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127:懐かしさと違和感

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 ジャイルを庇うように立つジェノサイダーの前に出たアルが、両手の剣を振り抜くと空気を切り裂いた衝撃波が起こり、硬い皮膚を傷付けていた。



「衝撃波だけで傷を与えるとか……」



 冒険者時代のアルフィーネの剣技には、いつも驚かされてきたけど、今のはすごいとしか言えねぇ。


 それに剣の型を双剣に変えてるみたいだけど、短い期間であんなに自在に扱えてる順応性が羨ましい。



 容姿も剣の型も以前のアルフィーネではなかったが、戦いそのものはずっと以前の彼女のそのものだった。



「ジャイル、観念してフレデリック王を解放しなさい!」


「冒険者風情が急に割り込んできたかと思ったら、わたしに向かい命令するとは何者だ!」


「この声に聞き覚えはないかしら? 近衛騎士団長殿?」


「その声……まさか、アルフィーネ殿か?」



 ジャイルの拘束されていたフレデリック王は、アルの声を聞いて素性を察した様子だった。



「アル……フィーネだと? 黒髪でもなく、黒目でもなく男の姿だぞ。クソジジイは耄碌したのか?」


「容姿こそ違えど、あの声と剣技はアルフィーネ殿だ。ジャイル、そちの目は節穴か?」


「うるさい! 黙れ! ジェノサイダー、その冒険者もすぐに殺せ!」



 フレデリック王の言葉に、ジャイルが怒気を見せ、アルをもっと攻撃するようけしかけていた。



「あんたみたいな肝のちっちゃい男が、こんなことをしでかすとはね。いいわ、すぐにその怪物を片付けて、その首をもらい受ける」



 ジェノサイダーの殴打をかわし、その手の上に立つと、顔に向けて目に止まらぬ早さの刺突を繰り出した。



 なんで、あんなバランスを取れるんだろうか。


 相変わらず無茶な姿勢からでも剣を自在に繰り出せるとか、どうなってるんだよ。



 同じ場所に集中した連続した刺突で、ジェノサイダーの堅い皮膚もめくり上がり、中身の骨が見え始めた。


 そのまま、骨までも砕いてジェノサイダーを仕留められるかと思えたが、アルフィーネの小剣は音を立てて砕け散っていた。



「剣が……」


「アルフィーネ! そいつの前で油断するな!」



 剣先が消えたことで隙ができたアルフィーネに、怒りを見せたジェノサイダーの拳が迫っていた。


 俺はディーレを引き抜くと、石の壁(ストーンウォール)の魔法を詠唱する。



 地面から突き出された石の壁はジェノサイダーの拳で破壊されるが、その間にアルフィーネは危険な場所から退避した。



「ごめん、助かったわ! フィーン……ごめん、フリックさん」


「今は目の前の敵に集中しよう。俺があいつを引き付ける。攻撃は任せていいよな?」


「あ、うん。任せて」



 アルフィーネは逃げ出した騎士たちが捨てていった剣を手に取ると、攻撃するタイミングを窺い始めた。



 俺がジェノサイダーと戦ってる間にアルフィーネは隙を見つけて勝手に攻撃してくれるはず。


 追い込まれたジャイルが更なる暴発をして王を殺す前に決着をつけないと。



 俺は様子を窺っていたノエリアにも視線で合図を送る。



 彼女にも魔法で足止めの手助けをしてもらおう。


 三人でかかれば、ジェノサイダーだってそう恐れる相手ではないはずだしな。



 俺の視線の意図を察したノエリアが、ジェノサイダーの気を逸らすため援護の魔法の詠唱を始めた。


 その詠唱を合図に、俺はディーレを構え、顔の皮膚が半分以上脱落したジェノサイダーに斬りかかっていく。


 ノエリアの氷属性の魔法が、ジェノサイダーの足を凍らせ、攻撃の隙が生まれた



 骨が露出してる場所なら、魔法剣のダメージも通りやすいはず。


 ディーレも援護頼む。



『了解です! ビリビリさせてやりますから!』


「大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣(サンダーソード)



 魔法が発動し、ディーレに雷光が宿ると、アルフィーネの攻撃で露出した頭部に向かい斬撃を繰り出す。


 堅い皮膚が剥がれ落ちたおかげもあってか、ディーレの剣身が骨に触れた瞬間、ジェノサイダーの全身に雷が走るのが見えた。



「ウゴオオオオオオ!!!」



 痛みを覚えたのか、ジェノサイダーが獣のような咆哮をあげる。


 周囲には肉が焦げたような匂いが充満していた。



「あれがフリックの魔法剣……。初めて見たけど凄い威力……。それに剣技もフィーンの時とは見違えるほどいい動きをしてる。あれがフィーンの本来の姿……」


「フリック様、ジェノサイダーがあの光で狙ってます!」



 痛みを覚え咆哮したジェノサイダーは、俺たちから距離を取り、右手を構えて青白い光を発していた。



 アレは飛んでくる物が速すぎてかわせない。


 避ければ、後ろのアルフィーネに当たるかもしれない。



「見えざる空気よ。堅き障壁となって周囲に発現せよ。空気壁(ウインドバリア)



 俺の魔法が発動すると同時に、ジェノサイダーから射出された物が障壁を砕いていた。



 くぅ! 相変わらず一発で砕かれる。


 けど、次弾までの時間は稼げた。



「フリックさん、ありがとう。おかげで助かった。あの攻撃は時間かかるの?」



 後ろで隙を窺っているアルフィーネが、今まで一度も俺に言ったことのないお礼の言葉を口にしていた。



 こういった場面では絶対に俺に対して言わない言葉なのに……。


 なんか戸惑うんだが。



「ああ、たぶん次までは少し時間がかかるはず」


「なら、仕掛けます。援護を」


「あ、うん。ちょっと待った。燃え盛る炎よ、武器に宿りて敵を焼き尽くせ。火炎武器(ファイアウェポン)



 ライナスが使っていた武器に属性を付与する魔法を詠唱する。


 アルフィーネの持つ、二振りの剣に炎が宿る。



「これは?」


「それで追加でダメージを出せるはず。魔法は嫌いだろうけど、アルフィーネの剣技と合わさればもっと威力が出るはず」



 魔法嫌いのアルフィーネだと知っているが、拾った剣であのジェノサイダーに大きなダメージを負わせるには、付与魔法で威力を上げた方がいいと俺は判断した。


 魔法によって炎の宿った剣身を見て、アルフィーネはそっと呟く。



「ありがとう、フィーン。今までワガママ言ってごめんね……」


「え? 今何て――?」



 アルフィーネが呟いた声が小さくて聞き取れなかったが、顔の表情を見てる限り、怒ってはいなそうだった。


 そのアルフィーネは炎を宿した双剣を構え、ジェノサイダーに斬りかかっていた。



 アルフィーネの攻撃は熾烈を極め、付与された炎は切り裂いた堅い皮膚の奥で燃え上がり、傷が見る間に増えていく。



「フリック様、わたくしたちも援護をして一気に決着をつけましょう!」


「ああ、アルフィーネを援護する」


「地に眠りし硬き石よ、大気と交わり螺旋となりて、我が敵を貫け! 螺旋弾(スパイラルバレット)



 ノエリアの撃ち出した物体が、ジェノサイダーの右腕に当たり、例の見えない攻撃をする武器を破壊した。


 その間にアルフィーネを援護できる場所におもむき、彼女にジェノサイダーの攻撃が集中しないよう、魔法で牽制して注意を俺に向けた。

本日も更新読んで頂きありがとうございます。


王都編もあと二話くらいで終わる予定です。



双葉社様のアプリであるマンガがうがう様で第5話の③更新されてます。


コミックス一巻収録分は配信されたかと。ちょっとだけネタバレすると、書籍版では立ち絵ないロイドがちょろっと出てきます。


コミックス一巻も好評発売中なので、電子や本屋でお買い求めいただけると幸いです。



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