118:目覚め
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目を開くと、子供時代に見慣れた孤児院の天井が見えた。
あれ? 俺って……。
アルフィーネとの鍛錬をやり過ぎてぶっ倒れたのかな。
また、院長先生たちに怒られちゃうよ。
霞む目とはっきりとしない意識の中、ぼんやりとそんなことを考えていたら、近くにいた人が部屋を飛び出していく気配がした。
誰か付き添っててくれたのか。
アルフィーネかな?
もう少しだけ手加減してくれてもいいと思うんだけど。
俺はアルフィーネみたいに器用な動きはできないんだからさ。
混濁する意識の中で、俺は一緒に育ってきたアルフィーネへ悪態をついていた。
しばらくすると、複数人が走ってくる音が聞こえ、ドアが開くと誰かが俺の手を取ってくる。
「フリック様! ご無事ですかっ! 痛いところとかありませんか! すぐに回復魔法を詠唱いたしますからっ! いや、その前にわたくしの魔力をお譲りしますので」
必死に俺に呼びかける子に握られた手は温かく、そのぬくもりだけで安心を感じる。
あれ、俺って……。
ここは孤児院だよな……。
霞んでいた目の視力が戻ると同時に意識もはっきりとしてきた。
はっ!? ノ、ノエリア!?
そうだ! 俺は怪物たちと戦ってたはず!
なんで、子供時代だって錯覚してたんだよっ!
自分が混濁する意識の中で子供時代と錯覚していたことを理解し、恥ずかしさから顔が火照る。
「あ、いや。身体は大丈夫。俺はたしか――」
「フリック様は、アルフィーネ様の元執事であるヴィーゴが引き連れたジェノサイダーの自爆に巻き込まれました」
手を握って心配そうな顔をしているノエリアが、何が起きたのかを話してくれていた。
「ヴィーゴはダントン様とフィーリア様を連れて逃げましたが、その後ジェノサイダーの自爆によってトンネルは崩落し、現在はシンツィア様中心に村の方が復旧作業にあたっています」
「院長先生たちは救出できなかったんだったな」
すぐに院長先生たちを助けるためヴィーゴを追うべきだろうけど、人質だった二人を殺す気はなさそうだったよな。
アルフィーネを釣り出す餌として二人を使う気だろうか?
それにしても、村をこのままにしておくわけにもいかないよな。
トンネルが崩れてるとなると、村に物資を持ってくる商人も入れないだろうし。
それにあの爆発の被害もまだ俺は確認してないからな。
状況をいまだ完全に把握できていない俺はノエリアに現在の状況を更に尋ねる。
「村の方は? 酷い被害は出てない?」
「フリック様の展開した障壁のおかげで焼け落ちた数軒の民家以外は無事です。トンネル崩落部分のガレキさえ片付けば以前と同じ生活はできると村の方たちは仰っております」
「そうか……よかった。魔力を底の底まで使い切った甲斐があった」
ジェノサイダーの放つ光に嫌な予感を覚えた俺はありったけの魔力を使い、村全体を覆う障壁を展開した。
そのおかげで村への爆発の影響は抑えこめたらしい。
ただ、トンネル方向に爆風と爆発の威力が集中したおかげで、トンネルが崩落してしまったようだ。
「その影響で丸二日以上ずっと意識なく眠っておられましたが、身体の痛みとかはありませんか?」
「ないよ。むしろ、調子が良すぎるくらいだよ。この身体の調子の良さを察するにノエリアがずっと俺を看病してくれたんだろ?」
酷く泣き腫らした顔をしたノエリアの顔を見て、すぐにインバハネスの時みたいに魔力が枯渇して意識を失った俺をずっと介抱してくれたんだろうと思った。
「と、当然のことをしたまでですから……」
「ありがとう。おかげで命拾いした。俺はノエリアを頼り過ぎだな」
そう声をかけると、彼女は頬を赤く染め、俺の手を強く握りしめて下を向いてしまった。
「……フリック様のためになるなら、なんでもすると決めておりますから……」
声を潜め呟く彼女の声が、俺の耳に届く。
その言葉の意味がもたらす圧倒的安心感が、俺の気持ちを落ち着かせてくれた。
「俺は信頼するノエリアが傍にいてくれるから無茶ができるんだ。色々とノエリアには迷惑かけてる自覚はあるんだけどね。こんな俺でごめん」
「……いえ、フリック様はフリック様ですから。そのままでよろしいかと。わたくしはそのように思っております」
ノエリアが返してくれた直球の言葉に、俺は恥ずかしさから彼女から視線を外し頬をかいた。
「ですから、わたくしに信頼を寄せてくださるフリック様に、きちんと申し上げねばならないことがあります」
下を向いて俯いたままのノエリアが、握ったままの俺の手をさらに強く握ってきた。
なんか様子がおかしい。
俺が寝てる間に、何か問題が発生したのだろうか?
院長先生たちが攫われたのは大事件だけど、まだ向こう側に利用価値が残ってる間はたぶん殺されないはずだろうし。
その間に助け出せば問題ない。
明らかに様子のおかしいノエリアの姿を見て、それまでの安心感が消え、言いようのない不安がこみ上げてきた。
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