121:叛乱騒ぎ
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リスバーン村から王都に向かう街道をノエリアを後ろに乗せたディードゥルとともにひた走る。
速度が出せないスザーナの荷馬車にはディモルとシンツィアを護衛に残し、俺とノエリアだけで先行して王都に駆け戻ることにしていた。
本当ならディモルで飛んでいけば、もっと早く帰れるけど。
さすがに王都に翼竜を乗り入れる許可はもらえなかったからな。
魔竜ゲイブリグスに長年苦しめられてきた王都の民たちは、竜種を極度に恐れる人も多くいるため、ディモルはずっと郊外で待ってもらっていた。
なので、今はディードゥルの脚と体力だけが頼りであった。
「フリック様、あれって……」
俺の腰にしがみついているノエリアが、指差した先には多数の荷馬車が街道上に停まっており、渋滞している様子だった。
「渋滞してるな? 交通量は多いけど、ここで渋滞するなんて珍しい……」
渋滞で動かなくなっていたため、駆け寄った俺たちは近くの商人らしい男に理由を尋ねてみた。
「なんでこんな場所で渋滞なんかが発生してるんだい?」
御者台に座っていた商人の男はふぅとため息を吐く。
「聞いた話だと、王都で叛乱騒ぎが起きてるらしくて、近衛騎士団長ジャイル様が戒厳令を出して昼間でも城門が閉じられたままらしいんだよ。おかげで足止めされたのが路上に溢れてるってわけさ」
戒厳令が出され、王都の城門が閉じられているだって……。
魔竜ゲイブリグスの討伐の時ですら、昼間は開け放たれた城門が……。
戒厳令を出したのがジャイルってことだし、この状況はヴィーゴの仕業だろうか?
それに叛乱騒ぎっていったい誰が……。
「叛乱の首謀者は誰と言われておりますか?」
背後で話を聞いていたノエリアも、叛乱騒ぎが気になったようで、商人の男に首謀者の確認をしていた。
「えーっと、たしか。ライナス師だ。ライナス師。魔法研究所のライナス師が、国家転覆の叛乱計画をしていたらしいって噂が流れてきてる」
商人の男の口にした名を聞いて、ノエリアが息をのむのが聞こえてきた。
あのライナス師が叛乱?
絶対に何かの間違いだろ?
近衛騎士団長のジャイルが動いたということは、裏でヴィーゴが操っているかも。
俺は王都で今起きている叛乱騒ぎに、村を襲ったヴィーゴが関与している気がしてならなかった。
「それで、王都の状況って?」
「城門は常時閉じられ、中の人は外出も禁止されて、ひっそりしてるらしいってさ。ライナス師もすでに拘束され、魔法研究所は近衛騎士団の管轄下におかれたって話だ。まぁ、聞こえてきた噂だから真偽のほどは分からんがね。このまま、叛乱騒ぎがおさまらんとわしらは商売あがったりなんだがな」
噂を教えてくれた商人はそれだけ言うと、ガクリと肩を落として、再び深いため息をついた。
「教えてくれてありがとう。少ないけど、これ足しにして」
俺は噂を教えてくれた商人の男に数万オンスの金貨を握らせる。
「兄ちゃん、こんなにもらっていいのかい?」
「噂を教えてくれた礼だから、取っておいて」
「すまねぇ、助かるよ」
商人の男は深く頭を下げると、手にした金貨を懐の革袋にしまいこんだ。
俺たちは荷馬車が溢れ渋滞する街道を逸れると、未舗装の草原をディードゥルが駆ける。
背後で俺の腰にしがみつくノエリアが呟くように口を開いた。
「ライナス師匠が王国に叛乱など考えるはずが……。ジャイルが讒言したとしてもあのフレデリック王が取り上げるとは思えないのですが……」
「戒厳令はジャイルの名で出てるけど、王の承認を受けなければ、おいそれと出せる物でもないと思う。それに魔法研究所は王立の施設。その長を逮捕するとなると確たる証拠がないと動けないと思う……。それが偽造されていなければの話だけど」
「ライナス師匠は嵌められて謀反人にされたと?」
「たぶん、アビスウォーカーの件だ。あれでジャイルからもヴィーゴからもライナス師匠は睨まれてたはず」
「フレデリック王に新型のアビスウォーカーが発見されたのを報告した件!? なるほど、報告を聞かれたフレデリック王の様子は半信半疑だったそうですが……。それならジャイルたちがフレデリック王のそばから排除したがる理由になり得ますね。自分たちの地位が危うくなったので、適当な理由をつけてライナス師匠を排除に動き出したというわけですか」
「そうだと思う。もしかしたら、ライナス師の弟子だったうちの院長先生たちも、その陰謀に巻き込まれて連れ去られた可能性がある」
郊外の僻地にある村の孤児院の院長というよりも、謀反人ライナスの元弟子という肩書で狙われたと思う方が自然だよな。
そう考えれば、院長先生たちとライナスを拘束した後は謀反人としてそれらしい理由を開示して公開処刑って流れになるか。
もう少し時間に余裕があるかと思ったけど、これはもっと急がないとマズい。
「ノエリア、時間がなさそうだ。もっと飛ばすから、しっかりと掴まっててくれ」
「は、はい」
「ディードゥル、最速で王都まで頼む」
ディードゥルは俺たちが掴まったのを確認するといななき、それまでの倍の速度で未舗装の草原を駆け始めた。
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来週もまた更新しますので、お待ちください。







