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117:ヴィーゴの謎かけ

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 トンネルに着くと、村の方から駆けてくる集団が目に飛び込んでくる。



 どうやら間に合ったようだ。


 相手より先に着いた。



 三体のアビスウォーカーが院長先生たちを抱え、それ以外に外套の人物を護衛する二体のアビスウォーカーの姿が見えた。



「止まれ! 人質を解放しろ!」



 トンネルへの道を塞ぐように立つと、護衛のアビスウォーカーたちは手にした筒状の物を俺に向けた。



「撃つな。トンネルに当たって崩落したら私たちが出られなくなる!」



 アビスウォーカーを率いてる者が攻撃しようとしたアビスウォーカーを手で制していた。


 俺はその声に聞き覚えがあるような気がした。



 この声……アルフィーネの屋敷で執事をしてたヴィーゴの声だよな。


 まさか、だよな?



 外套を目深に被っていたため、顔の造形までは見えないでいる。


 俺は相手にカマをかけるため、わざと名を呼んでみた。



「あんた、アルフィーネのところで執事をしてたヴィーゴだよな?」



 外套の男は俺の問いに答えず、アビスウォーカーに指示を出すと、筒先を院長先生たちに向けていた。



「動くと人質の命はない。降伏すれば、その命だけは助けてやる」



 問いに答えなかったが、声で確信していた。



 やっぱりヴィーゴだ。


 あいつがアビスウォーカーを操る連中の仲間だったのか……。


 たしか近衛騎士団長のジャイルからアルフィーネに紹介されて来たはず。


 アルフィーネ本人が遁走した後は、ジャイルの家に戻っていると聞いてたけど。


 ジャイルとヴィーゴが繋がっているとなると、インバハネスの集団とラドクリフ家はやはり深いつながりを持ってるということか。



「なんでジャイルの手助けなんてしてるんだ? この村を襲ったのはアルフィーネの居場所を探すためか?」


「お前は余計なことは知らん方がいい。武器を捨て降伏するか、それとも人質を見殺しにして私たちを殲滅するか早く選べ」



 ヴィーゴはこちら問いに答える素振りは見せず、先ほどの怪物を率いていた男と同じようにこちらへ降伏を呼び掛けていた。



「降伏はしない。そっちこそ、シンツィア様や院長先生たちを放せ!」


「無駄な交渉はしない。それにこっちの方が戦力的には優勢だと思うがな。もう一度だけ聞く。降伏する気はないか?」


「ない!」



 ヴィーゴは耳につけた機器に向かってなにやら呟くと、赤い光が俺たちの足元に現れた。


 とっさにノエリアを庇って地面に押し倒す。


 次の瞬間、元いた場所の地面が爆発していた。



「ヴィーゴ様、フリックたちはわたしが――」



 声のした方に向くと、さきほどの若い男が俺たちに追いついていた。



 もう、追いついたのか。


 挟まれるとは……。



「馬鹿者っ! マスクはどうした! すぐにつけよ!」


「すみません、破損しました。予備はもう……ないです」


「くそ、すぐに拠点に戻るぞ! 合流しろ! フリックたちは後回しにする! お前は先に行け」



 ヴィーゴは若い男の姿を見て、焦りを感じているようだった。



 あの焦りよう……なんだろうか?


 あっちの方が圧倒的優位なはずだけど。



「いえ、この好機を逃す手はありません! わたしの命で同胞が救われるなら喜んで捧げます!」



 若い男はヴィーゴの指示に従わず、引き連れた怪物たちをけしかけていた。


 怪物たちがこちらに向かって迫ってくる。



 相手は遠距離戦を仕掛けてくる気はなさそうか。


 ヴィーゴたちの間に割り込んで、その隙に人質を



 俺は視線でノエリアに合図を送る。


 ノエリアも俺と同じ考えを抱いたようで、頷いてくれていた。



 俺が合図を伝えるとディーレが幻術の霧(イリュージョンミスト)を発生させ、周囲が白い霧に覆われた。



「わが魔素(マナ)をまといて、わが身と同じ姿となれ。分身(アバター)



 地面から生成された分身たちが、霧の中から飛び出して行く間に、俺はヴィーゴの傍に駆け寄った。


 一方、ノエリアはシンツィアの本体である全身鎧を担いだアビスウォーカーを超重力(グラビディホール)で攻撃し、重さに耐えかねたアビスウォーカーは鎧を放りだしていた。



「シンツィア様、今魔力をお分けします」



 アビスウォーカーが放りだした鎧に駆け寄ったノエリアが手を触れると、無くした魔力を吸ったシンツィアの本体が淡い光を帯びた。



「ふっかーつ! いや、もつべきものは魔力の多い弟子ね。うちの弟子たちと友達にやらかしてくれた報いは受けさせないとね」



 魔力を回復したシンツィアが新たにゴーレムを作り出すと、ヴィーゴの護衛をしているアビスウォーカーにけしかけていく。


 護衛たちはシンツィアのゴーレムによって、防戦を強いられていた。



「シンツィア様、あまり無理はしないでくださいよ。また魔力切れされても困りますし」


「フリック、あたしを年寄り扱いしないよーに! まだ、ピチピチなんだからねー」



 俺はシンツィアの援護を受け、護衛のアビスウォーカーに火炎剣(フレイムソード)を叩き込み怯ませる。


 その隙を狙ってノエリアの蔦絡み(アイヴィーバインド)の蔦草がヴィーゴの身体を拘束することに成功していた。



「ぬっ! 目標は私だったか!」


「悪いが、そうさせてもらった! アビスウォーカーに人質を解放するように言え! それとあっちの仲間にもこれ以上抵抗するなと伝えろ!」



 蔦草に拘束されたことで外套は取り払われ、俺の見知ったヴィーゴの顔が現れていた。


 その喉元にディーレの刀身を突き付ける。



「ヴィーゴ、あんたがアビスウォーカーを使って何を企んでいるのかもこの際喋ってもらうからな」



 やがて白い霧が晴れ、若い男はヴィーゴが拘束されたことを見ると、怪物たちの攻撃を手控えさせた。



「フィーン殿……いや、今はフリック殿だったな。貴殿は本当に知りたいのか? 世の中には知らない方が幸せなこともあるんだぞ」



 拘束されたヴィーゴはなぞかけのような問いを俺に向かってしてきた。



 知らないことが幸せとかってなんのことだよ。


 強化されたアビスウォーカーが、人に使役されて王国内を跋扈してる方が危険だろ。



 俺はヴィーゴの問いかけの意味を図りかねた。



「アルフィーネ殿もそこにおられるノエリア殿も不幸になる話だが、それでも貴殿は私の目的を問うつもりか?」



 ヴィーゴの表情が狂気に蝕まれていく者のように歪んでいくのが見てとれた。


 その表情を見て俺は薄ら寒さを感じたが、喉元に突き付けたディーレを動かすことはしなかった。



「そんなハッタリで騙されるか!」


「知れば一生の後悔になる。そうであろう? シンツィア殿?」



 ヴィーゴがよく分からない意図の質問を全身鎧のシンツィアに向け問いかけていた。



「一体何の話かしらね? あたしにはさっぱりだわ。それよりも早くあたしの友達を解放して大人しく捕縛された方が身のためよ? それともその口ごと人生を閉じちゃった方がいいかしら?」


「それはできない相談だ!」



 ヴィーゴが返答をした瞬間、俺の左腕に強い衝撃が加わる。


 攻撃してきたのは怪物たちだった。


 空気壁(ウインドバリア)物理障壁(プロテクトガード)が粉々に吹き飛び、それでも相殺しきれなかったようで破片が俺の左腕を掠めて切り裂いていた。



『マスター!』


「フリック様!」



 怪我を見たディーレとノエリアが悲鳴のような声を上げるが傷は浅い。

 

 その間にヴィーゴに駆け寄ったアビスウォーカーが、筒から出た赤い光で蔦草を焼き切り、拘束を解いてしまっていた。



「怪物たちが来るわ! 迎撃を!」



 ヴィーゴが解放されたことで、再び怪物たちとアビスウォーカーと交えた乱戦に持ち込まれた。



「フリックは手負いだ。一気に倒すぞ! ジェノサイダーども、集中して攻撃しろ」



 怪物たちは、致命傷を与えられない分身を無視して回復する暇を与えず俺に攻撃を集中させてくる。


 出血量こそ大したことはないが、左腕は力が入らず、片手で防戦するしかない状況だった。



「血だ! 血を確保しろ!」



 若い男が怪物たちへ指示を出す声が聞こえてきた。



 血なんてどうするつもりだよ。


 こいつら分からないことが多すぎる。



 攻撃の密度が増し、ついにかわせなくなった俺は手負いの怪物に羽交い絞めにされてしまった。



「よし! 捕まえたぞ! すぐに血を採取するからそのまま掴まえていろっ!」



 男が転がるように俺のもとに駆け寄ると、ポーチから鋭利なナイフを取り出し、左腕の傷口を更に広げる。



「うぐ、やめろっ!」


「うるさい。検体は黙れ!」


「ぐあ!」



 男がナイフを乱暴に動かしたため、腕の動脈が傷つき、大量に血が噴き出した。


 滴る血を男が一生懸命に瓶のような物に詰めていく。



「これがあれば……きっと、きっと同胞は救われる」



 俺の腕から滴る血を見ている男の眼は狂気に侵された人のようであった。



「フリック様! い、今お助けしますっ!」


「ノエリア、今はよそ見したら自分たちがやられるからっ! 大丈夫、フリックは頑丈だからきっと大丈夫よ!」



 ノエリアとシンツィアはアビスウォーカーとの戦闘で手一杯か。


 あとはディモルだが――



 怪物に羽交い絞めされた身動きのとれない俺は、周りの様子に眼を凝らすと、上空から急降下するディモルの姿が見えた。



「クエェエエ!」



 ディモルは血の採取をするのに夢中で隙ができた若い男に目がけて急降下すると、地面に押し倒し鋭いくちばしで男の眼を抉っていた。



「うぐわぁあああ、眼がぁああ! く、食われたぁあああっ!」



 男の喚き声に反応し、怪物たちの動きが鈍る。


 だが、先ほどのように男を守りに行く様子を見せなかった。



「ジェノサイダーども、血は採取し終えた! わたしのことは無視して、フリックをやれ! ヴィーゴ様、あとは頼みますっ!」



 ディモルに押し倒された男が俺の血が詰まった瓶をヴィーゴに投げ、それだけ言い残すと、ディモルの鉤爪によって身体を引き裂かれ絶命していた。



「無理はするなと言ったのに……馬鹿者め。フリック殿……我が同胞を一度ならず二度も手をかけたな……この罪は必ず背負わせてやるからな」



 俺を見据えるヴィーゴの眼に憤怒の色が宿るのが見えた。


 あまりの殺気の凄さに身震いを感じる。


 

「目的は最低限果たした。今回はこれで引かせてもらう。フリック殿、また近いうちにお会いするとは思うが、それまでしばしの別れだ」



 ヴィーゴは男から受け取った瓶を大事そうに懐にしまうと、無傷の怪物たちとアビスウォーカーに指示を出し、院長先生夫妻を連れてトンネルの奥へと早々に消えていく。



「ま、待てぇ!」

  


 手負いの怪物に拘束されたまま、俺はその姿を見送ることしかできなかった。



 くそ、院長先生たちが攫われた。


 一体、なんの目的があって先生たちを。


 それに俺の血に何か意味があるのか?



「フリック様、怪物の様子が!?」


「フリック、それ絶対ヤバいやつだ! 障壁! 障壁張って! ノエリアもすぐに障壁張りなさい!」


『マスター、これヤバいですよー』



 ヴィーゴを追うことができず悔しい思いをしているシンツィアとノエリアが慌てた様子で、障壁を張るように騒ぐ声が聞こえてきた。


 その声に我に返ると、俺を拘束する怪物に視線を向ける。



 怪物はその身体から眩しいくらいの青白い光を発しており、嫌な予感が俺の脳裏を掠めたため、言われるがまま最高強度の障壁を魔力が持つ限り広範囲で展開した


 次の瞬間、怪物の身体から爆発的な光が発生し、視界が真っ白に染まると、周囲は爆風と衝撃波でなぎ倒されていた。


追加分書き終わりました。


これにてリスバーン村のお話は終わりです。


来週はノエリア視点から開始です。また、来週もよろしくお願いします。


それと来週は2巻の発売週ですので、できれば書籍版を買って頂けるとお話の続きを書くモチベーションにもなりますので、どうぞよろしくお願いします/)`;ω;´)

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― 新着の感想 ―
[一言] 結局、敵の目的は達成されるよね〜っていう話… なんか敵側のご都合だけ優先するのはモヤっとしかしないな〜 消化不良
[一言] さっさとシネ!アホが!
[気になる点] 酷いほどのご都合展開 [一言] うーんご都合展開が目立ちすぎてせっかくのいい作品だったのに落ち目な感じになってきています。 山の中の小さい村で院長先生達や子供達が襲われているのにも気…
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