112:思わぬ苦戦
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ディーレから放たれた炎の矢が、近寄ってきた巨大な体躯をした怪物に命中していく。
全く怯む様子を見せないな……。
魔法によってダメージを受けてるんだろうか?
炎の矢くらいの威力じゃ全く効かないってことかもしれない。
顔面に炎の矢を喰らっても、怯む様子を見せず見た目からは想像できないほどの素早い動きで距離を詰めてきた。
『マスター、牽制に怯まないです!』
「もっと威力の高い魔法でやってみてくれ」
『りょ、了解ですー。■▲〇※■▲〇※』
詠唱を終え、発動したのは氷結円だった。
地面から冷気を帯びた霧が湧き上がり、円の中に侵入してきた怪物たちの足を凍らせて動きを鈍らせていく――はずだった。
凍った足を無理矢理に地面から引きはがして動いてきてる!?
『マスター! 止まらないですー! それになんか変――』
素早い動きで俺たちとの距離を詰めた怪物たちが、こちらに向けて右腕を突き出して構えてくる。
構えた右腕には、筒状の器具が取り付けられているのが見え、嫌な予感に襲われた俺は空気壁の詠唱を始めた。
その瞬間、怪物たちの右腕が夜の闇の中で煌めいた。
発動した空気壁は粉々に砕け、安全のため突入前に発動させておいた物理障壁すらも一発で粉々に砕かれ、その衝撃で俺は吹き飛ばされて地面を転がっていた。
「いってぇ……。物理障壁すらも一発で壊してくるのか。右腕のアレは。でも、連射はできないっぽいな。それだけが救いか」
すぐに立ち上がった俺は、攻撃した怪物たちが右腕に付いた筒から青白い光と煙を出しており、次弾を撃つ気配を見せずにいたことに安堵する。
あんな攻撃を障壁なしの身体へ連射されたら、粉々に吹き飛んじまう。
右腕の武器にはよく注意しないと。
となると、接近戦を仕掛けて、構えさせない方がいいかもしれない。
っと、その前に相手を混乱させるため、ゴーレムで身代わりを作っておくとしよう。
「わが魔素をまといて、わが身と同じ姿となれ。分身」
傀儡人形で生成されるゴーレムに、物や人の姿を変える偽装の魔法で自分の姿を投影させてみた。
シンツィアには内緒で色々と練習してきたけど、これならどれがゴーレムでどれが俺か判別しづらくなるはず。
同調は割と高めにして、回避能力も上げてるし、威力は落ちるけど魔力を帯びてる分身から魔法を撃つこともできなくはないしな。
俺は旅の中で密かに練習してきた魔法が上手く発動したことに満足した。
地面から生み出された俺の分身は八体、これ以上はもっと練習しないと上手く制御できなさそうだった。
『マスター、援護ですー。■▲〇※■▲〇※』
近づいてくる怪物たちの前にディーレが幻術の霧の白い霧を発生させて、彼らの視界を奪ってくれていた。
その隙を突き、砕け散って霧散した物理障壁と空気壁を再度発動させると、俺は分身たちを率いて怪物たちとの距離を詰めた。
距離を詰めた俺は、分身たちを怪物にけしかけていく。
横にも縦にも人の数倍はある怪物は、その身に見合わない身のこなしを見せると、分身たちの繰り出す斬撃をかわしていた。
うっそだろ……あんな巨体であの身のこなしとか。
いったいどんな身体をしてるんだよっ!
そんなことを思いながらも、隙を見せた一体に近寄るとディーレが発動させた火炎剣を纏った刀身を怪物の脇腹に打ち込んできた。
『か、硬いです。前の美味しくない怪物よりももっと硬いですー。ぎぃーんってなってる』
鉄をも軽く両断するディーレの刀身を受けても、怪物の脇腹には傷一つ付かず、身体の内部に浸透できなかった火炎剣の魔力は表面で爆発するだけであった。
「前のアビスウォーカーよりも皮膚が厚いってことかもしれな――」
相手に与えたダメージの確認をする暇すら与えられず、攻撃を受けた怪物が、俺の首をへし折ろうと太い腕を振り回してくる。
風切り音を纏った怪物の腕は、俺の頭の上スレスレを通過していた。
『マスター! 別の一体がさっきみたいに右腕構えてます!』
攻撃をかわした俺にディーレから悲鳴に近い声で注意がもたらされた。
青白い光と煙がおさまってるな。
あれが消えると再度撃てるってことか。
って、こんな冷静に見てる暇ないや。
右腕を構え始めた怪物へ向け、分身たちを集中してけしかける。
怪物はどれが俺の本体か分からないようで照準を合わせられずにいたが、一体に狙いを付けると右腕を煌めかせた。
これは、避けられないか……。
破壊される寸前で、狙われた分身から意識を切り離す。
次の瞬間、分身の身体は粉みじんになって吹き飛んでいた。
本体にダメージを与える方法がまだ見つかってないから、腕の武器を先に壊した方がいいか……。
あれで何度も狙われたら命がいくつあっても足りない。
俺は怪物たちが見せた思わぬ強さに困惑を感じながらも、彼らを倒すための方策を必死になって考えだしていた。
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