90:激闘
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「ランチャーも全部出せ! 反動も城壁に据えて十人がかりであれば抑え込めるだろ! 絶対に生きてあいつらを帰すな」
命令を受けた白いローブの連中は、アビスウォーカーの持っている筒と同じ物を要塞から持ち出してくると、城壁に据え始めた。
アレの数が増えると、かなり面倒だな。
とはいえ、アビスウォーカーたちを突破してあの要塞の城壁に辿り着くのは厳しいぞ。
そろそろ撤退する頃合いだろうか……。
数体アビスウォーカーを倒したものの、相手の戦意はいまだ衰えていない。その一方で、自分は魔力の底を感じられるほどには消耗している。
元々マルコを助けるのが目的であって、鉱山の連中を一掃する気で戦闘を開始したわけじゃなかった。
そのため、このまま戦闘を続けるべきか俺の中で一瞬迷いが生まれていた。
「フリック! あんた、これだけやって逃げようなんて思ってないでしょうね!」
迷っていた俺の肩にシンツィアの眼であり、口である鳥が止まった。
「シンツィア様!? いつの間に?」
「あん? あたしが来ちゃいけなかったの?」
「いや、そういうわけじゃ。ディードゥルやマルコ、それに逃げていった獣人たちはどうしたんです?」
「あー、あの連中ならちゃんとデボン村に行くように言いつけといたわ。ついでに旧廃坑から出てきた獣人たちは気絶させて縛り付けて逃げ出してきたやつらに押し付けたし。ちゃんと後処理してあるわよ」
「だったら、もう戦う理由は――」
「あんたねー、これだけ大規模な戦闘かまして、向こうの連中が『じゃ、お帰りください』って帰してくれると思うの? ムリよ、ムリ。連中は『ぜったいぶっ殺す』って勢いなんだから、逃がしてくれるわけないでしょ」
「ちょ、ちょっとシンツィア様」
それだけ言ったシンツィアはパタパタと飛び上がると、空中から現れたディモルに乗った本体を要塞の城壁の上に着陸させていた。
「翼竜に乗っていた戦士に侵入されたぞ! ランチャーに近づけさせるな! 守れ! 守れ!」
「こ、こいつも魔術師だ! 岩のゴーレムがっ! 武器が弾かれるぞ!」
「怯むな! 戦え!」
急降下してきたシンツィアとディモルの登場によって、城壁の上で作業をしていた白いローブの連中は混乱をおこした。
その混乱した状況をつき、シンツィアが作り出した岩のゴーレムが白いローブの連中を弾き飛ばして暴れまわってくれていた。
「フリック、下の連中は任せたわよ!」
「は、はい」
逃げる選択肢はない……か。
やるしかないようだ。
俺はディーレを握り直すと、幻影体とともにアビスウォーカーに挑むことにした。
「ディーレ、魔力切れするかもしれないが全力でいくぞ」
『承知しました。でも、マスターがぶっ倒れたらディーレの作ったゴーレムで逃走します!』
「いや、俺の魔力が尽きたらお前も休眠しちゃうだろ」
『そこは根性でなんとかしまっす!』
魔剣が根性って……。
なんか俺、育て方間違えたかもしれない。
インテリジェンスの欠片も感じない気がするんだが。
戦闘狂の気配を見せつつあるディーレに一抹の不安を感じながらも、俺はともにアビスウォーカーへ向かっていく。
指示を出していた白いローブの連中が混乱しているため、アビスウォーカーたちは自己判断できず立ち尽くしていた。
「キシャアアア!」
俺たちの接近に気付いたアビスウォーカーが威嚇の声をあげて襲いかかってくる。
鋭い突きこみが俺の頬を掠めていく。
他のアビスウォーカーも俺に気付いたようで、突きこまれる筒先の数が増えていた。
くっ、かわすのが精いっぱいか。
チラリと横目に見えた幻影体が駆け抜けざまにアビスウォーカーの胴体を薙いでいった。
「さすが俺の分身。助かる!」
『マスター、分身だけに活躍させるわけにはいきませんよ!』
「お、おう」
ディーレに発破をかけられて奮起した俺は、一旦距離を取って魔法の詠唱を始める。
「大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣」
剣に雷を纏わすと、向かってきたアビスウォーカーの目玉に向けて剣を突き立てた。
突き立った刀身から放たれた雷撃でアビスウォーカーの目玉が蒸発して消え去ると、次に頭がはじけ飛んで消えた。
その後、魔力が続く限りアビスウォーカーと戦い続け、最後の一体を倒した時には幻影体も魔力を使い果たして消え、俺自身も昏倒寸前まで魔力を消費していた。
「はぁ、はぁ、なんとか……倒した……ようだ」
『マスター、魔力がもうなくなりかけてます。もう、休んでください……ディーレも消費を抑えるためにちょっと休眠します……』
俺の魔力残量が少ないことを察したディーレの魔石から光が消え失せていった。
「すまないな……さすがに俺もきつい……」
回復する魔力すらなくなったため、アビスウォーカーから受けた身体中の傷からは血がしたたり落ち、今にも崩折れてしまいそうだった。
さすがに十体はきつい……。
こんなのが百体も二百体も出てきたらと思うとゾッとする。
第二の大襲来を引き起こさないためにも、俺はもっと強くならないといけないようだ。
要塞の上で白いローブの連中のリーダーを捕まえたシンツィアが手を振るのが見えたが、そこで俺の意識は喪失した。
次話はデボン村でお留守番中のノエリア視点となります。
今週は土日更新しますので、明日も12時更新をお待ちください。







