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sideシンツィア:過去の大罪

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 ※シンツィア視点



「あんたたちが、こんな場所に孤児院を開いていたとはね……。てっきり、王都でライナス師の助手を務めてるものだと思ってたけど」



 フリックたちを交えた孤児院での和気あいあいとした夕食を終え、皆が床に就いた深夜に院長室にダントンとフィーリアの二人を呼び出していた。



「貴方の方こそ……そんな身体になってたなんてね。使役魔法から派生させたそんな魔法を使ってるなんて驚きだわ」



 使い魔である骨の鳥ではなく、自らの魂を繋ぎとめた本体である鎧の身体で二人と相対しているため、フィーリアの言葉に棘を感じていた。



「なりたくてなった身体じゃないわ。大襲来の時、アビスウォーカー相手にインバハネスで大暴れしたら、こうなっただけよ。王都でのうのうとしていたあんたたちと違ってね」


「王都でのうのうとは言ってくれる。計画を途中で抜け放り出した君が、フィーリアとわたしのことを言える立場かね?」



 ダントンもあたしの言葉に気分を害したようで、表情を険しくしている。



 二〇年振りに二人にあったが、やっぱりあたしとこの二人との相性は最悪のようだ。


 ライナス師の下でフロリーナとともに魔法研究に励んだ弟子仲間ではあるけど、どうにも二人とは馬が合わなかった。



「あんなクソみたいな計画に参加して正気を保っていられる方がおかしいわよ。フロリーナもライナス師もあんたたちも狂ってたとしか言えないわ」


「わたしたちだって喜んで参加していたわけではない。あの大襲来が終息しない世界が続いた時、王国が滅びないよう対応できる人材を作り出そうと必死でやっていただけだ」


「ダントンの言う通りよ。英雄ロイドの大博打が当たって、大襲来が終息したのは僥倖でしかないわ。あれが失敗していれば、今も王国各地にアビスウォーカーが跋扈していたはずだもの」


「人の道に外れた計画のどこに正当性があると言うのかしらね?」



 師匠であるライナスと袂を分かつ原因となった魔法研究を思い出し、長く忘れようとしていた不快感がこみ上げてきた。



 二〇年前、突如始まったアビスウォーカーの大襲来によって、それまでの世界は一変し、多くの命が消え、大混乱の最中にその非人道的な計画が師匠であるライナスから提案された。


 人を超える人を作り出す『超人計画』だ。


 それまで禁忌とされ研究することすら禁じられた、古代魔法文明時代に存在した人工的に人を作り出す魔法により、魔物の因子を定着させた魔石や竜の血までも使い、通常の人類を超える身体能力や魔力量を与えられた強化人類とも言うべき存在を作り出す計画だった。



 その計画に参加したあたしは、師匠であるライナスの指導のもと、古代遺跡で発掘され魔法研究所に収蔵されていた魔法装置の使用法を書いた古文書を、ここにいる二人とフロリーナとともに心血を注ぎ解読していた。


 起動までに数ヵ月かかったけれど、ハートフォード王国を建国した英雄王の残した髪を使って、人工の人類の誕生に成功したのだ。



 けれど、あたしはそこで計画の存在意義に疑問を感じ、師匠であったライナスと計画を巡って意見が対立し、その後計画を抜けると王都を去って、アビスウォーカーによって酷い被害が出ていると聞いたインバハネスの地に向かった。


 それ以来、あの計画がどうなったのか、調べる勇気が出ずに今日まで至っていたのだ。



「鎧に魂を定着させてまで生き永らえている君には言われたくない。その魔法もあの計画に参加して得た知識と経験から完成した魔法だろう?」



 ダントンの厳しい視線が、中身のないあたしの身体に注がれる。



 たしかにダントンの言った通り、アビスウォーカーとの戦いで死にかけた時に編み出した死霊魔法は、元々はあの計画において得た知見をもとにしていた。


 死にゆく中で使用するのに葛藤があったが、あの時のあたしは生きて一体でも多くのアビスウォーカーを倒したかったのだ。



「あたしは不純な気持ちでこの魔法を編み出したわけじゃないわ。自分の手でアビスウォーカーを全て倒す。ただ、それだけを願っただけ」


「私もダントンもライナス師も方向性は貴方と違ったけど同じ気持ちだった。だから、ライナス師の提案したあの超人計画に賛同し、手を貸していたのだもの」


「…………」



 フィーリアとダントンの眼に超人計画へ参加した迷いは感じられなかった。



 やっぱり、この二人とは馬が合わないわね……。


 人が人を超える存在を作り出すことに対し、なんら疑問を感じてはいなさそうだし。


 少なくともフロリーナは計画に参加することを迷っていた。そして、自分の子の未来を作り出すため散っていったのにね。



「表情が見えないのが、その身体の不便なところであるけど、便利なところでもあるね。身体があったらさぞわたしたちを軽蔑した眼で見てるのが想像できるよ」



 ダントンの一言に感情的になりかけたが、グっと堪えて気になっていた本題を切り出すことにした。



「昔話はここまでにして、今の話をするわ。単刀直入に聞くけど、フリックとアルフィーネは超人計画によって作られた子なの? あたしが計画から抜けた時は培養槽に浮かぶ胎児で名もなかったけど?」



 こちらが投じた質問に二人の顔色が変化していく。



「そんな話を君が知ってどうする気だい? 彼らにそれを伝える気かね? 彼らは大襲来で親を失った孤児で、このリスバーンの村にある孤児院で育った普通の子である必要があるのだよ……。その理由は賢い君なら理解できるだろう?」



 ダントンは顔をしかめながら絞り出すような声をしていた。



「ダントンの言った通りよ。貴方がどう思おうが勝手だけど、昔の話を蒸し返して暴露する気なら、昔馴染みとはいえこの場で始末させてもらうわ。私たちは彼らの親だもの、子供の出生の秘密は命を賭して守るつもりよ」



 フィーリアはローブの下に忍ばせていた短杖をこちらに向けている。



「それが、あんたたちの答えってことね。フリックのとんでもない魔力量や剣技、あの歳で剣聖と認められるほどのアルフィーネの身体能力、普通に考えれば人間離れしたものだものね。あの超人計画によって産み出された子だとすれば、あの能力にも納得できるわ」


「それ以上はその軽い口を開かない方がいいと思うが?」


「確認よ。確認。フリックはあたしの弟子でもあるんだからね。弟子の出生の秘密は師匠として知っておきたいからね。自分の過去の大罪に触れるからこのことをあんたたち以外、誰にも喋る気はないから安心してよね。もちろん、フリックもアルフィーネにも言う気はないわ。あたしは計画を投げ出して逃げたからね」



 こちらに超人計画を暴露する意志がないと見ると、敵意を見せていた二人の顔が和らぐのが見てとれた。



「そうしてもらえると助かる。あの計画自体、英雄ロイドのおかげでなかったことにされて、当時のことを知る者は亡くなったフロリーナ様以外だと、わたしたち含め四人しかいないのだからな。世の中が安寧におさまっている時代に掘り返す必要はないということだ」


「フィーン君……いや、今はフリック君だったわね。それにアルフィーネも、フロリーナ様の子であるノエリア様まで……。あの計画に関わった子供たちがこの地に集うとは……」



 ふと、フィーリアがこぼした言葉がなぜか引っ掛かった。



 フロリーナの娘のノエリアは、英雄ロイドとの間に産まれた普通の子供のはずだけど。


 フィーリアの言い方が気になるわね。



 あたしは自分が逃げ出した計画の顛末を知るべきだという気持ちが湧き上がってきていた。



「フィーリア、ノエリアももしかして……」


「……貴方が計画を投げ出して逃げた後の話になるけどね。貴方も同罪だから、苦しめるために全て伝えておくわ。ノエリアはフリック君とアルフィーネとは違い、計画の中で蓄積された技術によって派生した魔法によって、自然出産で産まれてから、強化された子供よ。フリック君やアルフィーネと比べると若干能力は劣るけどそれでも人と比べると優れた能力を示しているわね」


「普通に産まれた子を強化したの? そんなことをフロリーナが認めたの!?」



 自分の全く知らない話を聞かされて、情報が混乱し頭が痛くなる。 



「私が言うのもなんだけども、あの時のフロリーナも冷静に見えて狂っていたのかもしれないわね。アビスウォーカーと戦い続けたロイドを死なせたくない一身で我が子すら……。でも、最後に突入部隊に参加した時は正気に戻ってたと思いたいけど、今となっては知るすべはないわ」



 自分の知らないフロリーナの一面を見せられたショックは思いのほか強かった。



 計画の犠牲者はフリックやアルフィーネだけかと思ったけど、ノエリアまでもがあの狂った計画に翻弄されていたなんて……。


 こんな話を絶対に外に漏らすわけにはいかないわね……。


 絶対に守らないと……。



 二人に会って自らの犯した罪の重さを改めて認識させられたことで、あたしは運命の残酷さを感じていた。



「ちなみに、ライナス師にはフィーン君とアルフィーネのことは伝えてない。大襲来終息後、即座に放棄された計画でもあるし、師匠の立場を守るためにも計画によって作られた人工の強化人類は処分したことになっている。だからこそ、フィーン君やアルフィーネはわたしたちの子であり、大襲来で親を亡くした孤児でなければならないのだよ」


「私たちはロイド突入部隊が大襲来の発生源であるアビスフォールにあった施設を破壊したという報告に接したところで、産まれたての赤子だった二人を連れ、大襲来で多くの村人を失った陸の孤島とも言えるこの地に孤児院を立て、村人の子と偽り彼らを孤児として育ててきたわ」


「そんなことになってたのね……」



 二人は計画の落とし子となったフリックとアルフィーネを普通の子として育ててきたのね。 


 あの時、あたしがあの狂った計画に残ったとしても同じことをしていたかもしれない。



 馬が合わない二人ではあるが、フリックとアルフィーネにとっては育ての親であることに変わりはなく、自分の中にも計画から逃げ出した後ろめたさもあり、それ以上二人を責める気は起きないでいた。



「シンツィア、この話はこれで終わりだ。前途ある三人の若者をわたしたち大人がこれ以上苦しめる必要もないだろう」


「そうね。ダントン、フィーリア、二人を今まで育ててくれてありがとうとだけ言わせてもらうわ。これからはあたしもあの子たちのことをしっかりと見守るから」


「頼む」


「頼んだわ」



 ダントンとフィーリアが鎧の身体となったあたしの手を握って頭を下げていた。



「それにしても、色々と話を聞いて三人が普通に年頃の恋愛をしてくれてると思うと嬉しくて涙が――」


「いささか込み入っちゃってる気はするけど、若い時はそういった経験は必要よね。私としてはフィーン君が甲斐性を見せて二人とも娶るのもありかなと思うけど」


「あのへっぽこフリックにそこまでの甲斐性があるかしらねー。案外どっちからも逃げるかも」


「いやいや、わたしの息子のフィーン君がそんな不義理をするわけが――」



 それからの時間は若い三人の恋愛事情を肴にして、夜が明けるまで語り合うこととなった。


フリックとアルフィーネとノエリアの過去が明かされました。


ライナス師はフィーンとアルフィーネが計画によって産まれた子と知らないことになってますが、両者とも飛びぬけた実力を見せているので薄っすらと出生のことを感付いているかもしれません。


という感じで、王都編もこれから一気に物語が加速していく予定ですので、更新をお待ちください。土日は平日分のまとめ読みをされる方のため更新は止めさせてもらいますが、また来週月曜日からは平日毎日更新を予定しております。


そして、書籍版2巻のラフ画公開はようやくキャラ絵がついたアルフィーネsideの暴走機関車メイラ姉さんとなっております/)`;ω;´)WEB版では暴れん坊将軍ですが、書籍版では頼れる(?)姐さんになってくれるはず。


挿絵(By みてみん)



あと、お知らせついでに2巻の特典SSは店舗特典ごとのはなく、電子書籍(kindle等)購入者のみに配布される予定らしいので、各電子書籍配信サイトにご確認の上特典SS付きの電子書籍をご購入くださいますようよろしくお願いします。


関東圏では非常事態宣言も出されましたので、電子書籍や書店通販等事前予約をして頂けると速やかに入手しやすいかと思います。


色々とお知らせがありましたが、また月曜日の更新までしばしお待ちくださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] あー、この情報を出すためにここに来たのかー。無駄な道中かと思ったがそういうことか! 安直だが府には落ちた
[良い点] 出生の秘密ディープすぎて笑った 一歩間違えれば正義の主人公じゃなくて人類の敵扱いされるほどのポテンシャルやんけ… メイラ姉さんの可愛さに癒されるわ
[一言] でも、ジャイルに掘り返されたんだよね……どうなるやら……
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