sideノエリア:最愛の人
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※ノエリア視点
ベッドに横たわる彼の姿を眺めていると、瞳から溢れる涙が止まらない自分がいた。
「フリック様……」
左腕だけでなく、全身に包帯を巻き、孤児院の一室にあるベッドで彼は眠っている。
アビスウォーカーを使い暗躍していた組織が、新たに連れてきたジェノサイダーという怪物が死ぬ時、羽交い絞めしていた彼を道連れに爆発した。
「ただいまー。フリックはまだ寝てるの? って、ノエリアはまた泣いてるの? 大丈夫だって、フリックがもし死んだら、ノエリアお気に入りの杖に魂を定着させてあげるから安心しなさいってー」
「シンツィア様、勝手にフリック様を殺さないでくださいますか」
重苦しい空気を察したのか、肩に止まった骨の鳥からシンツィア様がおどけた様子で話しかけてくる。
わたくしは急いで目尻の涙を拭うと、冷静さを取り繕った。
「冗談よ。冗談。ただの魔力切れで昏倒しただけのフリックを前にして、ノエリアがあまりにもめそめそ泣いてるから、からかいたくなっただけ」
「シンツィア様、フリック様は魔力切れの昏倒だけじゃないですから。軽いとはいえ全身に火傷もしてますし、腕の傷もそれなりに深いのですから心配しているだけです。傷口から感染して病気になるかもしれませんし」
「心配性ねー。そんな包帯グルグル巻きで四六時中回復魔法かけまくらなくても、傷にあんたのツバ付けとけば治るわよ」
「わたくしのツバ!? そのような不衛生なことは絶対にいたしませんからっ! それにもう二日も寝たままですし、このまま起きないのではという不安も」
孤児院に運び込んでから、ずっと付き添って回復魔法を詠唱し続けた結果、身体の傷はほぼ完治している。
けど、一向にフリック様の意識は戻らず眠ったままであったのだ。
「あったりまえよ。あの爆発から村全部を守るため、巨大な空気壁と物理障壁を何重にも展開して被害を抑え込んだんだから。普通の魔術師何千人分を消費したと思ってんの」
「たしかにあの障壁はとてつもない大きさでしたが……」
「フリックの障壁に阻まれたおかげで、爆発の威力がトンネル側に跳ね返ってトンネルごと吹き飛んだけどね。無傷だった村人とゴーレムたちを動員してガレキを片付けてるけど、しばらくここから動けそうにもないわ」
フリック様のおかげで村は数軒が火災で全焼したものの、その後の爆風からは無傷で済んでいたが、爆発の余波で村への唯一の出入り口であるトンネル含む一帯の山が消し飛んでいた。
魔力を回復したシンツィア様は、ゴーレムを使いその場所を人と馬車が通れるように尽力してくれている。
「さって、魔力の充填完了。また、現場に行ってくるからー。ノエリアもめそめそしてちゃだめよ。フリックが起きた時、泣いてたのがバレると落ち込まれるからね。スザーナにお化粧してもらって、隠してもらいなさいよ」
「そ、そんなに酷い顔ですか!?」
「うん、酷い顔。美人が台無しよ」
消耗した魔力を回復したシンツィア様は、それだけ告げると割れてガラスの無くなった窓からトンネルの方へパタパタと飛んで行った。
シンツィア様と入れ替わるように、外で炊き出しの手伝いをしていたスザーナがドアを開けて入ってきた。
「シンツィア様が戻ってらしてたのですか?」
「え、ええ。魔力の補給に来たみたい。スザーナ、わたくし酷い顔ですか?」
「何を唐突にそのようなことを申されるのですか?」
「シンツィア様に目が真っ赤で、今フリック様が目覚めたら心配されると言われましたので……」
スザーナがわたくしの顔をジッと覗き込んできた。
「そう……ですね。丸二日、ほとんど寝てませんし、髪もボサボサ、顔も目が赤く腫れてますし、目覚めたフリック様は心配されるのではと思います」
「嫌われてしまうかしら?」
「フリック様はそういった方ではないので大丈夫でしょうが、いたく心配はされると思いますよ。シンツィア様が言われたとおり、魔力切れで昏睡状態なだけですし、いつ目覚めてもいいようにしっかりと身なり整え、軽くお化粧くらいはされた方がいいかと」
姉と頼るスザーナからもシンツィア様と同じ提案をされたため、看病に夢中になりすぎて自分がかなりひどい状況だと理解した。
と同時にお腹が小さく鳴る音もした。
「お食事もほとんど取られてませんから、一度しっかりとお取り頂けると私も専属メイドとして安心できるのですが」
「わかりました。すぐに食事と着替えをいたします」
「承知しました。フリック様の様子は村の人に見てもらうようお願いしておきますね」
わたくしは小さく頷くと、食事と着替えをするため、スザーナとともに外に停めている荷馬車に向かった。
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ノエリアsideあと一話続きます。
書籍版発売まであと三日となっております。購入して頂ければ幸いです/)`;ω;´)
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