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109:師匠と弟子

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 皮を剥がれたシンツィアは、自分の本体を動かして年少の子供たちを追いかけ始めており、孤児院の庭には中身のない鎧から逃げようと走り回る子供たちで溢れていた。



「シンツィア様、少し大人気ないのではありませんか?」


「いやいや、あの子たちには世の中には、触れてはいけないものがあると教えないとね。好奇心は命を失うって言うし」


「そう……なのですか!?」


「そうよ。ノエリアも気を付けなさいねー。気になって調べたらマズいことに突き当たって消されるなんてことは貴族の世界では当たり前にあるんだからねー」


「あ、はい。気を付けます」



 骨だけの鳥になったシンツィアは、ノエリアの肩に止まって本体を動かしていく。



「シンツィア、うちの子たちにへんなトラウマを与えんでくれるかね」


「そうね。これで何人かは夜中に一人でトイレに行けなくなることは確実よ」


「あたしの大事な皮を剥いだのが悪い」



 そんな話が聞こえてきたが、シンツィアは中身のない鎧を動かすのを止める気がなさそうだった。



「フィーン兄ちゃん、助けて! あの怖い鎧倒してよー!」


「ごわいよぉおおおおおー! うぇえええええええん!」


「きたぁああああっ!」



 泣き叫んで逃げ惑う子供たちが俺の後ろに集まってくる。



 そろそろ、やめさせないと本当に子どもたちが夜に一人でトイレに行けなくなりそうだ。


 でもまぁ、あれはシンツィアの本体だからあまり手荒には扱えないが……



 迫ってくる全身鎧を前にした俺は土に触れると魔法の詠唱を始めた。



「わが魔素(マナ)をまといて、人の姿となれ。傀儡人形(サモンゴーレム)



 触れていた土が魔素(マナ)を帯び、盛り上がると人の形をとっていた。


 作り出したゴーレムを使い、迫ってくるシンツィアの本体を抱き留めていく。



「すげぇええ! フィーン兄ちゃんの魔法初めて見た! かっこいい!」


「がんばえー! 鎧の魔物倒せー!」


「フィーン兄ちゃん、頑張って!」



 俺の後ろに隠れた年少の子供たちは、ゴーレムがシンツィアの鎧を受け止めたのを見て応援を始めてくれていた。



「フリック、師匠であるあたしと勝負する気かしら? 大事な皮を取られたのはあたしのほうなんだけど?」


「子供のしたことですし、いい加減大人気ないと思いました。なので、師匠であるシンツィア様には師匠らしくしてもらおうと思いました」


「ほほぅ、あたしに意見するとは。フリックも偉くなったものね。使役魔法の経験値はあたしの方が数十段勝ってるからね」



 俺のゴーレムと、シンツィアの鎧は手を組み合った状態で力比べを始めていた。



 こっちのゴーレムは押され気味か……。


 もっと魔力を注いでやらないと。



 力負けしている様子を見せていたゴーレムへ更に魔力を流入させて強化を図る。



「がんばえー! 負けないで!」


「フィーン兄ちゃんのゴーレム頑張れ! 骨の悪魔が作った鎧に負けるなー!」


「フハハハッ! かかったわねフリック! あんたの無駄に多い魔力がサモンゴーレムでは逆に悪影響を与えるものと知りなさい!」



 強化を図るため流入させた魔力に、土でできたゴーレムの身体が耐え切れず片腕が吹き飛んで消えていた。



 今まで以上の魔力を注いだら、片腕が吹き飛んだっ!?


 もしかしてゴーレムの素体になった素材の強度も関係するとか?



 片腕が吹き飛んだゴーレムは、シンツィアの鎧によって一気に押され、地面に片膝を突いていた。



「フフフ、さて勝負はついたようね。はやく後ろの子供たちを渡しなさい。そうすれば、弟子であるあんたは悪いようにはしないわ」



 ノエリアの肩を飛び立ったシンツィアが、俺の前を飛び回りながら子供たちを渡すようにと迫ってきた。


 その言葉を聞いた子供たちが俺の腰にしがみついてくる。



「フィーンにいぢゃん、いやだよぉおお」


「だずげでぇ、フィーン兄ちゃん」



 怯える子供たちの頭を撫でてやる。



「大丈夫、俺は負けないから。一体が強くできないなら、いっぱい作ればいいんだ――」



 俺は土に手を触れると、詠唱を始め一気に数十体のゴーレムを生成していく。


 次々に土から生み出されたゴーレムがシンツィアの鎧に飛びかかっていった。



「ちょ!? ちょっと!? 卑怯よ! 一対一で戦いなさいよー! 魔力に物を言わせて数で押すなんて卑怯よー!」



 生成された数十体にものぼる土のゴーレムに群がられ、地面に押し倒されたシンツィアの鎧は身動きがとれなくなっていた。



「勝ったぁ! フィーン兄ちゃんが勝ったよぉ!」


「勝ったぁ!」



 子供たちは身動きとれなくなった鎧を見て、安堵の表情を浮かべていく。



「でもまた暴れないように皮は返してやろうな。そうすれば、暴れないと思う」



 子供たちの中にシンツィアの皮を持っていた子を見つけた。



「はーい、ちゃんと返すー」


「ありがとう。シンツィア様、皮が返ってきましたよ。これで暴れないでくださいね」


「しょーがないわね。今日はこれくらいにしといてやらぁ」



 飛んでいたシンツィアは俺の肩に止まると、皮を被せろとの仕草をする。


 俺はシンツィアに皮を被せた。



 その後、子供たちは勉強の時間となり、ダントン院長とフィーリア先生が教室に連れて行き、時間が余った俺たちは村の様子を見て回ることにした。


本日も更新を読んで頂きありがとうございます。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今回の場合、最も悪いのは、悪いことをしたら叱らなければならない立場であるのに皮を剥ぐようけしかけた院長夫妻、次点で悪いのはそれを黙って見ていたフィーン達、その次に悪いのは子供達で、シン…
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