129:剣聖と元相棒
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ヴィーゴが姿を消すと、残ったアビスウォーカーたちが俺に群がってくる。
依然として、ジェノサイダーは青白い光を全身にまとったままだった。
院長先生たちも救えず、フレデリック王すらも救えなかった……。
武器を捨ててヴィーゴに降伏してれば、また違う――。
「フリックさん! こんな時にぼーっとしないの! 今のままだと王様も院長先生もなんの意味もなく殺されたことになっちゃうから!」
群がってきたアビスウォーカーを斬り伏せたアルフィーネが、呆然としたままだった俺を叱咤していた。
アルフィーネからの叱咤を受け、地面に倒れ込んでいる院長先生夫妻やフレデリック王を見て、我に返る。
せめて王都だけでも守らないと。
院長先生夫妻やフレデリック王に顔向けできない。
「そうだな。アルフィーネの言う通りだ! 絶対に王都だけは守る!」
「王様や先生たちの弔いはあとからいっぱいできるから、まずはあの怪物たちをどうにかしよう」
アビスウォーカーを撫で切りにしたアルフィーネが俺と背中合わせに立った。
常に二人で絶体絶命の危機を越えてきたことを思い出し、今やるべきことを全力で実行することにした。
今の状況で王都に一番損害を少なくさせるためにはどうすれば……。
アビスウォーカーの攻撃を避けつつ、周囲に目を凝らしていく。
視線の中にシンツィアを乗せて上空を飛ぶディモルの姿が飛び込んできた。
ディモルでジェノサイダーを吊って、上空で爆発させてやれば被害は少なくて済むかもしれない。
問題は重くて暴れるジェノサイダーをどう吊るかだが……。
重さは軽量化の魔法でなんとかできるが、暴れるのは……両手を落とせば何とかなるか。
考えてる時間はないし、最悪かなり上空での爆発なら俺とディモルを障壁で守ればいけるはずだ。
被害を抑える方法を見出した俺はすぐさま実行に移すことにした。
「ノエリア! 悪いが少しだけジェノサイダーの動きを止めてくれ! あいつを上空で爆発させる!」
俺の言葉だけで察したノエリアは杖を構えると、魔法の詠唱を始めた。
「アルフィーネ、あの堅いジェノサイダーの手は斬り落とせると思うか?」
「音よりも速く振り抜くことと、皮膚に剣先が綺麗に入った瞬間に最大限の力を込めれば、斬れないものないわ」
「アルフィーネにはそれができると思うが、俺にもそれが真似できると思うか?」
「ええ、できるわ。あたしの元相棒は世界で唯一あたしの剣を受け止めてきた天才だから。それに魔法も使えるし、成功率はきっとあたしよりも上よ」
背後でアビスウォーカーと戦っていたアルフィーネの表情は窺い知れなかったが、言葉に棘は感じられず、俺のことを認めてくれたような言葉を投げかけてくれた。
「分かった。アルフィーネ、同時にあいつの腕を落とす。そして、無力化したら俺が軽量化の魔法をかけてディモルで上空に吊り上げる!」
「承知したわ。準備はできてる?」
「ああ、任せろ! やってみせる!」
背後でアルフィーネの動く気配を感じ取ると同時に、俺もジェノサイダーに向け駆け出した。
すでにノエリアの魔法はジェノサイダーの足元を氷漬けにしており、身動きは取れない状況になっている。
俺は駆けていく最中、さきほどアルフィーネから言われた助言を思い返していた。
振り抜く速度と刃筋、それに刃筋が入ったときの振り抜く力を合わせれば斬れないものはないか。
魔法で身体能力を高めた今の俺になら、あの時できなかったことができるはずだ。
ディーレを握り直すと、動きを止めたジェノサイダーの左腕に狙いを定めた。
「でやああああっ!」
「せいっ!」
俺とアルフィーネが交差するように斬撃を加え、ジェノサイダーの脇を駆け抜ける。
手ごたえはあった。
斬れずに痺れるような感覚はない……。
振り返ると、両手を斬り落とされたジェノサイダーの姿が見えた。
『マスター、今のって……堅いのがスパって斬れちゃいました。すごい、すごいです』
やれた……俺にもやれた。
「フリック様、時間がなさそうです。光が激しくなってます!」
アルフィーネのもとに居た時には到達できなかった剣の領域に入ったことを喜ぶ暇もなく、ノエリアが時間がないことを告げてきた。
「見えざる手となりて、彼の者の重さを軽減せよ。軽量化」
両手を失い立ち尽くすジェノサイダーに触れ、軽量化の魔法を発動させると上空にいるディモルを口笛で呼ぶ。
地上に降りてきたディモルからシンツィアが、院長先生夫妻のもとに駆け寄った。
「ごめん、みんな助けてあげられなかった……本当にごめん」
「シンツィア様、すみません俺がもっとしっかりしてればこんな事態には……」
「……フリックたちが責任を感じることはないわ……。これは全部あたしたちの罪だから……」
がっくりと肩を落としたシンツィアにかける言葉も見つからず、俺は無言で頭を下げディモルに乗り込むと、鉤爪でがっしりとジェノサイダーの両肩を掴ませて飛び上がった。
「クエエエッ!」
抵抗するジェノサイダーを鉤爪で抑え込みつつ、ディモルは俺の意思を汲んで急上昇していく。
「ごめんな、お前をこんな危険なことに巻き込んでしまって。お前だけは絶対に俺が守るから力を貸してくれ」
「クエェエエ!」
ジェノサイダーの全身を覆う青白い光が、輝きを増していく。
そろそろ、爆発するか。
これくらいまで来れば、王都への被害も軽微なはず。
チラリと下を見ると、小さくなった王都の姿が見えた。
「ディモル! そいつを上に放り出して急降下だ!」
「クェエエ!」
俺の指示に応えたディモルはジェノサイダーを上空に放り投げると、急旋回して降下を始める。
「漂う大気よ。凝縮し我が示す先で開放せよ! 大気爆発」
ディモルによって上空に放り出されたジェノサイダーに向かい、大気爆発を撃ち込むと爆発的な空気の奔流によって更に上空に打ち上がっていく。
そして、青白い光が一瞬消えると、王都の上空に二つ目の太陽が発生していた。
「ディモル、障壁を張ってるからなんとか耐えてくれ!」
「クェエエ!」
爆発の影響で展開している障壁がいくつも割れ、割れるたびに新たな障壁を展開することを続け、空を飛ぶディモルへの影響を抑える。
だが、空気の振動までは抑えられず、風を捉えるのに苦労したディモルは錐揉み状態で地上に落ちていた。
あと少しで地上に激突するというところで、俺とディモルは目に見えない柔らかいものに包まれ、地面との激突を避けることができた。
「た、助かった……」
「クエェエ」
「フリック様の無茶には慣れましたから……ちゃんと、準備はしておきました」
俺たちを墜落の危機から救ったのはノエリアの魔法だった。
「いつもノエリアには面倒をかける……」
ノエリアが差し出した手を握り、ディモルから降りると王都の街に目を凝らす。
「街に被害はほとんどないようです。が、フレデリック王は亡くなり、ライナス師もダントン様もフィーリア様もお亡くなりになられたことで王都はこれから大変なことになるかと」
「そうだな……」
育ての親を失うなど多くの犠牲を出したが、王都壊滅の最悪の事態だけは避けられた。
ただ、ハートフォード王国の状況はフレデリック王を失い混沌と化し、その渦中に置かれた俺たちがどう行動するべきか、この場にいる誰も考えつかないでいた。
本日も更新読んで頂きありがとうございます。
三章王都編は本日で終了です。
最終章である次章アビスフォール編は確定申告と書籍化作業がある程度進んだ時点で更新再開しようと思います。更新再開までしばしお時間いただきますが、WEB版を読み直して頂いたり、書籍版を読んで頂いたり、コミカライズ版を見てもらったりしてお待ち頂ければ幸いです/)`;ω;´)
今後とも剣聖の幼馴染をよろしくお願いします。







