83:ある獣人の告白 前編
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頭を上げたマルコは淡々と自分の知っていることをしゃべり始めた。
「私は家族を連れてこのデボン村を出た後、ラハマン鉱山で数年間水晶を掘り、鉱山の近くにある集落で生計を立てておりました」
鉱山で働いたことのある村人たちから、要塞のような場所の中に、作業員たちが生活をする集落があるとは聞き出していた。
「でも、鉱山を仕切っている組織から『もっと稼げる場所へ行く気はないか』と言われ、妻と娘にもっといい暮らしをさせてやりたいと思い、とある場所で施設の修繕を手伝っておりました」
鉱山にいたと思っていたマルコだが、どうやら彼は、村人が大勢行方不明になっている場所にいたようだ。
「とある場所って、もしかしてユグハノーツにある魔境の森の奥のアビスフォールだろうか?」
俺の問いにマルコの顔色が一瞬で変わった。
「なぜ、フリック殿が知っておられるのですか!? あそこから帰った者はいないはずなのに!」
「それは――」
「わたくしの父である辺境伯からそのような報告が来ているからです。アビスフォールの地下に謎の施設があると」
「辺境伯様が……あの施設の情報を……そうですか……」
「ええ」
マルコが天を仰ぐように視線を空中に向けていた。
「では、鉱山に居座っている連中が、ハートフォード王国の人間ではないということも知っておられるということでしょうか?」
「えっと、ちょっと待ってくれ。それってどういう意味だい?」
「彼らは王国外から来た連中ということです。公用語こそ喋りますが、聞き慣れない言葉も使っていましたから」
マルコから思わぬ情報がもたらされていた。
近衛騎士団長ジャイルと繋がっていると思われる鉱山の連中が、王国外の人間の集団だと言うのだ。
「王国外の人たちだって……」
「ええ、見た目はフリック殿たちと変わりませんが、全く聞いたことのない言語を身内同士では使います。それにあの施設は、今の王国では作ることのできないほどの技術が駆使されておりましたので」
「なんの目的でそんな施設を?」
「それは私にも分かりません。ですが、彼らは必死にあの地下施設を直しておりました。チラリと聞いた話になりますが、『もう一度扉を開く』とかどうとか言っていたというのを、一緒に働いていた獣人から聞いたことはありましたが」
「扉……」
その王国外の連中が開こうとしている『扉』。大襲来が発生した場所であることを勘案して、不穏な気配を感じていた。
「ええ、何かを開くための施設らしいとまでは私も察してはいたのですが……。口外すれば命は保証しないと言われておりましたので」
「高額な報酬は口止め料込みということか」
「はい、でもそれは連中の嘘でした。やつらは連れていった獣人を生かして帰すつもりは毛頭なかったのです」
マルコは自分の身体に巻かれた包帯を触り、悔しそうな顔をした。
「その傷は施設に居た連中にやられたということか」
「ええ、奴らが急に施設を引き払うから外に出ろと言い出して……それに従ったところ、彼らが連れていたアビスウォーカーに背後から襲われました。気付いた時には暗い部屋の中で、仲間の死体の下で大怪我を負っておりました」
「ちょっと待ってくれ。その施設にはアビスウォーカーが居たのか?」
「はい、鉱山にも数体見かけました。普段は不気味な鎧を着て人のように見せかけてますが、その鎧を脱いだ姿は紛れもなくアビスウォーカーでした」
繋がらないでほしいと思っていた線がマルコの証言によって繋がってしまった。
鉱山に居座る連中はアビスウォーカーを使役する技術を持つようで、そんな連中と近衛騎士団長であるジャイルが繋がっている可能性が非常に高いことが判明した瞬間だった。
だとすると、俺たちが倒したアビスウォーカーはアビスフォールに居た奴か。
すみません。後編も本日19:00には上げます。
本日、書籍版剣聖の幼馴染がパワハラで俺につらく当たるので、絶縁して辺境で魔剣士として出直すことにした。が発売いたしました。WEB版は現在シリアス路線ですが。書籍版はWEB版ユグハノーツ編を再構成して改稿し、ノエリア視点増量しております。
WEB版を読んだ方でも楽しめるようには作れたと思いますので、本屋等で見かけましたらご購入して頂けると幸いです。
電子書籍版も一足先に配信となりましたが、けっこう買って頂けているようで感謝しております。/)`;ω;´)あざっす。







