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sideアルフィーネ:王都へ

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 ※アルフィーネ視点



 ヴィーゴによってメイラの馬車を壊されたあたしたちは、王都まで乗せてくれそうな馬車を探して歩いていた。



「さすがに三人を乗っけてくれる馬車はないわね。みんな急いでるし、さすが王都への主要街道だとみんな冷たいわねー」



 大事にしていた馬車を失い、憔悴しきったメイラが通り過ぎる馬車を見てため息を吐いた。



「ごめん、メイラ。馬車はいつかお金貯めて新しいのを作るから……」


「いいの。追い駆けたのはわたしの判断だし。馬車が吹き飛んだのはアルのせいじゃないから。あのヴィーゴってやつにキッチリと請求するから」



 メイラの目に復讐とも思えるほど、強い意志が感じられた。



「アルお兄ちゃん、メイラお姉ちゃん。なんか、道路にいっぱい馬車が止まってるよ!」



 馬車を拾おうとしていたあたしたちと別れ、先を見てくると言って坂の先にいたマリベルが叫んでいた。



「馬車が止まってる? そんなことあるの? ここは主要街道よ? 渋滞するけど、止まるなんて」



 マリベルの言葉にメイラが首を傾げていた。



 メイラの言う通り、ここは多くの馬車が行き交う王都に続く主要街道。


 そんな街道上で馬車が止まるなんてことが、起きることは今まで一度もなかったはず。



「メイラ、見に行こう」


「え? あ、うん」



 あたしはメイラの手を引くと、マリベルのいる坂の上に向かい駆けた。



 ほんとだ……道が馬車で溢れかえってる……。


 渋滞はするけど、こんなことになってるなんて初めてだ。



 目の前には、街道上に停車する無数の馬車が見えていた。



「止まってるわね」


「うん、信じられないけど……」



 止まっていた馬車の持ち主と話してマリベルが血相を変えて戻ってきた。



「アルお兄ちゃん、メイラお姉ちゃん。大変! 大変だよ! 王都の城門がずっと閉じてるんだって!」


「城門が閉じてる? まだ、開門時間のはずだけど?」


「なんか、近衛騎士団長が悪い人を捕まえるために王都の城門を閉じちゃったんだって」



 ジャイルは悪い人なんか捕まえる人間じゃない。


 むしろ、悪いことをする側の人間だ。


 ヴィーゴたちが、院長先生たちを連れて行ったことと関係があるのかしら。



 マリベルの話を聞きながらも、ヴィーゴが去り際に放った言葉の意味が気になってしょうがなかった。


 そんな時、背後から誰かが声をかけてきた。



「ユグハノーツの冒険者、アル様ですよね? なぜ、このような場所に……」



 声のした方に振り返ると、エネストローサ家の紋章を掲げた馬車が止まっているのが見えた。



 御者席に座ってる人はたしかノエリア専属のメイドでスザーナって言ってたはず。


 その人と、エネストローサ家の馬車がいるってことは……。


 この馬車の中にフィーンとノエリアがいる!?



 目の前に現れたスザーナが運転する馬車に、あたしは動揺を隠しきれなかった。



「ああ、あ、はい。そうだけど、たしかノエリア様付きのメイドをされてるスザーナさんですよね?」



 どもりながらも相手の素性を間違えていないか確認した。



「はい、スザーナです。その節は、我が主であるノエリアお嬢様の依頼をお受け頂きありがとうございます」



 スザーナもこちらの素性に自信がなかったのか、それとも違う理由なのか分からないが緊張したような面持ちをしていた。 



「このような場所でお会いしたのも何かの縁、できれば馬車の中で積もるお話をさせて頂けるとありがたいのですが。お時間ありますか?」


「時間は……あまり、ないのですが……」


「できれば、きちんとお話をさせて欲しいと思っておりまして……。ほんの少しだけ、お時間いただきたく」



 スザーナはこちらの様子を探るように、慎重に言葉を選んでいる節が感じられた。



「あー、もうじれったいわねー。あんたがアルね。ちょっと面貸しなさい」



 荷室から飛び出してきた鳥があたしの肩に止まると、荷室の中にくるように羽をはばたかせていた。



「ちょ!? 鳥が喋ってる!?」


「鳥さんが喋ってる!」


「その方はシンツィア様で使役魔法で鳥の骨を操られてるんです。害はないのでお三方とも荷室におあがりください」



 あたしたちは顔を見合わせるとうなずき合い、スザーナの勧めにしたがい荷室にあがることにした。


 奥にノエリアとフィーンがいるかと思い、緊張して高鳴る胸を押さえつつ、荷室に入る。



「よく来たわね。あんたが剣聖アルフィーネだということはもう知ってるから」



 ノエリアとフィーンがいると思われた中には、全身鎧を着た性別不明の人が一人座っているだけだった。


 その性別不明の人にいきなり自分の素性を見透かされたことで、あたしは腰の剣に手をかけた。



「何者? ボクはただの冒険者アルで、剣聖アルフィーネなんて関係ないが」


「隠さなくてもいい。もうあんたの素性はあたしも知ってるし、ノエリアも知ってるし、そこのスザーナも知ってるし、あんたが一生懸命探してるフィーン……いや真紅の魔剣士フリックも知ってるわ。だから、剣から手を外しなさいよ」



 フィーンがもうあたしの素性を知ってる……。



「そこにおられるシンツィア様の言われた通り、フリック様もノエリア様も私が父ロランから手に入れたアル様の情報をお伝えしております」



 御者席にいたスザーナが荷室の中に入ってくると、あたしに頭を下げていた。



 ロランって、あの床屋さんしながら、辺境伯の密偵してた人か!?


 その娘からあたしの素性がノエリアたちに伝わってたのか……。


 二人がここにいないってことは、あたしの素性を知ってて関わりたくないからすでにどこかに去ったということか。



 あたしは愕然とした気持ちになり、剣から手を外しその場にへたり込んだ。



「アル……」


「アルお兄ちゃん……」



 へたり込んだあたしを心配そうにメイラとマリベルが見つめている。



 やっぱりそうなるわよね。


 フィーンもあたしには会いたくないだろうし、ノエリアもあたしに会わせたくないだろうし。


 でもせめて一言だけ謝罪の言葉を言わせて欲しかったなぁ。



 色んな事が脳裏を駆け巡り、抑えられなかった涙が目の端から溢れ出していく。


 そんなあたしの額に全身鎧の人の手刀が振り下ろされた。



「いたっ! 何をするの!」


「あんたが勝手に想像して、なんか暴走してそうな気がしたからね。フリックとノエリアがいないのは、別にあんたに会いたくないから逃げたってわけじゃないから安心しなさい」


「逃げたわけじゃない……の?」


「そうやってあんたが早とちりするから、フリックが毎回尻ぬぐいすることになってたとか分かるわー。これはダントンとフィーリアの教育の敗北ね。やっぱり、あたしも最後まで面倒を見るべきだったかも……」



 あたしの前に座り込んだシンツィアは、ほっぺたを引っ張ってきていた。



「いいちゃんと聞きなさい。フリックとノエリアはあんたが処刑されたと聞いて、王都にすっ飛んできた。それが身代わりだと分ると色々と探し回ってたの。それこそ、考え付く限りの場所を全部ね」


「ぜんふ? ふぃーんとのへりあが?」


「そう、全部。生まれ故郷までも探しに行ってね。そこまでして、あんたに会おうとしてたことだけは理解しなさい」



 あたしは黙って理解を示す頷きをシンツィアに返した。



「よろしい。あたしはあんたに対するフリックの気持ちは知らないし、ノエリアの気持ちもわからないけど、少なくとも二人はあんたに会う気はある。これも理解した?」



 先ほどと同じように黙って頷く。


 シンツィアの言葉のおかげで、二人があたしを避けて逃げたという気持ちは消え去っていた。



「二人は今、フリックの育ての親であるダントンとフィーリアがヴィーゴってやつに連れ去られたから助けるため、王都に先行してるだけよ。分かったかしら」



 あたしは三度、シンツィアに向かって頷いた。



「で、あんたたちはフリックを追って王都に向かってたのかしら?」



 シンツィアは摘まんでいたあたしの頬から手を放してくれた。



「そうです。インバハネスのギルドマスターが王都に向かったと教えてくれたので……」


「はぁ、つくづく会えない運命なのかしらね。まぁ、でも王都に行けば会えるわよ」


「でも、今王都は中に入れないって話じゃ……」


「え!? なんで!?」



 驚いたような声を出したシンツィアは、王都の城門が封鎖されたことを知らないらしい。



「ジャイルが悪人を捕縛するため城門を閉じたらしくって……」


「近衛騎士団長が……?」



 王都に入れないことをシンツィアに伝えていると、外で馬のいななきが聞こえてきた。



「あの声、ディードゥルが戻ってきたのかしら?」



 全身鎧の肩に止まっていた鳥が荷室の外に飛んで行くのが見えた。


 しばらくシンツィアが無言でいたかと思うと、急に立ち上がった。



「スザーナ、緊急事態よ。ライナス師が謀反人として捕まったらしい。フリックとノエリアは助けるために王都に潜入したって! あの子たちはまた無茶するわ! 嫌な予感がするからあたしはディモルで行く」


「え? あ、はい。って、ええ!! 王都にディモルで乗り入れるのですか!? それは無茶では!」


「あのディモルが王都のへっぽこ兵士たちに落とされるわけないでしょ! 緊急事態だし、エネストローサ家の紋章は外していくから安心しなさい。アルフィーネ、あんたはどうする? あと一人くらいなら乗れるけど来るの? 来ないの?」



 シンツィアがあたしに向かい手を差し出していた。



「行きます。メイラ、マリベル。あたしはシンツィアさんと一緒に先に行く。スザーナさん、二人を頼みます」



 あたしはシンツィアの差し出した手を握り返すと、スザーナに二人を頼んで荷室から出た。


 シンツィアが表に出ると、上空から巨大な翼竜が降りてくる。



 これがフィーンが手懐けた翼竜。


 デカい……こんな子を簡単に手懐けるってフィーンって本当はすごかったんだ。



 シンツィアが手早く紋章を描いた布を取り外し終えると、あたしも一緒に鞍に乗る。


 飛び上がった翼竜は眼下に広がる停まった馬車たちを無視して王都に向かい一直線に突き進んだ。

更新遅れましたが本日もよろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] >本当はフィーンづて凄かったんだ 『本当に』の方がしっくりきます
[一言] 「二人は今、フリックの育ての親であるヴィーゴってやつに連れされたダントンとフィーリアを助けるため、王都に先行してるだけよ。分かったかしら」 ↑ この表現だとヴィーゴがフリックの育ての親に見え…
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