８７：脱出への布石

「ブルフィフィーン！！」

　ディードゥルが大きな鳴き声でいななくと、巨大な蹄で大地を踏みしめた。

　その振動によって、周囲を取り囲もうとしていた獣人たちや、白いローブを着た者たちの人垣が割れる。

　割れた人垣にディーレが作った土のゴーレムが躍り込み、さらに人垣のほころびを大きくしていた。

「マルコ殿！　逃げますよ！」

「フリック殿！？」

　俺は囲まれていたマルコをディードゥルの上に引き上げると、割れた人垣を縫うように駆け抜けていく。

　最悪、マルコだけでもディードゥルに乗せて離脱してもらうのもありか。

　俺一人なら魔法と剣でなんとでもできるはずだろうし。

　けど起きてると、きっとまた戦おうとするだろうな……。

　追ってくる白いローブの連中を口惜しそうに見ているマルコの顔が見えた。

「すまない、マルコ殿。貴方に死なれるわけにいかないのです。眠りを誘う雲となり、周囲に発現せよ。睡眠の雲(スリープクラウド)」

　効果範囲を極限にまで絞った睡眠の雲(スリープクラウド)の雲をマルコの顔面に発生させた。

「フリック殿！？　何を――」

　睡魔に襲われ、意識を失ったマルコの身体が落とされないよう、ディードゥルの身体に縛り付ける。

「ディードゥル、すまんが全速力でマルコ殿を村まで送り届けてくれ」

「ブルフィフィーン？」

　追手の追撃から逃げているディードゥルが『お前はどうする』と問いかけてきた。

「追手を撃退する。ディーレもいるし、逃げる時はディモルも呼ぶから俺のことは心配するな。ちゃんとシンツィア様も回収していく」

「ブルフィフィーン！」

　俺の言葉を聞いたディードゥルが『分かった』と言いたげに首を大きく上下させた。

「じゃあ、任せた！」

　ディードゥルから飛び降りると、俺はディーレを構えて追手の前に立ちはだかる。

「ディーレ、土のゴーレムで援護を頼む」

『承知しましたー！』

　ディードゥルの背後を追走していた土のゴーレムをディーレが操り、追手に向かって突撃させた。

「わが魔素(マナ)をまといて、人の姿となれ。傀儡人形(サモンゴーレム)」

　追手を封じるため、俺も傀儡人形(サモンゴーレム)を発動させ、十数体のゴーレムを創り出していた。

『マスター……あれって、ご自身です……よね？』

「そうだよ！　造形に関してはまだ練習中だから！」

　ディーレから突っ込まれたゴーレムの造形はもっと練習しなければならないと思う姿だった。

「うわっ！　なんだこれ！　気持ち悪いぞ！」

「化け物が出てきた！」

「こ、こいつ意外と強いぞ！　がふっ！」

　造形に失敗し、まるでゾンビのような見た目のゴーレムたちが、追手として追撃してきた獣人や白いローブの連中を次々に叩き伏せていく。

　それでも尚、追手は出口に通じる通路へ殺到してきていたので、俺は範囲魔法で相手を無力化させることにした。

「眠りを誘う雲となり、周囲に発現せよ。睡眠の雲(スリープクラウド)」

　発生した白い雲が集団の中央で広がっていくと、バタバタと地面に倒れ伏していく。

『マスター！　この前の美味しくないのがいっぱいきます！』

　ディーレが警告を発したことで、視線が奥の要塞の方へ向いた。

　そこには野営地跡を襲ってきたアビスウォーカーの姿が十体はおり、その手にはそれぞれ筒状の物を持っているのが見えた。