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101:アルフィーネの行方

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 ノエリアとともに貴族街にあるエネストローサ家の邸宅を出ると、俺は通い慣れた道をたどって下町にある王都の冒険者ギルドに来ていた。


 王都の冒険者ギルドが掲げる意匠は鷲が羽ばたく形をしている。



 鷲はハートフォード王国の初代王が好んだ動物で、王都では神聖視され、王家の紋章にも採用されている動物だった。



「さすが、王都の冒険者ギルド。建物もユグハノーツのギルドより大きくて立派ですね。王都には辺境伯令嬢としてか、王国魔法研究員としての成果報告でしか訪れたことがなかったので。こちらの冒険者ギルドは初めて来ました」



 ユグハノーツで白金等級の冒険者だったノエリアも、王都では依頼を受けたことがなかったらしく、冒険者ギルドの建物を見て感心していたようだ。


 この場所は剣士フィーンとして、五年間ずっと通い続けた場所だった。



「俺には見慣れた場所さ」


「いえ、フリック様も初めてですよ」



 エネストローサ家の邸宅を出る前、アルフィーネの情報収集をする際は剣士フィーンとしてではなく、ユグハノーツの冒険者フリックとして行うことを彼女から頼まれていた。


 剣士フィーンとして王都で情報収集をすると、逃亡したらしいアルフィーネの行方を捜しているラドクリフ家に目を付けられる可能性があったからだ。



「そう言えば、そうだった。魔剣士フリックとしては初めての来訪だった」


「はい、そうですよ。フリック様からアルフィーネ様の行方を知ってそうな人を教えてもらえれば、後はわたくしがその方に話を聞きにまいりますので」


「すまない。ノエリアには迷惑をかける」


「フリック様、謝るのはなしですよ」



 謝ろうとする俺を真剣な表情で制したノエリアは、こちらの手を取ると冒険者ギルドの中に入っていった。




 夕暮れが迫る冒険者ギルドの中は、依頼を終え換金によって懐が温まった冒険者たちが、今日の稼ぎを元手に待合室で酒盛りをする喧騒に包まれていた。


 依頼を終えて戻った冒険者たちは、夕食も兼て待合室の食堂が提供してる格安のエールやワインを酒のつまみともに食べる人が多い。


 その中にはここで腹ごしらえして、日暮れとともに歓楽街に繰り出す者もいる。 


 そのため、夕暮れのこの時間帯は朝の受注のラッシュ時と同じく、冒険者たちが多く滞在をしていた。



「ユグハノーツも冒険者は多かったですが、王都はそれ以上の規模ですね」


「ああ、人だけは多い」



 近郊の農村で食い詰めた若者が王都で一山当てようと出てきて、技術も知識もないまま誰でもなれる駆け出し冒険者として登録し、食えずに生活に困窮したり、依頼先で魔物に倒され骸を野に晒すことも珍しくないことだ。


 俺もアルフィーネも一五歳で成人を迎え、村の孤児院を巣立ち、そういった若者たちと同じようなことを考え、王都に出て冒険者になっていた。


 幸いアルフィーネも俺も剣の才能があったため、魔物討伐専門のハンターとして頭角を現すことができて、多くの駆け出し冒険者がたどる末路に踏み込まずに済んだ。



 久し振りに訪れた王都の冒険者ギルドの雰囲気を懐かしんでいると、待合室で酒盛りをしている冒険者の中に見知った顔があった。



「ノエリア、あそこにいる茶髪に黒い革鎧を着てる若い女冒険者だけど――」



 俺が指差す先にいたのは、サーチャーをしてるソフィーだ。


 彼女は駆け出し時代から俺たちと顔なじみで、他の冒険者との交流がほとんどなかったアルフィーネが気軽に話しかけてた子だった。



 アルフィーネが剣聖と呼ばれ貴族になってからは、ソフィーが遠慮したようで話しかけてくることも少なくなってたけど。


 ジャイルに追われてるアルフィーネが、彼女を頼っている可能性はあるよな。



「あの方ですか?」


「ああ、人の好き嫌いが激しかったアルフィーネが気を許した子なんだ」


「では、わたくしが聞いてまいりましょう」


「俺も一緒に行くよ。外套を目深に被ってたら、容姿も変わってるから向こうも俺だと気づかないだろうし」



 そう言うと俺は、外套を目深に被り顔がよく見えないようにした。


 その様子を見たノエリアが静かに頷くと、酒を飲みながら冒険者仲間と談笑しているソフィーのもとへ、俺とともに歩み寄っていた。



「すみません、貴方は銀等級の冒険者でサーチャーのソフィー様で間違いないでしょうか?」



 酒盛りをしているソフィーへノエリアが丁寧な問いかけをする。



「ん? あんた誰? ここらじゃ見ない顔だけど――」



 ソフィーの視線がノエリアの着けている冒険者徽章に注がれていく。



「ドラゴンの意匠!? しかも白金!? その若さで!?」



 ノエリアの徽章を見たソフィーの眼が驚きで見開かれていくのが見えた。



 やっぱ普通そう思うよな。


 冒険者の最高峰である白金等級に、ノエリアみたいな若くて華奢な女の子がなれるとは思わないだろうし。



「名乗り忘れておりました。わたくし、ノエリア・エネストローサと申します」


「エネストローサ……ユグハノーツ辺境伯家。若い魔術師で白金等級冒険者……。っ!? 『無限の魔術師』ノエリア・エネストローサ! 英雄の娘!? は、初めて見た」



 ソフィーが漏らした言葉に周りにいた冒険者たちの視線がノエリアに集まっていた。



「辺境伯の令嬢がなんで王都の冒険者ギルドにいるんだよっ!」


「知るかよ。なんか用事なんだろ」


「あの英雄ロイドの娘って言うから、もっとゴツイ女かと思ってたけど。ちょー可愛いじゃねぇか」


「馬鹿かお前。あの可愛い顔をして、魔物討伐専門のハンターで白金等級にまで達してる大魔術師だぞ。なんでも、魔力測定用の水晶玉割ったとか、魔力合わせで魔術師を何人も再起不能にしたって噂があるんだ」


「再起不能って……」


「何年も研鑽して高めた魔力量をあんな若い魔術師が容易に超えてきたら、そりゃあ魔法を使う者としては心が折れても仕方あるまい。魔術師は基本プライドに生きてる人種だからのぅ」



 周囲の冒険者たちが色々とノエリアの噂を口にしているのが聞こえてくる。


 そんな外野の声をノエリアは気に留めた様子を見せず、驚いているソフィーにもう一度名を聞いていた。



「もう一度お尋ねしますが、ソフィー様で間違いないでしょうか?」


「え、ええ。そうだけど」


「よろしかったら、上の個室で食事しがてらご依頼をしたいのですが。お時間ありますか?」



 ニコリと笑ったノエリアが邪魔の入らない場所で話をしたいとソフィーに申し出ていた。



 たしかにこれだけの注目を浴びたまま、アルフィーネのことは聞きにくいよな。


 二階の個室なら本人に口止めしておけば、俺たちがアルフィーネを探しているという情報が外に漏れることも少なくなる。


 ジャイルもアルフィーネ捜索には動いているみたいだし、慎重にやらないと。



「エネストローサ家からわたしに依頼をしたいと?」


「ええ、個人的な依頼なのでソフィー様だけとお話をさせてほしいのですが」



 ソフィーの仲間たちが、ノエリアの申し出を聞いてがっくりと項垂れていくのが見えた。



 貴族からの指名依頼となれば、銀等級の彼らとしては大きな金額を手に入れられる好機だと考えたんだろう。


 その落胆する気持ちは理解できるぞ。



「個人の指名依頼ですか……。まぁ、お受けするか分かりませんが話だけは聞かせてもらいましょうか」



 落胆する仲間を見て、ソフィーも困った顔をしているが、いちおう個室での話し合いには応じてくれていた。



「承知しました。では、今から上の個室を借り受けてきますので少しお待ちを」



 それからギルドの窓口に行き、エネストローサ家の名を出して既定の金額を払い、二階の個室を借り受けるとソフィーを伴って移動した。



 二階にある個室は、四人掛けのテーブルと椅子があるだけで大人が数人入ると狭く感じるくらいの大きさだが、その分壁も扉も厚く作られており、色々と公に出来ない依頼の商談や冒険者同士の密談にも使われている。


 ノエリアがソフィーと対面で座ると、俺は乱入者が入ってこないよう入口の扉の前に立った。



「それで、早速だけどエネストローサ家からの依頼ってのはなに? 最近、ずっと落ち込んでて依頼も受けずに今日も憂さ晴らしで飲んでただけだから金欠なのよね」



 明るく快活で、言葉の鋭いアルフィーネの言動もどこ吹く風とずっと受け流していた彼女だったが、今はとても疲れたような表情をしていた。



「実は、指名依頼という話は嘘でして。本当は剣聖アルフィーネ様の消息をソフィー様が知っておられないか聞きたくて個室に呼び出したのです。ご不快に思われましたらご容赦ください」



 ノエリアの言葉を聞いたソフィーの顔色に怒りの色が浮かぶのが見えた。



「アルフィーネの消息のことを知りたいですって? 辺境伯の令嬢はそんなことも知らないのかしら!」



 怒りを見せたソフィーは、手にしてたコップを机に叩きつけていた。



「貴族街へ通じる城門の前で吊るされているでしょ! あんな無残な姿にされて晒されるほど悪い子じゃなかったのに! アルフィーネもフィーンがいれば、あんな馬鹿なことを絶対にしなかったわよっ!」



 ソフィーの放った言葉が、俺の胸に突き刺さる。


 生存している可能性が高いとはいえ、俺がアルフィーネのことを放りだしたことに違いはなかったのだ。



「いえ、我が家が探しているのは、あの吊るされているアルフィーネ様ではなく『本物』のアルフィーネ様です。ソフィー様が親しくされていたととある筋から聞きまして、彼女の消息を知っておられるのではと思い聞きにきた次第です」


「『本物』? あの吊るされているのは偽者だと?」


「はい、我がエネストローサ家はそう見ております。剣聖アルフィーネ様は生存してどこかにおられると思い、行方を探しているのです。剣聖アルフィーネ様は、我が父ロイドが常々騎士団の剣術指南役に迎えたいと切望しており、伝え聞いた話から今回の件に疑問を抱き、娘であるわたくしを派遣して調査をしているのです」



 ノエリアがアルフィーネの捜索をしている理由を滞りなくすらすらと喋っていくが、ほとんどが作り話だ。


 しかし、ノエリアが言うことで作り話は真実味を増して、本当にそんな調査を依頼されている気がしてきていた。


 おかげでソフィーもすっかりノエリアの話を信じ込んでいる様子だった。



「やっぱり……あのアルフィーネが病気していたとはいえ、ジャイル如きを仕損じるなんてあり得ないって思ってた。それにラドクリフ家が黒髪の若い女を探してたっていう噂も気になってたしね」



 ソフィーの中でイメージするアルフィーネは、近衛騎士団長を確実に仕留めてるのか。


 まぁ、アルフィーネがキレて本気を出してたら、技量最低と言われたジャイルが軽傷で無事に生きてるのが不思議だしな。


 大貴族であるラドクリフ家だし、腕利きの護衛を雇っていたのかもしれない。



 ソフィーが自分の言葉を信じてくれたと見たノエリアは、彼女の手を取ると顔を寄せていく。



「ソフィー様、もう一度お聞きします。本当にアルフィーネ様のご消息は知りませんでしょうか?」


「知ってたら、すぐにあの子を王都から逃がしてたわよ。けど、あの子はわたしを頼らなかった。きっとわたしが貴族になったあの子に遠慮して距離を取ってたのを敏感に感じてたんだと思う」



 顔をしかめたソフィーの後悔なのか、眼から涙の雫が零れ落ちていた。


 なおもノエリアは真実を追求するように言葉を紡いでいく。



「本当に本当ですか? 匿っていたりしていませんか?」


「してないわ。最後に会ったのはフィーンが姿を消す直前。珍しく冒険者ギルドに顔を出してわたしに相談したいことがあるとか言ってたけど、依頼があるからってごめんって断ったのが最後よ。それからは漏れ聞こえてくる噂しか知らなかったし。あの時わたしがちゃんと聞いてあげてれば――」



 ソフィーの眼から零れ落ちる涙の量が増えていた。



 貴族になったあとのアルフィーネは孤独だったんだ……。


 元々多くの人と交わることはしなかったけど、友達がいなかったわけじゃない。


 でも、身分が変わったことでみんなが距離を置いたことを敏感に察して、自分も距離を取っていった。


 口は悪いけど、無駄にそういった細かいことには気が回るんだよな。


 アルフィーネのやつ。



「承知しました。ソフィー様のお言葉に嘘はなさそうです。安心してください、アルフィーネ様はきっとどこかで生きておられます。わたくしたちが必ず探し出しますので、見つかった時はすぐにご連絡いたしますね」


「は、はい。あの子が見つかったら絶対にごめんねって謝りたいからお願いします!」



 号泣したソフィーの頭をノエリアが優しく撫でていた。



 しかし、ソフィーのところにも顔を出さなかったとなると、あとはアルフィーネが協力を頼みに立ち寄りそうなのは……。


 鍛冶師のニコライのところくらいか。

本日も更新読んで頂きありがとうございます。


年末辺りには書籍化作業から解放されそうなので、年末年始の更新頻度をもう少し上げようかなと思いますのでお待ちください。


ではまた来週の更新までお待ちください。



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― 新着の感想 ―
[一言] 馬鹿か? どうでもいいことに時間割いて、自分たちの足跡やらてがかりのこすとかありえないアホさだわ 早く襲撃しろよー
[気になる点] 俺もアルフイーネも一五ってなってます 正しくは十五っすよね間違ってたらすいません
[一言] さすがにもう二人会って話する流れにしようよ。さすがにそろそろ引き延ばしすぎな気がしてきた。 それとも二人が会うのは最終回あたり? それならまだわかるけど?
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