10:魔法の威力調整法は剣士流
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ノエリアとともに昨日魔法の練習をしていた郊外の森に来ていた。
目の前には昨日失敗したことでできたいくつもの大穴が開いており、まだ底の方では煙がくすぶっていた。
これだけの規模で魔法を行使すると大規模魔法って言われてしまうんだな。
ああならないよう、きちんと自分で威力を制御できるようにしないと。
俺はここに来るまでの間にノエリアから聞かされた矯正法を試したくてうずうずしていた。
「フリック様、道中で申し上げた通り、貴方様の大きさへの認知の歪みを直すには、対比物を思い浮かべることが有効だと思われます」
「とはいえ、俺は剣で生きてきたからな。ノエリアが提案してくれた杖の長さの基準はやはりしっくりこないと思うぞ」
ノエリアが教えてくれたのは、魔法を発動させる際、大きさを確定するのに杖の長さを基準に想像しろというものだった。
ちなみに火の矢は、魔術師が使う短杖一本分だそうだ。
その長さを即座に思い浮かべれば、けた外れの威力にはならず、既定の威力で発動するらしい。
俺はノエリアが手渡してくれた予備で使っている短杖を眺め、その長さを目に焼き付けていた。
「そう言われましても……指南書にはそう書かれておりましたし。それに短杖は魔力の消費を抑えてくれるので魔術師には必須なのです。昨日はフリック様の異様な魔法の行使で失念しておりましたが、普通は杖を使って発動させるのが一般的なのですよ」
「そうなのか? 使わなくても発動してたが」
「あれはフリック様が異常なほどの魔力をお持ちだから発動していたんです。わたくしも中級くらいまでなら杖なしでも発動できますが、上級の大規模魔法の連発は無理ですよ。いちおう、その杖を使い、その長さを基準に大きさを想像してみてください」
ノエリアほどの魔術師でも、杖なしでは上級を行使できないのか。
意識してなかったとはいえ、あらためて自分のやったことを考えると、バケモノクラスの魔力持ちってことになるようだ。
「ふむ、一回試してみるか。『熱く燃えたる矢となりて我が敵を貫け』火の矢」
短杖を目標にした木に向けると、魔法を発動させる。
短杖一本分、短杖一本分っと。
たしかこれくらいの長さだったはず……。
発動する魔法の威力を制御するため、先ほど見た短杖の長さで火の矢を想像した。
シュゴウッ!
また、間違えた……!?
けど、昨日よりは心なしか小さくなった気がするぞ。
隣で見ているノエリアは、着弾の衝撃に耐えるため、地面にかがんで風をやり過ごそうとしていた。
「すまん、昨日よりは小さいが――」
「たしかに、でも――」
撃ち出された火の矢もどきが、目標の木に着弾して発生した風が乱暴に吹き抜けていった。
「まだ、威力がでかいな……」
「ですね。……短杖では長さの固定化ができませんか……」
「ああ、短杖が剣の刀身だとすれば、刀身の長さは間合いに関係するから俺でも完璧に想像できるんだが……」
短杖を持って悩んでいた俺の手をノエリアが引いた。
「今なんと言いましたか?」
「え? だから、この短杖が刀身の長さなら、剣士の俺でも完璧に長さの想像ができるなって。剣士にとって刀身は自分の腕の延長だし、使う剣の長さは正確に覚えてるんだ」
「剣の刀身なら完璧に長さを想像できるんですね?」
「ああ、そうしないと相手に剣の刃が当たらないからな。そんなの当たり前だろう」
「盲点でした。そう言えばフリック様は剣士。そちらを基準の対象物にした方が、威力が調整しやすいはず。刀身の長さを大きさの基準として使ってみれば、威力が矯正できるかもしれません」
ノエリアは俺が使っている安物の剣を指差し、それを基準に魔法を発動させてみればと提案していた。
それなら、大きさの目安は想像しやすいな。
そっちでやってみるか。
「分かった。やってみよう」
俺は腰の剣を抜くと、呪文を唱え始めた。
「『熱く燃えたる矢となりて我が敵を貫け』火の矢」
たしかノエリアの撃ち出したやつは刀身一本半くらいのはず。
これなら、すぐに想像できるぞ。
刀身換算にすると、即座に大きさの想像ができた。
そして、手にした剣を目標とした木に向けた。
シュパンっ!
剣先から撃ち出された火の矢は、ノエリアが撃ち出したのと寸分たがわぬ形と大きさで目標の木に刺さり燃やしていた。
「で、できた! ノエリア、できたぞ。これは火の矢だろ?」
「ええ、見事に制御された火の矢です。やはりフリック様は刀身の長さ基準での方が良いみたいですね」
ノエリアも命中して炎上している木を見て、満足気な顔をして喜んでいた。
俺も無事まともな魔法を発動させられたことにホッと安堵していた。
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