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【書籍完結&コミカライズ化】【本編・外伝完結済】剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく当たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。(WEB版)  作者: シンギョウ ガク
獣人都市インバハネス編

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86:窮地

誤字脱字ありましたら誤字報告へ


「な、なんだ! 急に何か出てきたぞ!」


「土人形だ! ごふっ――」


「お、おい! 大丈夫か! げはっ――」



 シンツィアの作り出した巨大な土のゴーレムが、マルコの後を追おうとしていた獣人たちを大きな手でなぎ倒していく。


 いちおう相手が死なないようには手加減してくれてるようだけど、あれでは防具を固めていたとしても、あの一撃を喰らえばタダではすまない感じだった。



「おいたする獣人たちはあたしが止めておいてあげるから、フリックはマルコを連れ戻してきなさいよね」



 ディードゥルから降りたシンツィアの本体である全身鎧は、自らが作り出した土のゴーレムの肩に乗ると、さらに暴れまわり始める。



「シンツィア様、ほどほどにしておいてくださいよ。あんまり暴れすぎて――って、もう手遅れですかね。これって」


「手遅れだと思うわよ。鉱山の連中は完全にあんたが乗り込んできたと思ってるだろうから」



 マルコを助けに来ただけなんだが……。


 この状況では、マルコに先導してもらった俺が、鉱山に乗り込んできたと思われてもしょうがないか。



「とにかく、怪我人はあまり出さないでくださいね。危なくなったらディモルが離脱を手伝ってくれると思うんで、その時は大人しく逃げてください。頼んだぞディモル」


「クェエエ!」


「はいはーい。ちゃんと手加減はしてあげるわよ」



 俺はそれだけシンツィアに伝えると、ディモルから飛び降り、ディードゥルの背に跨ると、マルコの入っていった通路へ駆けこんでいった。


 侵入した通路は旧鉱山の廃坑を利用しているようで、ところどころに横穴がチラリと見えたが、通路の中は出口に向かって、見たこともない明りが整備されていた。



 鉱山の連中は異国人ということだが……。


 それにしても、まったく見たこともない技術を使ってるみたいだな。


 アビスウォーカーが持ってた筒状のものも、結局使い方が分からないってライナス師は言ってたし。



 通路内部の明かりを見て、アビスフォール近郊で戦ったアビスウォーカーたちが、ものすごい攻撃力を持った武器を持っていたことを俺は思い出していた。


 やがて通路の終わりが見え、そこをくぐり抜ける。


 すると目の前には、切り立った山と山の間にある断崖の内部を繰り抜いて、鉱山で働く鉱夫たちの住む集落や、異国人たちが住んでいるらしい要塞の姿が目に飛び込んできた。



「これは……上空からは集落の姿が見えないわけだな」



 情報収集がてら一度だけディモルに乗って、かなりの高度からラハマン鉱山を偵察していた。


 だが、その時は新鉱山の場所や、それらしい要塞の場所を特定できずにいたのだ。



「ブルフィフィーン!」



 出口で呆けていた俺を叱咤するようにディードゥルがいななく。


 前方ではすでに、先行していたマルコが馬を降りて、白いローブを纏った連中と剣を交えていた。



「マルコ殿!!」



 俺の声に気付いたらしいマルコが来るなと言いたげに手を挙げて制止していた。



 来るなっていう状況じゃないだろ。


 相手は二〇人近いんだぞ。



「ディーレ、ディードゥル! 悪いが暴れるから手助けよろしく頼むぞ!」


『で、出番ですか! 頑張ります! とりあえず、■▲〇※■▲〇※!』



 鞘から抜いたディーレがやる気を迸らせ、何かの魔法を詠唱していた。



『シンツィア様からコツを教わって習得しました。どうです? マスターにソックリな出来だと思いませんか?』



 ディーレが詠唱した魔法は傀儡人形(サモンゴーレム)だったようで、ディードゥルに乗った俺の姿を完全に模写した形に仕上がっていた。



 俺の作ったゴーレムより造作が上手いな。


 ディーレは意外と芸術家っぽいんだろうか。



「たしかにそっくりだな。外套を羽織って顔を隠せば――って、そんなことを言ってる暇はない。いくぞ」


『これでも、ノエリア様にはとっても褒めてもらえたんですよー』


「ブルフィフィーン」



 ディードゥルが俺の意志を勝手に汲んで、マルコの下に駆けだしていく。


 その俺たちの後を追うように、ディーレの作り出した土のゴーレムも一緒に駆けだしていた。



「マルコ殿!」



 白いローブを着た連中と切り結んでいたマルコの前に、俺はディードゥルの巨体をねじ込ませる。


 ディードゥルは近寄ってくる白いローブを着た連中に噛みついたり、足蹴りを繰り出して近づけさせないようにしてくれた。



「フリック殿、止めないでください! こいつらが私の仲間と娘を……」



 憎しみの炎が目に宿ったマルコの叫びに、俺はかける言葉を見つけられずにいた。



『マスター、とりあえずあっちを暴れさせますね』


「ああ、すまない助かる」



 マルコの扱いに戸惑っている俺を見て、ディーレが自分の作り出したゴーレムを白いローブの集団に突っ込ませていた。



「ここに侵入されたからには生かして帰すなとの命令が下っている! すぐにアビスウォーカーたちを起こせ!」


「承知しました。すぐに起動準備します!」



 要塞の上の方にいる、あの顔まで白い布で覆った男が、この鉱山を仕切ってるやつか。


 アビスウォーカーを起こせって言葉が聞こえたが、やっぱりこの鉱山にいる異国の連中がアビスウォーカーを使役しているというのは間違いなさそうだ。


 けれど、この状況であのアビスウォーカーが大量に出てきたら……。



 すでに騒ぎは大きくなっており、俺とマルコの周囲には白いローブを着た連中だけでなく、鉱山で働く獣人たちまでが、手につるはしを持って取り囲んできていた。


本日も更新を読んで頂きありがとうございます。


色々と絡み合ったインバハネス編も今週である程度まとまる予定で書いておりますので、楽しみにお待ちいただけると幸いです。


書籍の方もたくさんの方に購入して頂けているようで、作者としてはとても嬉しくて転げまわって五体投地しております<m(__)m>


一巻が無事仕上がって発売できたのも、出版社やイラストレーター様、その他もろもろ製作に関わってくれた方のおかげもありますが、その前にWEB版で誤字脱字を指摘してくれている方や感想をくれる方、もちろん応援いただけているすべての方の協力があって発売できたと思っております。


今後、コミカライズも開始されますのでそちらも応援して頂ける方が満足できる作品に仕上がっていくようにコミカライズ担当の漫画家さん、編集さんとも話合っていいものを作って行こうと思っております。コミカライズ版も期待しておまちください。

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