表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
158/262

sideヴィーゴ:狂気

誤字脱字ありましたら誤字報告へ

 ※ヴィーゴ視点



 眼下には高い山に囲まれて周囲から隔絶された村の様子が広がっていた。



「急に王都から姿を消したフリックたちの消息を追ってきたら、このような場所にたどり着くとは……」



 雇い主であり、形式上の主人であるジャイルからくだされた、真紅の魔剣士フリックの暗殺指令を実行するため、自らの組織の耳目を使いこの地まで追いかけてきていた。



「それにしても、急峻な山肌を登ることになろうとはな……。アビスウォーカーたちを連れてなければ、越えられぬ場所であった」



 村への入口がトンネルのみと判明すると、こちらの存在を知らせるわけにもいかないので、人を寄せ付けないほど急な斜面が続く山肌をアビスウォーカーに担いでもらい踏破してきていた。


 標高の高い場所は雪の積もる箇所も散見されたが、強力な身体能力を誇るアビスウォーカーたちにとっては、平地とさほど変わらぬ速度で進める場所でしかなかった。


 今は村が見渡せる崖の上で村の様子を探りに出した者が帰ってくるのを待っていた。


 そして、待ち人であった偵察に出した若者が光学迷彩の効果を発揮する外套の電源を切ったようで、崖を登ってくる姿が見えた。


 私のもとにたどり着くと、呼吸が苦しいようで彼は口元を覆う白いマスクを外した姿で報告をしてくる。



「はぁ、はぁ、ヴィーゴ様、お待たせしましたすごい情報を入手――」


「馬鹿者! 魔素(マナ)を完全に浄化した場所以外でマスクを外すなと申したであろう。抗体なき者にとって、この地の大気に含まれる魔素(マナ)は毒になると申したはずだ! 微量とはいえ、積もり積もればお前もアレになるんだぞ! 私にこれ以上同胞に手をかけよということか! 違うのならすぐにマスクをつけよ」



 不用意にマスクを外して会話をしてきた若者を叱りつけると、すぐにマスクをつけさせる。


 幸いにして私には免疫抗体が確認されており、マスクをつけずにこの地で活動ができるが、目の前の若者はその抗体を持ち合わせていない。



 本来なら危険な外の任務に、彼みたいな若い同胞を動員する気はなかった。


 だが、フリックによって多くの同胞が命を失ったため、彼のように経験の浅い者を連れてこなければならない事態に陥っていたのだ。



「はっ! す、すみません。油断しておりました」



 マスクをつけなおした若者は、私の前で跪いて頭を下げていた。



「気をつけよ。生まれ故郷が消え去りゆく我らには、この生きづらい土地で生きる選択肢しか残されておらぬのだ。それに同胞も数を減らしておる。お前のように若い者が、同胞たちには今後必要となってくる。油断から簡単に命を失うな」


「はっ! そのお言葉十分に胸に刻みつけておきます」


「うむ。では、報告せよ」



 こちらの言葉を聞き、頭を下げていた若者は顔を上げると、偵察の結果を報告してくる。



「姿を隠し、夜の闇に紛れて村に潜入し調査したところ、エネストローサ家の馬車及び例の翼竜と巨馬は村の中央にある学校施設のような場所に停められていました」


「ふむ、続けよ」


「夜もかなり更けていたので真紅の魔剣士と辺境伯令嬢たちの姿は確認できませんでしたが、その施設で重大な報告に接したので夜の闇を駆けて戻った次第です!」



 暗殺対象である二人の姿を確認しておらぬだと……。


 やはり、現地協力者か人員をやりくりしてベテランを連れてくるべきであったか……。


 経験が足りなさすぎたようだ。



 若者からの内容の報告を受け、私は軽く落胆を覚えていた。


 とはいえ、それを彼に伝えれば今後にいい影響を与えないと思い、そのまま報告を続けさせる。



「フリックたちの所在確認より、重大な情報とはなんだ? もうしてみよ」 


「はい! あの孤児院を運営するのが、ジャイル様から入手した『超人計画』に協力したダントンとフィーリアの二人で、フリックたちと行動をともにしているシンツィアという魔術師と昔の話をしている場面に遭遇いたしました!」


「なっ! なんだとっ! 本当か!?」



 若者の口にした報告に驚き、思わず彼の肩を強く掴んでいた。



「は、はい。聞き間違いを防ぐため、こちらの録音媒体にしかと録音をしてきております。ご確認を!」


「うむ、すぐに確認させてもらう!」



 若者が差し出した小さな録音媒体を受け取ると、単眼鏡に模した情報端末に差し込むと再生させた。


 再生された音声に耳を澄まし、会話の内容をじっくりと吟味していく。


 再生された音声の内容は、こちらが驚くべき内容の話であった。



 禁忌とされた古代魔法文明期の機器を使い、魔物の因子を定着させた魔石や竜の血を使ってまで強力な人工の人類を造り出そうとした狂気の計画。


 その実験に参画していた三人の証言となれば、ジャイルも手を叩いて喜ぶことだろう。


 そして、その計画によって産み出された強化人類がフィーンこと真紅の魔剣士フリックと、剣聖アルフィーネ、無限の魔術師ノエリアの三人らしい。



「フフフ、フハハっ! よくやった! これはたしかに我らにとっても重大な情報だぞ! こっちの世界にも狂気に侵された者がいたようだ。フハハハっ!」



 私は溢れ出す感情を堪えきれずに大きな声で笑っていた。



 人が人工的に人を作るのも、人が人を作り変えるのも同じような狂気ではないかっ!


 私だけが狂気に侵されていたのではないのだ。


 こちらの世界も私と同じ狂人たちがいる世界だった。



 こちらの世界に渡り、すでに三〇年。


 同胞を救うためとはいえ、自らが引き起こした惨禍で心を蝕んでいたが、あの惨禍の中で自分と同じ狂気を持った者がこの地でもいたと知り、心の底から安堵していた。



 私だけが狂っているのではなかった……。


 なかったのだ。



「ヴィーゴ様、お声が大きいですが大丈夫でしょうか?」



 こちらの様子を窺っていた若者に言われ、自分が大きな声で笑いながら涙を流していたことに気づく。


 若者の言葉で冷静さを取り戻した私は、目元の涙を拭うと表情を引き締めた。


本日も更新を読んで頂きありがとうございます。


ヴィーゴ視点あと一話続きます。


明日もまた更新しますので、お待ちください。



二巻も発売まであと二週間ちょっととなりました。外出がしにくい状況になっている地域もありますので、本屋の通販サイトや電子書籍等でも予約などして頂けると幸いです。


二巻の特典SSにつきましては前もアナウンスさせてもらいましかと思いますが、電子書籍オンリーとなっております。各配信サイトで特典SS付きかご確認のうえ購入してください。


SSはノエリア視点のお話となっております。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 画像をクリックすると、剣聖の幼馴染コミカライズ板へアクセスできます ▼▼▼  
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51WA76oIjQS._SX338_BO1,204,203,200_.jpg
  ▲▲▲ 画像をクリックすると、画像をクリックすると、剣聖の幼馴染コミカライズ板へアクセスできます ▲▲▲  

  ▼▼▼ 画像をクリックすると、異世界最強の嫁コミカライズ板へアクセスできます ▼▼▼  
https://m.media-amazon.com/images/I/812rZfxSn4L._SL1500_.jpg
  ▲▲▲ 画像をクリックすると、画像をクリックすると、異世界最強の嫁コミカライズ板へアクセスできます ▲▲▲  

  ▼▼▼ 画像をクリックすると、スキル再生と破壊コミカライズ板へアクセスできます ▼▼▼  
https://m.media-amazon.com/images/I/91pD246mf2L._SL1500_.jpg
  ▲▲▲ 画像をクリックすると、画像をクリックすると、スキル再生と破壊コミカライズ板へアクセスできます ▲▲▲  
― 新着の感想 ―
光学迷彩の科学つおいな!四天王の3人、馬や翼竜、白金冒険者2人、諜報要因メイドどれにも気付かれずに経験の浅い若手くんでもしっかり隠し切るのね!もぅその迷彩さんアビスウォーカーさんに着させて邪魔者暗殺し…
[良い点] やっぱ類友は惹かれ合うよねー [気になる点] 下っ端に簡単に侵入されるとか、隙多いな。暗殺も簡単だね。 [一言] 都合よく重要な話する時は必ず聞かれるよね(^^;
[一言] 簡単に録音されてるアホだな
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ