128:最悪の筋書き
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「クソ! クソ! クソがぁあ! どいつもこいつも! わたしの邪魔をしやがって! ヴィーゴ! どこかで見てるんだろ! この状況をなんとかしろ! おい、聞いてるのか!」
頼みの綱だったジェノサイダーが傷つき、あきらかな劣勢が突きつけられたジャイルは、虚空に向かい叫び始める醜態をさらし始めた。
危ないな……。
このままだと王を殺しかねない。
ジャイルの不安定さが垣間見えたので、まだ残っている幻影体を近づけさせ、不測の事態に対応できるようにしておいた。
一方、ジェノサイダーはもう一つの遠距離武器を内蔵している口も、アルフィーネの剣術とノエリアの魔法で潰され、身体には満身創痍とも言えるほどの傷を負った。
「ジャイル様、通信機で大声を出すのはお控えくださいと申したはずですが」
虚空に向かって叫んでいたジャイルの背後に、外套を羽織ったヴィーゴが姿を現していた。
「お前が用済みになったライナスたちを公開処刑にすれば、邪魔者たちが一気に集まってきて謀反人として討ち取れると申したから急いで準備したのだぞ! だが、ふたを開けてみればこのざまだ! どう責任を取るつもりなのだ!」
「ジャイル様、少し口が過ぎるようですな……。私はご提案させてもらっただけで、実行されたのはジャイル様ご自身ですぞ。それに王を人質に取れなどとは一言も申しておりません。が、この状況、非常にありがたい。ポンコツにしてはよくやったと褒めさせてもらいましょう」
「わたしがポンコツだと! 言っていいことと悪いことがあるのだぞ! 父の家臣とはいえ、わたしは次期ラドクリフ家当主なのだ!」
「それも、昨日までの話。お父上は見切りをつけられました。いや、本来予定していた計画を実行したと言うべきでしょう」
「な、なんの話をしているのだ。父上がわたしに見切りをつけるなどということがあるわけないだろう!」
ジャイルは口から泡を飛ばしてヴィーゴに抗議していた。
「さて、私は色々と準備せねばならない身で時間があまりないので、不要になった方々にはここらでご退場頂きますかな」
ジャイルの背後に立っていたヴィーゴが手元で何かを操作し始めた。
「フリック様! ジェノサイダーが全身から青白い光を発し始めました! これは、村の時と同じ光です!」
視線をアルフィーネと戦っているジェノサイダーに戻すと、ノエリアが指摘した通り青白い光が全身から発せられていた。
「嘘だろ! こんな王都のど真ん中であんな爆発が起きたら大惨事だぞ!」
全部の魔力を放出しきった障壁魔法で村は守れたが、跳ね返した爆風が山を砕いてトンネルを崩落させた。
その威力がこの場所で放出されると、王都の大半はガレキの山になっちまう。
「アルフィーネ、ジェノサイダーへの攻撃は少し控えてくれ! そいつは死に際に大爆発するんだ!」
「大爆発って? いったいどういうこと?」
動きの鈍ったジェノサイダーに更なる苛烈な攻撃を加えていたアルフィーネが、俺の制止を聞いて攻撃の手を緩めた。
「詳しいことは分からないが、その光をまとったままジェノサイダーが死ぬと王都の大半はガレキの山になっちまう」
「嘘でしょ!」
アルフィーネは爆発したところを見てないから半信半疑だろうけど、実際に経験した身からすると大げさでもなんでもなかった。
「さぁ、フリック殿、ノエリア殿。二人はジェノサイダーの爆発の威力を知っておられるな。今ならまだ止められるが、そのためには御三方が武器を捨て降伏することをお勧めする」
外套を被っているヴィーゴの顔がニヤリと笑うのが見えた。
「よくやった! さすがヴィーゴだ! おい、お前ら早く降伏しろ!」
状況が改善に向かうと見たのか、ジャイルが元気を取り戻し、俺たちに降伏するように強く迫ってきた。
その様子を背後で見ていたヴィーゴが、手にした小さな筒をジャイルの頭に突き付けると赤い光が貫くのが見えた。
赤い光によって頭部を貫かれたジャイルは、大量の血を噴出しながら地面に崩れ落ちていた。
「用なしの駒の処分はお父上より一任されております。といっても、もう聞えませんな」
ヴィーゴは地面に崩れ落ちたジャイルを蹴り飛ばしてどかすと、今度は筒先をフレデリック王に突き付ける。
「さて、もう一度お聞きします。御三方が降伏すればジェノサイダーの爆発も止め、フレデリック王も解放しますが受諾して頂けますでしょうか?」
「ジャイルまで殺して。ヴィーゴ……何が狙いなんだ?」
主人であるジャイルを殺してまで、俺たちを降伏させようとしているヴィーゴの思惑が皆目見当がつかなかった。
「御三方は私にとって主人を殺し、王とともに王都を灰燼に帰してでも欲しい人材というだけのこと。その意味はシンツィア殿、フィーリア殿、ダントン殿がよくよく知っておられるかと」
「シンツィア様と院長先生たちが?」
俺が三人に視線を向けると、三人は答えることを拒否するように視線を逸らして俯いた。
「喋りたくないようですな。ライナス師も秘密をあの世に持っていったようですし、その三人も師匠に殉じるつもりかもしれませんな。研究報告書と魔導器は接収してあちらに送ったし、あとは検体を確保すれば完成までも時間が大幅に短縮できるはずなので」
それだけ言うと、ヴィーゴはフレデリック王に向けていた筒先を院長先生に向けた。
「院長先生! 狙われてます!」
とっさに障壁を展開するため詠唱を始めるが、赤い光はそれよりも早く院長先生の胸を貫いていた。
「うぐぅ」
「ダントン! 今回復魔法をかけるから!」
心臓部から溢れる血液を押さえ、フィーリア先生が回復魔法の詠唱を始める。
だが、溢れる血の量はすぐに院長先生の命を奪うほどの量に見えた。
「ヴィーゴ! お前!」
「武器を捨てて降伏すれば、彼も生きてられたはずだったんですがね。私に撃たせたのは、貴殿らの態度のせいですよ」
ヴィーゴは狂気が宿った瞳をこちらに見せると、再び筒先から赤い光を撃ちだした。
赤い光は回復魔法を詠唱していたフィーリア先生の胸を穿ち、ダントンに折り重なるように倒れた。
「フィーリア先生!」
「フリック殿、武器を捨てるのか、このまま王都を灰燼に帰すのか早く選んでいただけますかな。私は忙しいと申したはず」
「くっ! ヴィーゴ! 院長先生たちをよくも許さない!」
俺はディーレを構えると、ヴィーゴに向かい斬りかかった。
その瞬間、数体のアビスウォーカーが姿を現し、ヴィーゴに向けて放った俺の斬撃を防いでいた。
「それが貴殿の答えとお見受けした。では、こちらも時間が惜しいので仕事だけはさせてもらいます。この選択をしたのはフリック殿自身だということは覚えておいた方がよろしいでしょうな」
それだけ言うと、ヴィーゴは筒先をフレデリック王のこめかみに向け、赤い光を放つ。
「フレデリック王! そんなぁ! 王様が! ヴィーゴ、あんた自分が何をしたのか分かってるの!」
「フレデリック王が……」
ジャイルと同じように頭部から大量の血を流し、フレデリック王が力なく地面に倒れ込んだのを見て、アルフィーネとノエリアが悲鳴のような声をあげた。
「分かっておりますよ。フレデリック王はライナス師とともに王国転覆を企む辺境伯娘令嬢ノエリアと、生きていた剣聖アルフィーネ、そして真紅の魔剣士フリックという冒険者によって殺され、彼の魔法の暴走によって王都はガレキの山になる。そういった筋書きなので」
「なんだよその筋書き……」
ヴィーゴが描いた筋書きを聞いた俺は、背筋から冷や汗が流れるのが止まらなかった。
「その筋書きがどういった結果を産もうが私の関知するところではないですがね。では、私は急ぐので失礼する。あとはフリック殿たちが頑張ってくれることを期待しておりますぞ」
ヴィーゴは薄ら笑いを浮かべると、外套を目深に被り直し、その姿を消していた。
本日も更新を読んで頂きありがとうございます。
王都編もあと一話で完結、最終章は書籍化作業と並行になるため少しお時間いただいて公開という形になりそうです。
書籍版2巻もそろそろ発売2週間以上たちました。電子、紙どちらでもよいのでお買い上げ頂けると幸いです/)`;ω;´)







