sideヴィーゴ:大襲来の真実
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※ヴィーゴ視点
なんとか王都へ駆け戻った私は、ジャイルへの報告も放置して、すぐに人質として連れて来た二人とともに屋敷の地下に作られた研究室に駆け込んでいた。
「ヴィーゴ様、そのように血相を変えてどうされました? それに現地人をこの研究室に連れ込むなとご自身が言われた――」
白衣を着た研究者たちが、駆け込んできた私を見て戸惑う様子を見せている。
「この血液から、我らが探し求めていた念願の魔素抗体を作り出せるかもしれない。急いで解析しろ」
「魔素抗体!? はっ、すぐに解析に回します!」
戸惑っていた研究者たちも魔素抗体を作り出せるかもしれないと知ると、すぐに解析に向けて動き出していた。
その様子をダントンとフィーリアは感心したように見ていた。
「王都の地下にこのような場所が……。見たこともない機器が多数並んでいる。どれも魔法文明時代の魔導器とは系統がことなる物ばかりのようだ」
「貴方たちは一体何者? アビスウォーカーに酷似した――っ!? ってアレは」
悲鳴のような声を上げたフィーリアが指差した先には、同胞が魔素に汚染され、魔素抗体がなく魔素を排出できないためアビスウォーカーに変異する途中の姿を標本化したものが並んでいる。
「尊き研究の糧になった同胞の亡骸だ」
「まさかアビスウォーカーが、元は人だと言うのか……」
フィーリアの指差す先を見ていたダントンも顔色を青く染め、微かに震えているのが見える。
「その通り、我ら異世界から来た人間が、この地に満ちる魔素に順応できずに変異した姿がアビスウォーカーという怪物になった」
「大襲来で発生したあの大量のアビスウォーカーは元人間の怪物だと言うの?」
「その認識で間違いない。本来なら、普通の人間として次元を超えて来る予定だったがな。私の誤りであのような不幸な事態が起きた」
大襲来から遡ること一〇年。
私は世界が崩壊する危機に見舞われていた同胞を助けるため、次元を超え新たな地に移動する技術を確立させ、この地が移住先に適しているか偵察隊を率いて降り立った。
魔素の存在を知らなかった当時の私は、大気も気候も元の世界に似ているこの世界を移住先として最適候補地として伝えた。
滅びゆく世界で戦々恐々と生きていた同胞たちは移住先の発見に誰しも歓喜し、私は英雄として褒めたたえられ、移住計画は大々的な支援を受けて進むことになった。
この地で私が頼ったのは、当時地方の領主貴族に過ぎなかったラドクリフ家の当主ボリスだ。
彼に金銭的支援を行い、王国内での地位を向上させアビスフォール一帯を治めるユグハノーツ辺境伯へ就任させ、移住してくる我らを保護してもらうという計画が順調に進んでいた。
あの日、あの大型次元門の開通起動ボタンを押すまでは――。
変異の兆候はあった。
偵察隊の隊員が、原因不明の体調不良で亡くなることも少なくない数が起きていた。
風土病かとも思い、できる限りの化学検査をしても一向に原因は掴めず、私自身は魔素抗体を持つ身であったため、外地での心的ストレスによるものと判断し、移住を急かされたこともあり原因究明に目を瞑った。
アビスフォールに完成した大型の次元門の開通ボタンを押したあと、この世の地獄が出現した。
移住を心待ちにしていた同胞たちは、開いた次元門に殺到し、こちらの世界へ希望に夢を膨らませて飛んでいた。
私が大型の次元門用のエネルギーとして、この地に満ちていた魔素を流用さえしていなければあの惨事は起きなかった。
大型の次元門を通過した者の大半は、魔素抗体を持たない者たちであり、通過と同時に大量の魔素を浴び、身体がアビスウォーカーへと変異して、理性も言葉も失い、動く物への攻撃衝動だけが残った。
それからは地獄でしかなかった。
十分な実験をせずに起動させた次元門は、通過してくる者の数の多さでエネルギーが過負荷となって暴走し、私たちの制御を受け付けず開いたままとなり、同胞たちは通過したら怪物に変異するなどと思わず続々と門をくぐり続け、アビスフォールから湧き出したアビスウォーカーは王国各地に甚大な被害をもたらしていく。
それが大襲来とこの地で呼ばれる惨劇の本当の姿だった。
以来、私は狂っている。
自分の犯した罪の重さに耐えかねて狂ったふりをしているのかもしれない。
ハートフォード王国の民は数十万単位で死に、我が同胞も同じくらいの数がアビスウォーカーとして討たれた。
その引き金を引いたのは私自身なのだ。
だが、そんな私を同胞たちは未だに英雄視してくる。
彼らにはこの地に移住するしか、もはや選択肢が残されていないのだ。
そういった事情もあり、その後の二〇年は大襲来で更に出世したボリスの野望に加担し、アビスウォーカーを兵器として改造し、同胞を組織化して、移住に必要な魔素抗体を探し求める生活が続いていた。
その生活もフィーンの血液によってたぶん終わりを迎えるはずだ。
魔素抗体を大量に人体に投与し定着させる技術さえ確立できれば、我らの同胞はこの地でマスクなしで自由に生きられる。
そのためには、二人から情報を引き出し、フィーンとアルフィーネを作ったとされる魔導器具を奪取しなければならない。
「さて、無駄話はここまでにさせてもらい本題に入らさせてもらおうか。フィーンとアルフィーネを作り出した魔導器具とその運用法をまとめた資料の場所を教えろ」
「知ってても言うわけがなかろう。あれは世に出していい技術じゃない」
魔導器具の整備を担当したダントンは口を割る気を見せないでいた。
私は懐からレーザーピストルを出すと、彼の足に向けて引き金を引く。
「ぐぬぅうっ!」
「ダントン!」
赤い光が彼の太ももを貫くと、貫通した穴から血が大量に噴き出した。
「言わねば死ぬ。ただ、それだけだ。それとも嫁の頭が吹き飛んだ姿を見たいか?」
ピストルの銃口をフィーリアのこめかみに当てる。
「この銃の威力はさきほど自身で試しているから、分かるな」
「ダントン、ダメよ。あれは墓場まで持っていくと言ったはず――」
私は勝手に口を開いたフィーリアの耳を撃ち抜いた。
髪の焦げる匂いとともに彼女の耳は姿を消した。
「フィーリアっ!」
「大丈夫。ダメ、言ってはダメよ。あの子たちのためにも、あの技術は闇に葬るべきだもの」
強情だな。
とはいえ、殺してしまえば場所が分からなくなる。
並行してライナスの方をジャイルに揺さぶらせてみるか。
「少しだけ時間をやる。情報を話せば、無事に解放してやる。話さねば死が待つと思え」
私は二人を介抱するように部下に伝えると、研究室を後にして屋敷にいるジャイルのもとへ向かった。
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ヴィーゴ視点あと一話続きます。
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