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sideアルフィーネ:ユグハノーツ帰還

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 ※アルフィーネ視点



「娘ノエリアから仔細は聞いておる。この場所は我がエネストローサ家の私有する土地で騎士団の使う馬の牧場の一部でもある。人目には触れぬ場所であるので遠慮なくここに集落を作りできれば馬たちの世話をしてもらえるとありがたい。給金はしっかりと支払う。それに足りぬものがあれば遠慮なく護衛の騎士団員に申し付けよ」



 インバハネスのデボン村から、マリベルの父親であるマルコと鉱山から逃げてきた獣人たちを連れ、あたしたちはユグハノーツに帰還していた。


 そして、今、屋敷の裏にある古い騎士団の宿舎の前で辺境伯ロイドとの対面を果たしていた。



 この土地が私有地……。


 辺境伯は大貴族だって聞いてたけど、小高い丘の上にある屋敷の裏手にこんな大きな牧場を作ってるなんて。


 こんな巨大な牧場を個人所有してるなんて、辺境伯が王都で戦争狂って言われてたのも頷けるかも。



 かなりの広さを誇る牧場の姿にあたしは目を奪われ、立ちすくんでいた。


 あたしと同じように連れてこられたマルコを始め、獣人たちは口を開いて呆けた様子を見せている。



「実はアビスフォールの戦いで我が騎士団も被害が酷くてな。今までは騎士たちが馬の世話までやっていたのだが、人手が足りず困っておったところなのだ」



 鉱山から逃げ出してきた獣人たちは総勢で一〇〇名ほど。


 半数は鉱夫として働いていた獣人で、もう半分はその家族であった。



「ここに住んでよろしいので……それに仕事まで……」



 マルコは厩舎に併設された宿舎を見て、更に驚いた顔をしていた。


 最近まで使われていたらしい宿舎だが、掃除が行き届いており、住むのに不便さは感じられないように見えた。



「ああ、ここに居た者たちは新しい方の宿舎に移動してしまったからな。好きに使ってもらってよいぞ」



 辺境伯ロイドの言葉を聞いた獣人たちがざわざわと騒ぎ始めていた。



 あたしたちも護衛すると言って、ここに宿を取った方がいいかも。


 安宿よりも綺麗だし、それに湯浴みの施設もあるみたい。



「あ、あの。私たちもこの宿舎を使ってもいいでしょうか? ほら、私たちも色々と知ってしまいましたし。街の宿に泊まるにはちょっと……」



 あたしの思考を読んだかのようなメイラの申し出に、辺境伯ロイドはもちろんと言いたげに頷いていた。



「そなたたちも使うがよい。いちおう、街にうろついていた近衛騎士団の連中は、全員我が家の有能なる召使いたちがあぶり出してジャイルの下へ『これ以上、我が領内でコソコソ動き回ればその首もらい受ける』と伝言付きで送り返しておる」



 そう言ったロイドの顔からは本気さがうかがえた。



 王国最強とも言われる騎士団を持つロイドを敵に回すほど、お坊ちゃんのジャイルも馬鹿じゃないはずよね。


 これで街でフィーンの情報を集めるのを再開しても大丈夫そうな気がする。



「ご配慮くださりありがとうございます。お言葉に甘えさせてもらい、ボクたちも探し人が見つかるまでここに居を定めさせてもらうことにします」



 アビスウォーカーの件に近衛騎士団が関わっているとなると、追い払ったとはいえ追手に対して安心できないものね。


 色々と秘密をしってるこの集団を生かしておくとジャイルの奴もこまるだろうし。


 特にマリベルとマルコたちはあたしたちと同じく色々と知りすぎている。



 あたしの視線の先に新しい住まいを前にして喜んでいるマリベルとマルコがいた。


 人に甘えずになんでも自分でやっていたあのマリベルが、デボン村からの帰りの道中、父親のマルコにだけは甘えるのを我慢せずにいたのだ。



 やっぱり、普通の親子ってああいう感じなんだ。


 なんか不思議な感じ。


 孤児院の院長先生たちとはまた違うみたい。



 素の自分を見せられる安心感という意味なら、ずっと一緒に育ったフィーンがあたしのお父さんだったのかも。

 

 わがままでずぼらで料理下手なあたしを唯一知ってる異性。


 その居心地の良さに甘え、その関係性のままずっと突き進んでしまった。


 それが彼の負担だったことも気付かずに。


 与えてもらうだけのままで、こちらからはなんら返さず、お金や装備を渡して返したつもりでいただけだった。



 フィーンに捨てられ、剣聖と貴族の地位とアルフィーネの名も捨て、ただの冒険者アルとなったことで自分とフィーンの関係性がものすごくおかしなことだと気づくことができていた。


 あのままでいたらすごく子供っぽいまま、一生フィーンに寄りかかって自立のできない生活を送ってただろう。


 

「おおぉ、そうだった。こたびのアルたちの働きに対する褒賞はまだあるぞ。マリベルとマルコも今後のことを話し合いをするから屋敷に来るがよい」



 マルコとマリベルの父娘を見て、フィーンとのことを思い出していると、辺境伯ロイドに声をかけられて我に返った。



「褒賞ですか? ボクはそんなつもりでお手伝いしたつもりは……」


「遠慮はするな。それに君にとっては大事な褒賞になると思うぞ。残る者たちは宿舎の掃除や部屋割りを頼む」



 それだけ言うと、辺境伯ロイドが意味深な笑みを浮かべ屋敷の方へ戻っていった。



「アル、辺境伯様からの重大な報酬ってなんだろうね? もしかして貴族に取り立て……」


「いや、そんな話ならボクにとっては重大でもなんでもないよ。それは辺境伯様も知ってるだろうし。だからもっと違う褒賞だと思うけど……」


「アルお兄ちゃん、メイラお姉ちゃん、とりあえずお屋敷に行ってみるしかないよ。父様も呼ばれてるし、ある程度の事情を知ってる人にしか聞かせたくない内緒の話かもよ」



 内緒の話か……。


 人目の少ない場所を変えたいってことか。


 悪い人ではないし、それにあたしに関わる重大な褒賞ってのが気になる。


 行くしかないか。



「マリベルの言う通りかもね。それにここまでしてくれた辺境伯様の招待を断るのも失礼に当たるだろうし」


「なら、すぐに行こう!」



 メイラがあたしの手を取ると先に辺境伯が戻って行った屋敷に向かって駆け出す。


 そんなあたしたちの後をマリベルやマルコも追い駆けてきた。

アルフィーネの方も色々と動き始める感じになるかと。





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― 新着の感想 ―
[気になる点]  武闘派で知られる辺境伯が中央からの密偵を堂々と送り返したら「伯は戦争の準備を怠らないようだが、探られて困る事でもあるのでは。もしや翻意が…」みたいな痛くない腹を探られる事にならないか…
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