88:アビスウォーカーたちの猛攻
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「アビスウォーカー!? もう出てきたのか!?」
走ってきているアビスウォーカーは、例の爆発する火球を撃ち出す筒をこちらに向けて構えていた。
射線を示す赤い光が、俺や俺の作り出したゴーレムたちの身体を這いあがってくる。
やばい、来る!
あんなのを喰らったら一発で動けなくなる。
赤い光が身体を這いあがってくるのを見て、俺は即座にその場から離れた。
次の瞬間――
俺がさっきまでいた場所に赤黒い爆発の炎が噴き上がり、地面が抉れて消えていた。
『マスター! ゴーレムたちが』
「ああ、見事に吹っ飛んだな……。仲間ごと吹き飛ばすとは思わなかったけどな」
俺の創り出したゴーレムたちと戦っていた獣人たちが爆発に巻き込まれて、多数の怪我人が出ているのが見えた。
一方で白いローブの連中はアビスウォーカーの持つ武器の威力を知っていたようで、ゴーレムから距離を取って無傷でいる。
「かわされたぞ! アビスウォーカーにもっとよく狙わせろ! 獣人どもはいくら巻き込んでも構わん!」
白いローブを着た連中の中で、一人だけ顔まで白い布で覆った男が、部下と思われる者に指示するのが聞こえてきた。
獣人の命はどうでもいいってことかよ。
あの連中……人としての良心を持ち合わせてないのか。
チラリと怪我をした獣人たちの方へ視線を向ける。
片腕や片足を失いのたうち回る者、顔に破片を受けて目が潰れた者、腹部に大きな穴が開いて血が大量に流れ出している者、そんな重傷の者たちが叫び声を上げていた。
あのまま放置しておくってことはできないよな。
獣人たちは、白いローブの連中にいいように使われていただけだろうし。
俺は怪我をした獣人たちを助けることに決めると、アビスウォーカーたちの視界を奪うための魔法を詠唱していた。
「闇霧、集めし魔素よ! 黒き霧と成りて我が身を隠せ!」
俺の手から発生した密度の濃い黒い霧は一気に周囲に広がって、全ての光源を飲み込み、辺りは光の闇に閉ざされた。
『真っ暗です! 何も見えないですよ、マスター!』
「支援魔法には色々と便利なのもあるってことさ。暗視、集めし魔素よ! 闇夜を見通す眼となれっ!」
詠唱を終えると、闇に閉ざされていた世界に人の姿が淡い白を纏って浮かび上がる。
それが俺の視界を通じてディーレにも見えているはずだった。
『見えました! 便利ですね。この魔法も今度成長したらノエリア様に教えてもらいます! 見える、ディーレにも見える!』
これでアビスウォーカーたちもむやみにあの火球を放てないはず。
その間に獣人たちを治療をしておくか。
あの怪我、血止めくらいじゃマズい人たちが多数いたよな。
ノエリアに習った回復魔法で最大級の範囲魔法とか発動させた方が良さげだ。
「再生の息吹、集めし魔素よ! 新たな生命の息吹と成りてかの者たちを癒せ」
闇夜の中で白く浮かび上がる怪我人たちに向け、今の俺が使える最大の威力の範囲回復魔法である再生の息吹を発動させた。
発動した魔法は、痛みでのたうち回る獣人たちの傷口を塞ぎ、痛みを一時的に麻痺させると、魔力によって強制的に高められた自然治癒力で失った血を大量に作り出していく。
「痛みが消えた!?」
「血が止まったぞ!」
「けど、身体が動かないし、猛烈に腹が減っていく気がする」
叫ぶのをやめた獣人たちは傷が回復していく状況を口にしていた。
身体の欠損は治してやれないが、これで出血多量で死ぬことはないはず。
あとは獣人たちを説得してこの場から逃がすか。
すでに闇霧の効果は薄らいできており、アビスウォーカーたちの攻撃が再開されるのは時間の問題だった。
「これ以上戦闘に巻き込まれたくなかったら、仲間を連れてこの場から逃げろ。通路の出口から出れば俺の仲間が守ってくれるはずだ!」
通路の出口ではシンツィアとディモルが、旧廃坑から出てきた獣人たちを撃退してくれているはずだった。
獣人たちは去就を決めかねていたが、やがて一人が仲間を担いで通路の出口に向かうと、他の仲間もそれを見て後に続いていった。
「ふぅ、これで獣人たちが巻き込まれることもなくなったな」
獣人が逃げ終えると、ちょうど闇霧の効果が切れ、通常の視界が戻ってきてた。
「目くらましの間に獣人どもは逃げ出しおったか。まぁ、肉の壁か水晶を掘るくらいしか役に立たぬ連中だからどうでもいいが。足を引っ張る者がいなくなった今が好機。アビスウォーカーたちに全力であの男を殺せと命じよ」
顔まで白い布で覆った男が再び部下らしき者たちに指示を出し、アビスウォーカーをけしかけてくる。
ゴーレムが消えたので、十本の赤い光が全て俺に向けられていた。
『マスター、どどど、どうしましょう!』
「どうもこうも、獣人とマルコ殿が無事逃げ切るまでやるしかないだろ」
俺は身体強化魔法を発動させると、次々に放たれた火球をギリギリでかわし、アビスウォーカーたちに近づいていく。
「大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣」
アビスウォーカーたちとの間合いを詰めると、ディーレに稲妻剣の雷光を纏わせる。
接近戦に持ち込まれたアビスウォーカーたちは筒状の物を構え直すと、俺に向かってものすごい速度で突き出してきた。
くっ! 反応が早い!
さすが強化されたアビスウォーカーだ。
身体強化してても、ギリギリ避けられるくらいか。
繰り出された刺突をかいくぐり、雷光を纏ったディーレを最前列のアビスウォーカーの胴に叩き込む。
身体に触れた雷光が全身を駆け巡り、アビスウォーカーは感電したようにビクリと身体を震わせ、筒状の物を取り落としていた。
『痺れてます! マスター!! 追撃しますね! ■▲〇※■▲〇※!』
アビスウォーカーの胴体に食い込んでいたディーレが眩い光を発したかと思うと、再びアビスウォーカーの胴体に光が走った。
「ウギギギギ」
痺れているアビスウォーカーが裂けた口から悲鳴にも似た声を絞り出す。
そんなアビスウォーカーから剣を引き抜くと、再び魔法剣の詠唱を始める。
「次で決める! 大気に漂う数多の雷よ、わが剣に宿りて大いなる稲妻となれ。稲妻剣」
「キシャアアア!」
腹からボトボトと緑の血を流したアビスウォーカーは、威嚇するように大きく裂けた口を開いて叫んでいた。
「うぉおおおっ! こいつでトドメだ!」
雷光を纏ったディーレを、アビスウォーカーの一つしかない大きな目の中央に向けて突き立てた。
突き立てたディーレから発生した雷が目の周りを迸ると、大きな眼球は膨らみ破裂し、ドロリとした液体を周囲にぶちまけていた。
「やったぞ!」
眼球を失い、動きを止めたアビスウォーカーから剣を引き抜くと、どさりと地面に倒れ込んだ。
『マスター! 次が来ますから! 余裕ぶってる時間ないです!』
一体倒したところで、残る九体の戦意は衰えを見せておらず、俺の隙を突こうと背後から迫ってきていた。
「ええい! たかが魔法剣士一人に何を手間取っておる! ランチャーを使え! アビスウォーカー同士なら当たっても軽微な損傷で済むだろうが! 我らが首領からこの基地の存在を探る者は全て消せと厳命を受けておるのだぞ!」
アビスウォーカーの攻撃をかわしつつ戦っていると、白い布で顔まで覆った男が俺をどうしても殺したいようで、喚き散らしているのが聞こえてきた。
すぐに男の部下たちが、アビスウォーカーたちに指示を出すのが見えた。
もしかして、戦っているアビスウォーカーたちは自己判断ができないのか?
指示を忠実に実行するだけの操り人形みたいなものなのだろうか。
そんなことをふと考えていると、ディーレの警告で我に返った。
『マスター! 赤い光!』
「おわっ! な、なんだ! こいつら俺を逃がさないつもりか!」
アビスウォーカーが三体ほど俺の身体にしがみつくと、逃げないようにガッチリと掴んできた。
そして、赤い光が俺の身体に向かって這いあがってくる。
次の瞬間――
別のアビスウォーカーから放たれた火球が、俺に向かって一直線に飛んでくるのが見えた。
本日も更新を読んで頂きありがとうございます<m(__)m>
書籍版もたくさんの方に購入して頂けるようで、作者としては嬉しい限りです。
WEB版ともども書籍版もよろしくお願いいたします。







