きっとこの地にやってくるはず」
「早急に二度目の開放を行なわなければいかんな。私も不眠不休で手伝おう」
「ヴィーゴ様の姿があれば、若い者もより一層奮起するかと」
古くからの仲間にかけられた言葉に、さきほど散った若い同胞の顔が浮かんでくる。
自らの罪は全てを完遂した後で負えばいい。
迷う必要などないほど、私は手を血で染めたのだ。
その血を無駄にせぬためにもやり遂げてみせる。
わたしは部屋に残っていた同胞を引き連れると、地下施設の再掌握に向けて部屋を出た。
久し振りに更新させてもらいました。
三巻の書籍化作業も順調(?)に進んでおり、WEB版からの加筆もまた大幅に入りそうです。
WEB版の最終章はまとめて書き上げてから、毎日投稿しようと思いますので今しばらくお待ちください。
本日より新作の連載を始めましたので、お時間ある方はそちらを読んで頂けると幸いです。
スキルが発動しないとパーティーを追放された僕は、運命の人に出会い最強生産チートを得て無双する ~実は【再生】と【破壊】は二つで一つのスキルだったらしいです~
お姉さんヒロインとイチャイチャするスキル装備チート無双ものです。
(イラストは笹葉まとい様に製作してもらいました)
下記リンクから行けます。







