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【書籍完結&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく当たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)  作者: シンギョウ ガク
獣人都市インバハネス編

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sideアルフィーネ:新たな依頼

誤字脱字ありましたら誤字報告へ

 ※アルフィーネ視点

 


 辺境伯ロイド様の令嬢であるノエリアは、手入れの行き届いた銀色の髪や印象的なアイスブルーの瞳からもたらされる容姿端麗な容姿はもちろんのこと、貴族としての優雅な仕草の中に儚さを内包させ、女性のあたしでも守ってあげたくなる雰囲気を纏っている女性だった。


 街の噂では、元々魔法研究一筋で口数が少なく、ずっと一人で冒険者生活をしてきたらしいが、最近になってユグハノーツに流れてきた真紅の魔剣士フリックとコンビを組んでからは、その印象がガラリと変わったと聞いていた。



 がさつで剣一筋に生きてきたあたしとは全く違う人種に感じられる。


 でも、きっと彼女も好きな人のことを想って苦しさを感じているのには間違いなさそう。


 きっと彼女もフリックっていう人を好きでしょうがないんだろうな。


 色々と問題があって、それを乗り越えられない自分にもどかしさを感じて苦しんでるみたいだし。



 ノエリアがチラリと見せた涙に、自分と同じような苦しさを感じたあたしは、自分のできる範囲での応援をしようと決めていた。


 それが、フィーン捜索に助力を申し出てくれた彼女への、自分ができるささやかな恩返しだと思えた。



 ノエリアの恋を応援しようと決め、彼女と握手を交わしていたところに、村の代表者らしい獣人の男が駆け込んできていた。



「ユージン殿、この方たちと内密の話をすると申し上げたはず。内容を知ればユージン殿にも危害が及ぶかもしれないので、家には近寄られませんようにと事前に申し上げていたではありませんか」



 ノエリアは少し厳しい口調で駆け込んできたユージンという獣人の男を叱責した。



「も、申し訳ありません。ですが、緊急事態でして、わしでは判断しかねたので、ノエリア様のご判断を仰ごうと思った次第」


「緊急事態……?」


「は、はい! フリック殿の馬に乗せられたマルコ殿と一緒に、鉱山に行っていた村の連中が戻ってきました!」


「フリック様は?」



 ノエリアの問いかけにユージンが首を振る。



「アル様、少し問題が発生しました。この場にて少しお待ちください。スザーナ、皆さまのお相手をお願いいたします」


「承知しました」



 スッと顔色を変えたノエリアが、専属メイドのスザーナにあたしたちの応対を任せると、すぐさま部屋を出ていこうとしていた。



「父様!?」



 村に内通者がいないとも限らないため顔を隠し、あたしたちの話し合いに同席していたマリベルが急に席から立ちあがると、ノエリアより先に部屋を飛び出していった。



「マリベル!」


「マリベルちゃん!」



 あたしたちは飛び出したマリベルを追い、ノエリアとユージンたちと共に、村の広場に向かい駆けだしていた。




「父様! 父様! 起きて! 父様!」



 マリベルが、黒い身体に赤いたてがみを持つ巨大な馬の鞍に縛り付けられた獣人の男に取り縋って叫んでいた。


 あたしは叫んでいるマリベルを男から引きはがす。



「マリベル、落ち着いて。この人がお父さんなの?」


「う、うん! 父様! 傷だらけだけど、父様に間違いないよ。アルお兄ちゃん!」


「マルコ殿の娘……って、お主はマリベルか! 大きくなったなぁ!」



 顔を覆っていた布が取れたマリベルの顔を見て、ユージンが懐かしそうな顔をしているのが見えた。



「マルコ殿は娘が殺されたと言っていたはずでしたが……。そう言えば、わたくしがその娘さんの名前を聞く前に飛び出していかれてしまいました。その娘さんがそこにいるマリベル様ということですか?」

 

「そうです。どうやらすれ違いと勘違いがあったようですね」



 マリベルとマルコさんの顔を互いに見て、ノエリアとスザーナが納得したように頷いていた。



「でも、なんで縛り付けられてるのかしら? って、これ手紙かしら」



 マリベルの父であるマルコの身体を縛り付けていた縄を解きながら、メイラが彼の背中に貼り付けられた手紙を発見してこちらに見せてきていた。



 メイラってば手ばっかり早いんだから。


 また、勝手に触ったりすると怒られることになると思うんだけど。



「メイラ様、手紙を拝見してもよろしいでしょうか?」


「あ、はい。どうぞ」



 メイラが手にしていた手紙を受け取ったノエリアが内容に目を走らせていく。


 そして、おもむろに魔法の詠唱を始めた。



「う、うぅ……フリック殿、娘の仇を……」



 マルコは魔法で眠らされていたようで、朦朧としながらも目を覚まし始めていた。


 その様子を見ていたマリベルがあたしの手から逃れて父親に抱き着いた。



「父様、父様!」


「うぅ、うぅ、マリベル……マリベル!? ああ、私は死んだのだな……。やっと会えた……。すまなかった、マリベル。お前を巻き込んでしまって……」



 朦朧としているマルコさんは自分がすでに死んだものと勘違いしている様子だった。



「父様、マリベルは死んでない!」



 朦朧としている父親の頬を娘のマリベルは何度もビンタする。



「うぅう……痛い……。マリベル、マリベル!!」


「父様、やっと……起きた! ずっと死んじゃったと思ってたんだから……うぅうう、うわぁあああん」



 マリベルは大粒の涙を流しながら、顔をべしょべしょに濡らし、父親に抱き着いて泣いた。



「マリベル、マリベルぅ! あの施設にいた獣人は全部殺されたと思ってた……まさか、生き残っていてくれたとは」


「アルお兄ちゃんとメイラお姉ちゃんが助けにきてくれたんだよっ! 二人が助けてくれなかったらマリベルはあのままあそこで死んでたと思う」


「そ、そうか……私が連中の様子に不安を感じて、隠れていろと言ったのを律儀に守っていたのか……」



 馬から降りたマルコはあたしたちの姿を見ると、深々と頭を下げてきた。


 親子の再会に沸くなかで黒い巨馬がいななくと、その背後についてきていた獣人の集団から進み出た一人の男がこちらに話かけてきた。



「お取り込み中のところ申し訳ありませんが、鉱山の方がとんでもないことになってまして……。マルコ殿を助けにきたフリック殿が、シンツィア様と一緒に本格的な戦闘を始めまして、アビスウォーカーと交戦中なのです」


「こ、交戦中!? そ、それは本当なのですか!?」


「は、はい。最初私らはフリック殿と敵対しましたが、その後負傷した私らを回復し、その時に、デボン村へ戻れば助けてくれる人がいると聞かされて鉱山から逃げ出してきたのです。ですからどうかお助けください。私らはただ、生活のための金が欲しかっただけなのです」



 男はノエリアの前に座り込むと地面に頭を擦り付けて謝り、自分たちを助けてほしいと懇願していた。



 この獣人たちはノエリアが言ってた外国人に雇われて働いてた人たちか。


 詳しい内容も知らされず、金だけを支払われて仕事をしていただけの人たちなのだろう。



 男の懇願を受けたノエリアは少し考え込む仕草を見せていたが、そんなことよりも、自分の好きな人が強大な敵と戦っていることに焦っている様子が見て取れた。



「しょ、承知しました。ですが、ラドクリフ家が鉱山で働いていた貴方たちを見逃すとは思えません。なので、この村で元の生活を送るのは無理でしょう。そこで、わたくしが父に書状をしたためますので、ユグハノーツ近郊に生活の拠点を移してもらいます。それであれば我が家の庇護下となり、ラドクリフ家も容易に手をだすことはできなくなると思いますので。幸い辺境伯領は無駄に大きくて土地も余っておりますしね」


「我々はユグハノーツに移住するしかないと……」


「ええ、現状ではこの村に住めば口封じされるだけかと」



 ノエリアの返答に鉱山から来た者たちから諦めのため息が漏れた。


 すると、マリベルと抱き合っていたマルコが娘を地面に降ろすと、鉱山の人たちの前に立つ。



「王国の重大事に関わってしまった以上、我々が生き残るためには辺境伯家の庇護を受け、ラドクリフ家の野望を阻止する助力をするしかないと思う。それが、連中に殺された同胞への唯一のたむけとなるはずだ」



 マルコがそう言うと、鉱山から来た者たちが次々に賛同していった。



「話はまとまりそうですね。では、わたくしが急ぎ書状をしたためます。アル様、実はお願いしたいことがございます」



 様子を眺めることしかできなかったあたしにノエリアが神妙な顔をして話しかけてきた。



「お願いですか? ボクにできることであればお手伝いはさせてもらいますよ」


「ああ、良かった。では申し訳ありませんが、この獣人たちを連れて我が父のもとまで送り届けて頂けないでしょうか」


「ラドクリフ家からの追手に対する護衛という意味でしょうか?」


「ええ、追手がかからないという保証はありませんし、彼らは色々と重要な証言者でもありますし、できれば腕の立つ護衛を付けてユグハノーツまで送り届けたいので。報酬は父が弾んでくれるはずです」



 たしかに彼らは、ラドクリフ家が叛乱を企んでいる重要な証言者の集団になるわね。


 一人だけなら揉み潰される可能性もあるけど、多数の証言者が集まれば、辺境伯様の言い分も信ぴょう性が増すということかしらね。



 情報交換の依頼を達成したらユグハノーツへすぐに帰ろうと思っていたので、ノエリアの依頼を断る理由は何一つなかった。



「分かりました。ノエリア様のご依頼を受けさせてもらいます。書状を受け取り次第、すぐにユグハノーツに向け出立いたします」


「休息も取らせてあげることもできず、このようなお願いをするのはとても心苦しいのですが……。ここはアル様に甘えさせてもらいます」



 それだけ言うとノエリアはすぐに元いた家に戻り、辺境伯宛の書状をしたため、あたしたちにその書状を手渡すと、そのままマルコさんが乗ってきた黒い巨馬に乗って鉱山に走っていった。



「ノエリア様を一人で行かせてよかったのですか?」


「ええ、ディードゥルが一緒なのでノエリア様なら問題ありません。それよりも、護衛の件よろしくお願いいたします。少ないですがこれは前払い金となります」



 旅の準備を終えたあたしに、スザーナさんが前金という形で革袋に入った金貨を手渡してきた。



 これだけの人数を連れて旅をするとなると、さすがに懐が寂しかったからありがたい。



「ご配慮いただきありがとうございます。では、ボクたちも夜になる前に出立をしようと思います」



 あたしはスザーナさんとデボン村の人たちに一礼すると、ユグハノーツに移住することを決めた獣人たちを引き連れて村を出立することにした。

次話フリック視点でインバハネス編は完結となります。


それと、本日出版社様より許可でましたので、発表をさせてもらいます。


書籍版第一巻が読者の皆様の応援により好評だったため、二巻の製作が決定しました。


これもWEB版とともに書籍版を応援して頂けた皆様のおかげであります。二巻も頑張って製作して参りますので今後も剣聖の幼馴染WEB版、コミカライズ版、書籍版への応援をよろしくお願いします。<m(__)m>

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― 新着の感想 ―
おいメイド、行かすなよ。メイド達の認識ではアビスウォーカーさんは付与した魔法剣以外は効果なしだべ。受け入れのために残れって言われて残ってたから、受け入れしたのでアビスウォーカーがいる鉱山に向かっていい…
[気になる点] 普通、アル達が向かうだろ? もう破綻しまくってるぞ。
[一言] ノエリアもだけどスザーナってバカなんですか?新型のアビスウォーカーには魔法が効かないということは知っているはずなのにディードゥルがいるからってノエリア一人だけで行かせるって。 ノエリアはまだ…
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